レジェンド世代のTom、背中を追いかけるヨダソウマ 2世代が重なり合う濃密な「ぷよぷよ史」

──「ぷよぷよ」を始めたきっかけと、その後の関わりについて教えてください。
Tom選手(以下、Tom) 3歳のとき、スーパーファミコンの「す〜ぱ〜ぷよぷよ」を買ってもらって以来、29年のぷよぷよ歴になります。「す〜ぱ〜ぷよぷよ」は相殺システムのないシンプルなゲームでしたが、3歳の僕にとっては初めてのゲームで、サタンまで倒すのに苦労しました。
連鎖をつなげればつなぐほど威力が高まって、練習すると連鎖数が伸びて強くなり、自分が上達していく感覚が面白かったのは、今でも覚えています。
その後は、学生時代はもちろん、就職してからも仕事帰りに練習を続けてきました。純粋に強くなりたい思いで技を磨いた結果、実績も重ねることができ、2018年にプロライセンスをいただきました。10人もいなかった初期メンバーでしたね。
ヨダソウマ選手(以下、ヨダソウマ) 僕が初めてプレイしたのは、4歳か5歳のときです。父のパソコンにWindows版の「ぷよぷよ」が入っていたのがきっかけですね。
最初の頃は、コンピューター対戦ばかりしていました。キャラクターごとに動きも個性があるので、全部のキャラと対戦しようというモチベーションでやっていました。ただ、小学校に入ると「友達と対戦しよう」となるのですが、僕のほうが圧倒的に強くなってしまっていて……。
そこで編み出したのが、「オリジナルキャラになりきってハンデをつける」という遊び方。「ぷよぷよ」はキャラクターのまんざいデモが最初にあって、その後対戦が始まるのですが、自由帳に自作のまんざいデモを書いて、その架空のキャラクターになりきりました。コンピューターのように規則的な連鎖や決まったパターンを決めて、その通りに動くハンデを自分につけていましたね。
15歳くらいのとき、友人に「君は、『ぷよぷよ』の天才だから絶対最強になれる」と言われてレート戦を試してみました。全く手の届かない世界だと思っていたのですが、やってみたら勝率5分くらいで、何かに熱中したいと漠然と思っていた中、これは「やったほうがいいな」と自分の道が見つかった気がしました。
──ご自身の「ぷよぷよ」史において、印象深い出会いはありましたか?
Tom 現在解説を一緒にしているmomokenさんは良きライバルです。同い年だったこともあり、学生の頃からお互いにしのぎを削って競争していたのが、僕の「ぷよぷよ史」の中でも印象深いです。
2011年には全国1位を決める「ぷよぷよ通S級リーグ」が開催されました。当時3強と言われていたくまちょむ選手、ALF選手、Kamestry選手に、momokenさんと僕の二人が加わり、「誰が1番強いのか決めようじゃないか」となったんですね。
結果は、momokenさんが優勝。僕は一歩及ばず2位でした。momokenさんは集中力というか、実力の持って行き方が群を抜いていて、momoken伝説が始まったのはそのときから。伝説が始まるその瞬間に立ち会えたという感じです。
ヨダソウマ 高田馬場に「ミカド」というゲームセンターがあり、2013年ごろは「ぷよぷよ」対戦会がよく開催されていました。夜遅い時間になると、「レジェンドプレイヤー」のくまちょむ選手が現れて、僕は「本物だ!」と興奮して握手してもらったんですよね。
それで対戦を後ろから見ていたのですが、そのときのくまちょむ選手の身のこなしがすごく熟練されていたんですよ。50円を入れてから設定選択して、ゲーム開始までの動作がえげつないくらい早い。ゲームが始まってからも操作が打楽器のようにリズムカル。連鎖を打った後にはいったん席を下がって足を組んで眺めている。連鎖が終わるとまた戻って打ち込むという。それでいてプレイが強いんです。
とにかく衝撃でした。そこでこのゲームセンターで1番くらいには強くなりたいという思いで成長して2019年5月の「ぷよぷよカップ SEASON2 5月大会」でベスト4になり、プロとなりました。
──お二人の得意技を教えてください。
Tom 同時消しや連結を駆使した、短くて強い攻撃が得意です。個人的に、一番上手いんじゃないかなと思うのは「イバラ」と呼ばれる攻撃です。
「イバラ」は、およその定義としては、2色10個以上の大量同時消しで、特に12個以上だと威力があります。2段から3段の「おじゃまぷよ」を降らせるので、一撃必殺と言われています。一連鎖なので、時間がかからないのに、威力が出るのでほとんどの場合は刺さって勝つことができます。その「イバラ」を作って打つ、という技術が他のプロプレイヤーと比べても上手いと思います。配色に支配されるので毎試合は難しいですが、構えて狙っていくという姿勢が大事ですね。
ただ、最近は相手の動きにあわせた「待ち」のスタイル。つまり、きれいな形を維持して有利をつかみ取るような方向で練習して上手くなりたいなと思っています。
ヨダソウマ 周りからどう分析されているかは分からないですが、相手のフィールドを荒らすのは得意だと思います。
「おじゃまぷよ」を送ったり、威圧的な構えをしたいるすることで、相手に普段通りとはいかない立ち回りを要求します。お互いフィールドを辛い状況にしあって、刹那のタイミングを刈り取って勝つ、というパターンが増えました。
相手からしたら、すごく嫌ですよね。自分も自分とは対戦したくないです。「そんなの打ってくるの?」っていう。
でも、そうした変則プレイも、自分の中には明確な有利不利の教科書があって、それはこれまでの研究から得られたものなんです。雑なプレイと見誤って考えなしに対応していくと、いつの間にか不利になっている、という状況に相手は遭遇することになると思います。とはいえ、これは連鎖構築が上手くいってないときにすることなので、本当はそういうプレイはしたくないです(笑)。
──ヨダソウマ選手は、GAMEクロスのゲーマー名鑑の「好きなプレイヤー」にTom選手をあげています。Tom選手のどんなところが好きですか?
