年齢、性別、障害の有無という壁を越えて、誰とでも交流できるのがeスポーツの魅力と言えます。バリアフリーeスポーツに取り組むePARAは、その特徴を最大限に生かす場として、東京都品川区のカラオケ店「JOYSOUND」港南口店内にバリアフリーeスポーツカフェ「Any%CAFE」(エニーパーセントカフェ)を開設しました。緊急事態宣言のため、オープンは延期しましたが(11月から利用開始)、7月にオープニングセレモニーを開催しました。

そのイベントの模様について、ePARAのバリアフリープロジェクトチーム「Fortia」(@b_fortia)内にある「Blind Fortia」の主将として、様々な挑戦を続ける先天性全盲のなおやさん(@noy_0207)がリポートにまとめました。なおやさんはこのイベントで司会を務めつつ、鉄拳7のエキシビションマッチでプレイヤーとしても参戦しました。

全盲で戦う弱点を克服する工夫

音声・点字携帯用端末を使って、進行用の台本を確認するなおやさん

Blind Fortiaの盲目の戦士・なおやです。7月20日に「Any%CAFE」のオープニングセレモニーが行われました。今回、私が務めるミッションの1つ目のは司会進行。緊急事態宣言の影響で限られた人数での開催となりましたが、人生初の緊張に規模は関係ありません。仕事で声優やナレーター活動をしている私ですが、それとは勝手の違った独特の緊張感がありました。音声・点字携帯用端末を用いて事前に渡されている台本を入念に確認しながら、会場の方々にしっかりと情報が伝わるように意識して言葉を発しました。

2つ目のミッションは、鉄拳7のエキシビションマッチ出場。先天性全盲の私のプレイを参加者の方々にオフラインで見ていただくことができました。

今回のイベントを語る上で欠かせないのが、昨年12月に参加した鉄拳7の大会です。その模様はこちらの記事で詳しく書いています。

イベントでマイクを持つなおやさん

前回は使用キャラクターを「ギース・ハワード」にしておりましたが、いろいろなキャラクターを試す中で、メインキャラクターを「ラッキークロエ」にしました。クロエはリーチが短いですが、早いペースで攻撃をすることができます。前に使っていたギースとは対照的ですが、目が見えない不安の中ではボタンを押したら攻撃できる程度の安心感が必要だと感じ、使用キャラクターを変更しました。

今年3月には、「EVO Japan 2020」の優勝者であり「タイの英雄」との呼び声もあるプロプレイヤーBookさんから鉄拳7における戦い方の基礎をレクチャーしていただきました。そこで、自分がいかにでたらめな戦いをしていたかを実感しました。攻撃の基本はジャブから。ガードされたらすぐに下がって、いかに大技を食らわないようにするか、いかに相手の隙を見つけるか。その組み立てが勝敗を左右するといった内容でした。

また、4月からは、昨年秋のePARA CHAMPIONSHIPでコーチングを担当したS.H.O.W氏に定期的なコーチをお願いしています。S.H.O.W氏からはラッキークロエを使ったコンボの打ち方を丁寧にご指導いただいているほか、7月からは勝てる対戦の進め方を教わっています。

戦い方の基本と、使用キャラクターに合った対戦の進め方。二人のコーチからの助言により、私も戦いの幅が広がったような気がしています。最近では、全盲である私の短所を自覚し、対処方法を習得したうえでワンランク上の戦いができるための指導を受けています。

音声への敏感さを緊張が打ち消す

「Any%CAFE」のオープニングイベントに出演した皆さん

いよいよ7月20日のイベント当日を迎えました。私の対戦相手はPARAの加藤大貴代表となりました。

イベントが進行し、いよいよ私の出番となりました。自宅から普段使っているコントローラーを持参し、周りのスタッフに助けてもらいながらキャラクター選択。今回は実況をコーチのS.H.O.W氏と、ゲストのたぬかなさん(CYCLOPS所属)が務めました。自分の対戦の実況をその場で聞くことも初めての経験です。

プレイに何か影響があるものと思っていたのですが、実際に本番に臨んでみると実況を気にするどころではなく、実況の方々や観戦者のみなさんが話していた内容はほとんど分かりませんでした。私は全盲であるがゆえに人より音声に敏感だとは思うのですが、本番の緊張感はそれを凌駕するのですね。

第1ラウンド。初めてのオフライン対戦ということもあり、対戦してみたら意外と音が聞きづらく、一方的に自分が攻め込まれている感覚でした。それこそ、どうしようもないと思いました。そのまま第一ラウンドは加藤代表のものに。

第2ラウンドも同じ状況が続きましたが、クロエのレイジアーツが発動。そのままヒットしました。相手の体力ゲージに余裕があったので、一か八かの大技をしかけ、そのまま逆転で押し切りました。

3ラウンド目以降は、実は記憶がほとんどありません。夢中に戦い、第2ラウンドはダブルKO。ファイナルとなった第4ラウンドは私が奪い、トータル3対2で勝利したことだけは覚えています。

プロは準備段階から戦いを始めている

コーチを務めるS.H.O.Wさん

自分の対戦を終えた私は、次の対戦となるS.H.O.W氏とむぎちゃん(ビーウィズ所属)の対戦で、音声情報を元にした解説に入りました。その際、二人は大会慣れしていることもあり、マイコントローラーを持参しただけでなく、環境テストを行っていました。

