文字入力のスピードと正確さを追い求めるキーボードタイピング。実は私たちの知らない細かな技術が築き上げられていることをご存知でしょうか。

今回はそんな競技タイピングの世界にゲームの側面から迫るべく、タイピングゲーム「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド 2004」のRTA世界記録保持者であるセレナーデ☆ゆうきさん(@Serenade_Yuuki)にタイピングの世界について聞きました。

高速タイピングのカギは「メンタルと戦略」

──まず、セレナーデ☆ゆうきさんが本格的にタイピングをやってみようと思ったきっかけを教えてください。

セレナーデ☆ゆうき(以下、せれゆ) そもそも「文字を速く打てるようになりたい」と思ったきっかけは子どものころに遊んだオンラインゲームです。当時はまだ「タイピング」の言葉も知りませんでしたが、チャットでのコミュニケーションが盛んだったので友達とテンポよく会話するために練習するようになりました。

それからタイピング練習用のサイトなども使ってみたんですが、中でもニコニコ生放送のコメント機能を使ったサードパーティー製のタイピングゲームにハマりこんだ時期があったんです。流れる曲の歌詞をコメントで打ち込むシンプルなルールながらゲームをプレイするついでに練習できましたし、正確性やスピードなどタイピングの腕前を人と競う楽しさに気付けましたね。

──RTA動画を見たのですが、指使いが独特ですよね。そのスタイルも子どものころにルーツがあるのでしょうか。

RTA in Japan 2020 - The Typing of the Dead 2004

せれゆ そうですね、特に右手は人差し指と中指しか使わない尖ったスタイルで、こうなった理由としては、子どもの頃の自分が無知だったからというのがあります。よく綺麗な打ち方とされる「A」「S」「D」「F」「J」「K」「L」「;」キーに指を配置する “標準運指” を知る前に「動かしやすい指で打つ」ことをしていて、そのお茶を濁す打ち方が定着して戻れなくなってしまったんです(笑)。

「A」「E」「R」に左手を、「K」「O」に右手を置くスタイル

標準運指のホームポジションも練習したんですが、動かしにくい薬指・小指を意識すると速く動かせる指まで遅くなってしまったので、右手はエースである人差し指と中指の2人に任せることにしました。私は手が大きい方なので標準運指でやろうとすると窮屈さもあって、今のやり方が合っていたのかなと思います。結果論ですけどね(笑)。

──自己流のスタイルだと参考にするものが少なく、上達するのも大変だったのではないでしょうか?

せれゆ そうですね。ただ、僕は打ち続けることで慣れてスピードが速くなりましたし、おそらくどんな打ち方でもある程度は速くなれると思います。タイピングの全国大会に出るような方であっても、すごく美しい綺麗な指使いの方から僕と同じようなスタイルの方までいるので、意外と人それぞれなんですよ。決して「速い人ほど綺麗な打ち方」ではないのも面白いですね。

自分の好きなポジションで打つコツを挙げるとすれば「固定観念に囚われないこと」ですね。キーボードを見ずに打つ「タッチタイピング」は速くてかっこいいと言われますけど、僕はある程度手元も見てどの位置に指があるのかを確認するようにしています。僕のように使う指が少ない方は「見ちゃだめだ」と思いこまない方がいいかもしれません。

──意外とメンタル面も重要になるんですね。

せれゆ 日々の練習でもそれは当てはまりますね。ありがたいことによくタイピング練習のアドバイスを求められるんですが、細かなコツや技術よりもまず「嫌になる前にやめる」ことがすごく大事だと伝えるようにしています。速くならないことやミスの多さが嫌な記憶として残ると以降の練習へのモチベーションが下がりますし、上達しようと焦ってムキになると、疲れているのに無理な練習をしてしまうこともあるんです。そうなると指を痛めたり腱鞘炎になるリスクもありますし、実際にそのような経験をされた方もいます。私がゲームでタイピングを練習したように楽しんでほしいですし、気分転換や休憩も大切ですね。

──指を動かすスピードを上げる以外に、タイムを縮めるテクニックがあるのでしょうか。

せれゆ これが結構あるんです。たとえば「き」と打つときの「K」と「I」は標準運指だと両方が右手の中指の担当なんですが、「K」に人差し指も使えば少しだけ速く打てますよね。このように一時的に標準運指と異なる指で打つのが「最適化」と呼ばれるテクニックです。他にも「水増し」と言って、「し」を打つときに「SI」ではなく「SHI」と入力することで1打分スコアを稼ぎながら、少しだけ頭を休める間を作る技もありますね。

──戦略的なタイピングが必要なんですね。

せれゆ そうなんです。「ちょ」と打つだけなら「TYO」でも「CHO」でも、あまりないですが「CYO」でもいいですよね。でも「ちょっと」と打つなら最後に「TO」が来るので、「T」に移動する手間が省ける「TYO」が最適解なんですよ。

こうしたテクニックは僕よりもずっと上の、ワープロ世代の先輩方が築き上げてきた技術です。その先輩方は未だに競技タイピングの世界大会で活躍されていますし、かと思えば中学生で多言語のタイピングをこなす若い選手もいて、タイピングって年齢や性別に関わらず平等に戦える面白い世界だなと感じます。

RTAと出会い、世界記録保持者へ

──セレナーデ☆ゆうきさんはRTAイベントに何度も参加されています。こちらはどのようなきっかけがあったのでしょうか。。

せれゆ RTAとの出会いもやっぱりニコニコ動画で、友人が紹介してくれた配信者さんのプレイを見て「面白い遊び方だな」と興味を持ったんです。そして、3年前には海外のRTAイベント「Games Done Quick」の日本語配信で「クラッシュ・バンディクー」シリーズの解説者を担当させていただいたんですが、その経験がすごく楽しかったのも大きな出来事でしたね。