ヨダソウマ 僕は1997年生まれですが、90年代半ばから後半生まれの「ぷよぷよ」プレイヤーは全員momokenさんとTomさんのプレイを見てきたといっても過言ではないと思います。特に、2011年に全国1位を争っていたころや、その前後は「2強」のイメージが強かったです。
そんな2人ですが、momokenさんの場合は、強いことはわかるのですが、真似をするには高度過ぎて、わからないタイプのプレイ。一方、Tomさんは、明確にこうしているから強い、という理論的な強さがあって、積み方や立ち回りをまねさせてもらいました。「好き」というよりは、「影響を受けた」という意味合いですね。
Tom 僕が活躍していた2011年ごろに中学生くらいだった世代は、今は20代前半から半ばくらい。その辺の世代からは「Tomさんの動画見ていました!」と言ってくれることが多いです。
ただ、一言に「見ていた」といっても結構二分されます。結構当時は、おもしろ動画を投稿していたので、「あのモノマネみていました」という方もいて、競技者と芸人、五分五分ですね。
ヨダソウマ選手 「タルタル」(「ぷよぷよフィーバー」で初登場したキャラクター)のモノマネの動画は激震でした(笑)。
Tom 大会の実況をしていたとき、ふざけて撮ったのが大ヒットして。「『タルタル』といえば、Tomさん」って感じで、いまだに言われます。
──盛り上げ上手のTom選手は解説者としても活躍されていますね。
Tom 実はプロ制度が始まる前から大会実況をしていて、しゃべるのがだいぶ得意になりました。ゲーマーにとっては、ゲームが一番大事なので、解説や話す技術は二の次になりがちですが、僕はどっちもできたので、公式大会が開かれるときに解説を任せていただきました。
ただ、解説すると選手として出られないのが難点。僕の場合は、どっちもトップレイベルの自負があり、昨年12月の「ぷよぷよチャンピオンシップ SEASON4 STAGE3」は久しぶりに選手として出場しました。戦いたい、というときは選手として、一歩引いて全体を見渡したい、というときは解説として、という感じで使い分けていますね。
──お二人の、今後のプロとしての方向性を教えてください。
ヨダソウマ 僕は昔から、「ぷよぷよ」の対戦や戦術の歴史が好きなんです。最近も、90年代に廃刊になったゲーム雑誌を中古で購入して、初めて階段積みを紹介した記事を見つけました。今は知って満足している状況ですが、今後はその面白さを人に伝えていきたいですね。
たとえば解説席にいるTomさんとmomokenさんはどういうストーリーで強くなったのか、もしくはどう戦術を編み出して取り入れていったのか、あるいは当時の全体としてはどういう雰囲気だったのかとか。魅力的ですよ、「ぷよぷよ」の歴史は。
Tom これまで100回以上の大会解説をやってきましたが、僕の解説を聞いて「分かりやすい」とか「面白い」と言ってくださる方が増えてきました。先日も「こんなに熱い戦いが見られるなんて、解説も面白くて白熱しました」とコメントを頂戴して嬉しかったんですよね。
「ぷよぷよ」のプロ大会は、プレイ内容が高度すぎて普通に見ていても、なかなか理解するのが難しいです。なので、僕はその面白さを伝える翻訳者になりたいです。
実際の盛り上がりポイントはどこで、そのとき選手は何かを考えているのか。そういったことを僕が翻訳してファンの方や、「ぷよぷよ」をこれから見始める人にも伝えて、面白さを分かってくれる人をどんどん増やしていきたいです。
(C)SEGA
ぷよぷよについて語るTom選手
選手と解説の二刀流で活躍するTom選手
Tom選手のぷよぷよ歴は長い
ぷよぷよの技術論を語るTom選手
ポーズを決めるTom選手
カーバンクルのぬいぐるみを手にするTom選手
ヨダソウマ選手(右)と戦術論を交わすTom選手
スマホの画面を示しながら語るTom選手
レジェンド世代の一人、Tom選手