NASEFは、アメリカ・カリフォルニア州に本拠を構え、eスポーツ×教育の分野で先進的な活動を進めてきたNPO団体です。「Scholastic Esports」(教育的eスポーツ)として、ゲームと絡めた課題へのチャレンジを通じて、共感⼒や共創⼒、想像⼒、問題解決⼒などの養成をめざしています。2021年11月、NASEFの日本本部である「NASEF JAPAN」が「第2回eスポーツ国際教育サミット2021~ウェルカムジェネレーションと共に創る、eスポーツと教育の未来~」をオンラインで開催。高校の部活動の指導でeスポーツに携わる教員らが意見を述べました。

eスポーツを基盤に、次世代に必要な力を育む

「サミット」ではまず、NASEF JAPAN統括ディレクター・内藤裕志さんが現代の若者たちが予測不能な社会の変化に向き合っていると説明。このため、社会を生き抜く力として、「自ら考え、行動する力」「柔軟な発想で新しい考えを生み出せる力」「特定の分野における専門的・技術的能力」の三つが求められていると述べました。

NASEF JAPANが掲げる次世代教育のビジョン

そのうえで、内藤さんは「現状から得られる最善策を判断し、即座に実行するという意思決定を実践していくことが重要だと考えています。リーダーシップやコミュニケーション能力、思考能力やSteam(※)的発想を伸ばす活動も必要であり、eスポーツはそのプラットフォームになり得ると考えています」と語りました。

※Steam=Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)のそれぞれの頭文字を組み合わせた教育概念。

また、NASEFがアメリカ国務省と連携して開催した「NASEF Farmcraft」という取り組みを紹介。内藤さんによると、Minecraft内でチームに分かれて農場を作り、その成果をコンテスト形式で競い合うというもので、農業を疑似体験するだけでなく、バイオテクノロジーや食物連鎖について学び、審査員へのプレゼンテーションも行う企画でした。そうした経験が、子どもたちの成長につながったと実感できるイベントとなりました。小学生から高校生まで36カ国の約700チームが参加し、コミュニケーション能力の向上などが効果としてあったそうです。

学業と両立する工夫は

続いて、教育にeスポーツを取り入れている学校の教員による講演が行われました。

説明する朋優学院高校の岸波禎人教諭

私立朋優学院高校でで、eスポーツ部「HYeC(ハイエック)」の顧問を務める岸波禎人教諭は、同校のeスポーツと学業との両立について「基本スタンスは学業第一です。部活動は週4日まで、放課後は講座を優先しても良いなど、勉強の負担にならない仕組みをつくりながら指導しています。とはいえ、ゲームは高校生の楽しみの一つですので、自宅での活動は特に制限しておりません」と説明しました。

それでも、学業に与える影響を心配する保護者が多いそうです。「学業に支障を来さないことを唯一の条件としています。定期試験で赤点を取ったらテストの解き直しをしてから部活動に参加とし、成績が著しく悪い場合は一度活動を停止させ、成績改善に努めています」述べ、そうした懸念に対応していることに触れました。

また、ゲーム依存症に陥る一因について、「やりたいことや目標が不明確なために、楽しいもの(ゲーム)に逃げてしまうのではないか」と強調。HYeCの部員は自ら分別をつけ、学業とeスポーツの両立に取り組んでいると前置きしつつ、「生徒の目標や物事の優先順位を明確化し、サポートすることが教員の大切な仕事だと考えています」と語りました。

ゲームを「能動的な学び」や「居場所」を得る機会に

次に登壇したのは、茨城県と神奈川県の公立高校でeスポーツ部を設立した経験を持つ、県立東海高等学校の千葉徹也教諭です。

オンラインで参加した東海高校の千葉徹也教諭(左)

千葉教諭は、東海高校のコンピューター部に「eスポーツ班」を設立しました。その背景について、「近年はゲームやスマートフォンを触る時間が延びています。それならば、単にゲームで遊んで終わりではなく、努力すれば何かが得られるという期待感が持てる形にしようと考えました」と説明します。

