RTA in Japanとは

RTAを主軸にした大会やイベントも世界中で多く開かれています。日本では「RTA in Japan」という大規模なイベントが2016年から毎年2回ほど開催されています。

RTA in Japanは多くのeスポーツ大会のように出場者に賞金が出ることはなく、チャリティーイベントとして運営されています。今年開かれた「RTA in Japan Summer 2021(以下、Summer 2021)」では、大会グッズの売り上げの一部や視聴者からの寄付金などが、国境なき医師団が主導する新型コロナウイルス感染症危機対応募金に募金されました。

RTA in Japanの規模は年々拡大していますが、「Summer 2021」では新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、8月11日から15日にかけてオンラインで開催。77タイトルのゲームのRTAが昼夜を問わず行われ、同時視聴者数は最大約18万人を記録しました。

タイムのためには手段を選ばないのもRTAの醍醐味

タイムのためにはどんな手でも使うのがRTA

RTA in Japanで採用されているゲームは多岐にわたります。ゲーム内でタイムを争うジャンルといえば、レースゲームなどを想像する人も多いでしょう。もちろんレースゲームも採用されています。

たとえば、2003年にPlayStation 2で発売されたレースゲーム「首都高バトル01」。タイトル通り首都高を舞台にした作品で、実在する車をモデルにライバル達とレースで競うものです。「Summer 2021」で行われたRTAでは、ストーリー第一章のボスをいかに最速で倒すかを競うカテゴリで、世界1位から3位の記録を持つ3人のプレイヤーによって争われました。

「首都高バトル01」では車をミニ四駆のように壁にこすらせたほうが早いテクニックも一部出たものの、純粋に「いかに早く次々とライバル達を倒していくか」が披露されました。

一方同じレースゲームであっても、あまりレースらしいレースをしないRTAもあります。

1996年にニンテンドー64で発売された人気ゲーム「マリオカート64」のRTAのことです。ゲーム内の全てのカップをいかに早く制覇するかを争うのですが、多くのコースでは規定の3周をしっかりとは回らず、ショートカットを駆使して攻略する様子が見られました。通常では3分以上かかるコースが1分以内に終わるなど、まさに「記録のためには手段を選ばない」というRTAの醍醐味のひとつが如実に現れたレースでした。

「ときメモ」も登場 常識にとらわれないプレイの連続に

タイムのためには高校生活を寝て過ごすのも正解となる

ゲーム内ではタイムアタックの概念が薄いゲームジャンルでも、RTAの対象になります。

「ゼルダの伝説」シリーズや「ポケットモンスター」シリーズ、「テイルズ」シリーズ、「アトリエ」シリーズなどの有名RPG作品でもRTAが行われました。中でも異色を放っていたのが、恋愛シミュレーションゲーム「ときめきメモリアル」のRTAです。

「ときめきメモリアル」は高校3年間をかけて主人公である自分の学力や運動やおしゃれなどのパラメーターを上げて、意中の女の子にアプローチするゲームです。1994年にPCエンジン向けに発売され、その後PlayStationやPlayStation Portableなどでも展開されています。「Summer 2021」では作中メインヒロインであり、その難易度から「ラスボス」とも言われる藤崎詩織ルートを最速でクリアしていくRTAが行われました。走者はシリーズ通して世界記録保持者のKazupoonさんです。卒業式の日、主人公が藤崎詩織に伝説の樹の下で告白してもらうことが目標となります。

最速を目指すため、1年生のうちから詩織と一緒に下校したり、デートしたりはしません。1~2年生のうち大半は「睡眠」にあて、いかに余計なイベントを起こさずに高校生活を走り抜けていくかがカギとなります。

さらに、藤崎詩織に告白してもらうには全体的に一定以上のパラメーターが必要なわけですが、各パラメーターを上げてしまうと他のヒロインとのイベントも発生してしまいます。クリアとは関係ないイベントを起こさずに高校生活を過ごすかもカギとなります。高い学力を維持しながらもストレスを溜め進んでノイローゼになることで、学校の定期試験で好成績を取らないテクニックも必要となります。

このように、通常プレイでは考えられないようなテクニックが「効率的」だから良しとされるのも、RTAならではの面白さと言えます。

理不尽さで話題となったゲームも人気

デスクリムゾンのRTAはTwitterのトレンド入りするほど話題となった

プレイ面での理不尽さで知られるゲームのRTAも話題になりました。

ゲームの中には物語が不明瞭であったり、難易度が高すぎたり、グリッチが多すぎたりして(色々な意味で)話題になる作品もあります。そういった「理不尽ゲー」は自分で普通にプレイするハードルすら高いからか、「Summer 2021」では走者の華麗なプレイによって大いに盛り上がる場面が多々見られました。