実況中にたぬかなさんに尋ねたところ「コントローラーのキー設定がうまくいっているかなどのテストを行います。コンボのテストなどもそこで行います。基本的に一人がテストをして、もう一人は相手として攻撃を受けます。やりたいことをできたら攻守交替してテストをします」とのことでした。私は当日、ほかのことに気を取られてコントローラーのテストを行わずに対戦を始めてしまいました。

テストはコントローラーだけではありません。音声情報で戦う私は、ボリュームやヘッドホンの音質なども試合を左右するポイントとなります。オフラインイベントではそのあたりも含めて、念入りに確認する必要があることを学びました。

一方、「テストの機会をつくると、自分の手の内を相手に見せてしまうことになるのでは?」という疑問も生まれました。それをたぬかなさんに尋ねてみると、「あえて対戦で使うコンボと別のコンボを使う程度に留めたり、逆に大技ばかり試したりして相手を牽制することもあります」とのことでした。試合前のテスト段階から勝負を分ける駆け引きは始まっているんですね。世界大会やプロライセンスが存在する競技ということもあり、とても奥が深いですね。

私は視覚情報がつかえないために、マッチに臨む前段階でさまざまな懸念が生じます。たとえば、以下のような点が挙げられます。

・キャラ選択を問題なく行えるのか(キャラ選択を間違えていないか)
・音声は通常通り聞こえるか(会場音やノイズが生じていないか)
・相手はどんなタイプなのか(相手には自分が見えているが、自分は相手を見えていない)

オフラインの大会に臨む際には、自分の障害特有の懸念事項もクリアしつつ、プロの方々が当たり前にやっている事前準備もしっかりこなしていく必要があると感じました。

ケニアのプレーヤー・ガソニさんとオンラインで交流

オープニングイベントでは、バリアフリーeスポーツとしてのもう一つの試みがありました。ケニア人の女性プロゲーマー・ガソニさん(@MalikaSiheme98)との交流試合です。この企画は、ガソニさんの記事がきっかけで実現しました。ガソニさんも趣旨に賛同し、出演を快諾していただきました。当日はガソニさんのTwitterでも感想をツイートしてくれています。

言葉もボディーランゲージもできない でもeスポーツがある

一般にバリアフリーと言うと、障害者や高齢者に対する配慮として語られることが多いです。しかしそれ以外にも、国籍、性別、年齢といった「壁」は社会に多く存在します。それらからの脱却も国際社会の大きな課題のひとつではないでしょうか。

ePARAが障害者eスポーツではなくバリアフリーeスポーツを目指していることは、障害を持つ私たちとしても共感できる大切なテーマだと感じています。今回ガソニさんのプレーに触れ、国境を越えてコミュニケーションし、対戦できるeスポーツの魅力を再認識しました。ケニア時間では早朝だったにもかかわらず、明るい声で参加してくれたガソニさんの気持ちも嬉しく思いました。

また、eスポーツの場合、プレーヤーの人柄と実際のプレースタイルは必ずしも一致しません。ガソニさんも話している様子は優しく穏やかな印象ですが、普段は「シャオユウ使い」として相手をかく乱し、当日はリリを操ってアクティブに動いていました。

短時間な交流の中で、言葉の壁の影響を受けずにガソニさんの違った側面を見られるという点では、eスポーツの国際交流は面白いなと思います。英語が得意ではなく、ボディランゲージにも頼ることができない私としては、eスポーツは海外の方と交流する有効なツールになると思いました。

また、交流開始直後にガソニさんが明るく振る舞っていたことも印象的でした。ガソニさんの人柄があるかもしれませんが、鉄拳7のプロゲーマー同士として、ガソニさんが元々たぬかなさんたちを知っていたことも背景にあったように思います。私もブラインドeスポーツプレーヤーとして発信を続けていけば、このような交流も実現できるなと感じ、やりたいことの幅が広がった気がしました。

「輝く未来」のために

「Any%CAFE」のオープニングイベントの様子

今回、初のオフラインイベントだからこそ知れたこと、経験できたことが本当にたくさんありました。ブラインドeスポーツという未知の領域を開拓するには、まだまだ多くの「知らないこと」が眠っているでしょう。

それらを掘り起こし、一つ一つ解決していくためにはやはり「経験」を積み重ねていくしかありません。このような挑戦の機会を提供してくださるePARAやその関連企業・団体への感謝を忘れず、eスポーツをきっかけに「輝く未来」を切り開くためにこれからも活動をしてまいります。引き続き応援をよろしくお願いいたします。

「Any%CAFE」オープニングイベントのスポンサーボード

なおや

本名・北村直也(きたむら・なおや) 声優、エンジニア、大の野球好き。 生まれつきの全盲で、「不可能を可能にする男」というキャッチコピーのもと、誰もなしえなかった「視覚障害を持つ声優」に挑戦している。その状況は日々SNSで発信。フォロワーからは「野球の人」という印象が持たれるほど、野球ツイートも熱い。
ツイッター:@noy_0207

Any%CAFE

所在地:東京都港区港南2-5-12(JOYSOUND品川港南口店内)
営業時間:毎週火・水(祝日を除く)13:00~17:00
※新型コロナウイルスの感染防止対策による人数制限のため、11月は予約枠が埋まっており、一般利用の予約受付時期は調整中です。
カフェの紹介サイト:https://any-percent-cafe.studio.site/

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