「目的が見つからない」「やりたいことがわからない」「自分をうまく表現できない」とい悩みを抱える生徒を、eスポーツの活用によって救済できないかと考えた千葉教諭。ゲームに夢中になる理由といわれる「課題設定(目標)とクリア(評価)の繰り返し」を教育に取り入れ、主体的・能動的な学習経験につなげるのが目的だそうです。

eスポーツ班の設立により、これまでコンピューター部になかった競技性が生まれ「生徒たちがリーダーシップやサポート能力、チーム力や対戦相手への配慮などを身につけ、自分らしい『居場所』も見つけられたのではないかと思います」と話しました。公立高校のため、機材やインターネット環境などの課題も指摘しつつ、「顧問の役割は、ゲーム自体の話というよりはルールの明確化。生徒の規範意識や体調管理をしっかりと行うことが重要だと思います」と語りました。

eスポーツでめざす社会課題の解決

サミットでは、「eスポーツを利活用した社会課題の解決」というテーマで、アイデアの発案・プレゼンテーションを行うコンテスト「eスポーツ・クリエイティブ・チャレンジ」の大会結果も発表しました。私立水戸啓明高校の1年生チームが優秀賞を受賞しました。

「eスポーツ・クリエイティブ・チャレンジ」で優秀賞を受賞した水戸啓明高校の作品

水戸啓明高校のメンバーは、ゲーム内やSNSの誹謗中傷コメントに対してブロックや通報などの手段がある一方、良いコメントをしたユーザーを称賛するシステムがない点に着目。良いコメントをポイントやゲーム内通貨、オンラインショップで使えるクーポンなどに還元できる仕組みを考案しました。

さらにゲーマーの偏りがちな食生活にも目を向け、「地元茨城のお米を食べて健康に」という思いのもと、お米と交換できるユニークなアイデアも提案。ゲームユーザーや運営、米農家のいずれにもメリットをもたらす合理的なアイデアが評価されました。

また、東京都板橋区の通信制高校「CLARK NEXT Tokyo」の生徒は、中学生向けの競技大会「第1回クラーク国際主催中学生eスポーツ選手権」を開催したことを報告。イベント企画からライブ配信、進行まで大会運営全般を経験し、同校の生徒は「多くの機材があり、それぞれの働きを知ることができて貴重な勉強になりました」と感想を述べました。

交流の中で見えてきた部活動運営の実状

NASEF JAPANのメンバーシップ加盟校の教員を対象とした座談会も開催。eスポーツ部の設立と継続に向けた情報交換がなされ、盛り上がりを見せました。

座談会の様子

最も取り組みたい活動としては、合宿など「オフラインで集まる機会を増やしたい」という声が相次ぎました。一方、課題として「ハード面の環境づくり」が浮き彫りに。水戸啓明高校からは「部費の増額やPCのレンタルができても、部員全員にPCが行き渡る状況をつくるのは難しい。学校の古いPCをリノベーションしながら何とか運営している」とコメント。共感の声や「県立高校では県所有のPCを自由にいじれない」といった新たな情報が飛び交いました。

また、さらに和歌山の県立高校からは、サーバー接続許可の手間や、PCの設定を自由に変更できない難しさについても言及がありました。各自の今後の方向性に良い影響を与えた様子でした。

現場の生の声を聞いていきたい

「サミット」に参加したNASEF JAPANスカラスティックディレクター・坪山義明さん(左から)、松原昭博会長、統括ディレクター・内藤裕志さん

座談会後、NASEF JAPANスカラスティックディレクターの坪山義明さんは「先生方の生の声を聞くことで、今後の課題が見えてきたように思います。今後もこのような会を定期的に開催したい」とコメント。内藤さんは「eスポーツ・クリエイティブ・チャレンジを通して、ゲーム大会以外の部分にスポットを当てる重要性を再認識しました」と述べ、今後もeスポーツと教育の融合に向けた活動に力を入れていく姿勢を見せました。