それから解説するのが楽しくなっていたんですが、ある作品を解説するために動画で予習をしていたら、どうしても見ただけでは分からないテクニックがあったんです。そこで自分でプレイして確かめたときに「知識も学んだし技術も練習したし、自分でも配信できるんじゃないか」と思い、自分でも「走者」としてプレイするようになりました。

──そんなRTAとタイピング、2つの趣味が重なって「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド 2004」へとたどり着いた訳ですね。

せれゆ 自分が好きで磨いてきたことを披露できる機会なので、嬉しかったですね。最近はフリック入力や音声入力が進化していますけど、まだまだキーボード入力も使えるぞ、練習したらすごく便利なんだぞ、と見せたかった気持ちもあります。ただ、「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド 2004」に挑戦することが決まった背景には偶然が重なった面もありましたね。

RTA in Japan 2020で「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド 2004」をクリアするセレナーデ☆ゆうきさん

実は「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド 2004」はかなり昔のゲームなので入手も簡単ではありませんし、Windows 10での起動が難しいのでオフラインイベントでは挑戦しづらいタイトルだったんです。ところが「RTA in Japan 2020」が新型コロナウイルスの影響でオンライン開催になり、それなら自宅の安定した環境から配信で参加できるんじゃないかと思って応募してみました。挑戦にあたってはソフトを手に入れるところから知り合いのタイピング勢にいろいろと後押ししてもらったので、感謝しています。

──競技タイピングとタイピングゲームでは求められることは違うのでしょうか。

せれゆ 競技タイピングではイベントによってルールや使用するソフトが違っていて、それによって戦い方が変わります。たとえば、ある大会では相手よりタイムが良くても正確性が95%を下回っていたら負けになってしまうんです。そういうルールでは普段はとにかくスピード重視の「乱打(らんだ)」と呼ばれるスタイルの人も、正確さを維持するために速度を落とすことがあります。RTAでも、タイトルによって打ち方は変わると思います。

配信上で世界記録を達成した瞬間

──現在ではRTA世界記録保持者となられましたが、やはり派生元作品となる「The House of the Dead」ともども思い出深いゲームなのでしょうか。

せれゆ それが実は、ガンシューティングの方はホラーゲームが非常に苦手なので全くプレイできないんです(笑)。タイピングゲームなら文字だけ見ていれば良いので怖くないのですが……ただ、シューティング版もタイピング版もゲームセンターで度々見かけていたので、懐かしさはありましたね。

「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド 2004」は誰もが楽しめる名作。最新作待ってます!

──ゲーム内では一風変わった文章のタイピングを要求されますが、何か印象に残っているワードはありますか?

せれゆ タイピング中はスピード重視なので自分が打っている文字の意味を認識していないことも多いんですが、チャプター3に登場するボスはよく覚えてますね。ボスキャラの出す三択クイズで正解の選択肢をタイプしないといけないんですが、「口に入れてはいけないものは」という問題の中で「お母さん」って選択肢があるんですよ。初めて見たときは「お母さんは果たして口に入るのか?」と想像してすごく笑っちゃいました。

あと「RTA in Japan」でプレイした時に出た「へぇへぇへぇへぇ」も入力が難しい上に力が抜けるフレーズなので大変でしたね。プレイ中はかなり集中しているので、長くて難しい言葉よりもクスリと笑ってしまうようなちょっと面白い言葉の方がミスに繋がりそうで怖いんです(笑)。

RTA in Japan 2020での挑戦中に立ちはだかった「へぇへぇへぇへぇ」に思わず大きなリアクションも飛び出しました

──面白いと言えば「不要なキーをあらかじめ抜いておく」「わざと敵の攻撃を受ける」といったRTAらしいテクニックも興味深いです。

せれゆ RTAでは他の挑戦動画を見て勉強することが多くて、「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド」でも海外のプレイヤーを参考にテクニックを学びました。ただタイピングゲームの性質もあってか、スコアアタックや1クレジットでクリアを目指す「ワンコインチャレンジ」はあっても意外とRTAに挑戦している人は少なくて、日本では僕がパイオニアになってしまうくらいの競技人口なんです。僕のRTAを見て興味を持ってくださった方もいるかもしれませんし、今後の研究によってはさらにタイムを縮められる新しいテクニックがまだまだ増えてくる可能性は大いにあります。

──「ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド」は見た目のインパクトが強い作品ですが、突き詰めると奥が深いゲームなんですね。

せれゆ ワードのコミカルさのお陰で見ているだけでも面白いですし、プレイする側としても工夫できるポイントの多さや遊び方のバリエーションが多くて、間違いなく「名作」ですね。ありがたいことに僕のRTAを見て「懐かしい、また遊びたい」「知らなかったけど面白いな」なんて感想も頂いたので、遊んでいただけると嬉しいですね。

ただ、今はゲームセンターでも見かけることが減りましたし、家庭でもなかなか簡単には遊べない状況なんですよね。最近の話題を取り入れたワードで遊べたらさらに面白くなると思いますので、最新作を待ち望んでいると広く発信したいです。

──そこは必ず記事に書いておきます!

せれゆ ありがとうございます(笑)。

【プロフィール】セレナーデ☆ゆうき

ゲームを中心として配信する配信者。Twitch公認のパートナーストリーマーであり、日々速さを求めてゲームのタイムアタックなどをプレイしている。タイピングの速さに定評があり、全国大会ベスト8に入ったことも。イベントではタイピングゲームのタイムアタックをしたこともあり、現在世界一の記録を持っている。その他、クイズやジャグリングなど趣味が多く、その多方面への好奇心から生み出される言語センスは数々の賛否両論を巻き起こしている。