特に盛り上がりを見せたのは、1996年にセガサターンで発売されたシューティングゲーム「デスクリムゾン」と、2008年にWiiで発売された野球ゲーム「メジャーWii パーフェクトクローザー」です。

「デスクリムゾン」はその理不尽な難易度と、独特な演出などで知られる作品です。ネット上で動画の共有が容易になった2000年代後半あたりから、名状しがたいそのオープニングが衆目を集めた作品でもあります。オープニングに出てくる「上からくるぞ! 気をつけろ!」や「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」などの名言(迷言?)は、ネットスラングとして多くの人々に記憶されていることでしょう。

デスクリムゾンのRTAでは、走者はゆゆキチさんのみ。その理由は単純で、デスクリムゾンのRTA走者が1人しかいないからだそうです。逆に言うと、現役世界記録保持者によるプレイということになります。

ゆゆキチさんは世界記録保持者に恥じないスーパープレイで、敵を次々と倒していきます。このプレイは視聴者に驚きをもって受け止められ、一時「デスクリムゾン」がTwitterのトレンド入りを果たしました。ゆゆキチさんは34分ちょうど(ゲーム内タイムは33分57秒)で攻略を終え、自身の世界記録を塗り替えました。

「メジャーWii パーフェクトクローザー」では、3人の走者がグリッチ技なども駆使しながら、ストーリーモードをいかに早く攻略するかが競われました。通常であれば1時間以上かかるものが、グリッチによって最終試合にスキップされ4分台で攻略が終わるというインパクトの大きい走りでした。

片手RTAも話題に

ソニックアドベンチャー2では、片手プレイでサンフランシスコの街を駆け抜けていた

RTAはストーリーモードのみだったり、第一ステージのみだったり、または最高難易度でのクリアなど、ひとつのゲームをとっても様々な条件ごとに競技カテゴリが分かれているのも特徴です。

ゲーム内ではなく、「Aボタン禁止」や特定のコントローラーを使用したりなど、プレイする環境を制限することでも新たなカテゴリを作れます。自分だけのカテゴリを作ることで誰でも世界1位を目指せるのも、RTAの魅力の一つと言えます。

こうした中で「片手プレイ」のRTAを披露して話題となる場面もありました。片手プレイが行われたのは2001年にドリームキャストを皮切りに発売され、海外ではPC版も展開されている「ソニックアドベンチャー2」です。

走者のwegisoさんは左手を自由に使えないため、右手のみでコントローラーを操作してストーリーモードの「ヒーローサイド」という章を進めていきます。配信では片手プレイであることは全く感じさせず、画面の中を主人公のソニックが自由自在に動き回り、適宜コースをショートカットしていく様子が見えます。

wegisoさんは最終的に41分台でクリア。この記録はwegisoさんの最高記録ではありませんが、両手プレイのカテゴリにおいても世界で678人中110位以内に入る記録となっています。

リアルスポーツの世界でもオリンピックに対しパラリンピックがあるように、障がい者に配慮し同一タイトルでも別のカテゴリが設けられるタイトルもあります。誰でも「自分の全力を発揮しやすいカテゴリ」を作って記録に挑み、楽しめるのもRTAならではないでしょうか。

アスリート顔負けの作品も

アスリート顔負けの走者が挑んだリングフィットアドベンチャーRTAの様子

「Summer 2021」で最後のレースを飾ったのが、「リングフィットアドベンチャー」のRTAでした。リングフィットアドベンチャーは2019年にNintendo Switch向けに発売されたゲームで、リングコンと呼ばれる専用コントローラーを使って実際に身体を動かして遊ぶのが特徴です。名前の「リングフィット」の通り、健康維持のためのスポーツを意識した作りとなっています。

走者としてに出場したのが、えぬわたさんです。えぬわたさんは学生時代体操選手として活躍し、社会人になったあとも「フィジーク(簡単に言うとボディビルの上半身版)」を趣味としていました。

ところがコロナ禍でフィジークの大会が中止になってしまいます。代わりに筋力を生かせる趣味となったのが、リングフィットアドベンチャーのRTAだったといいます。そのため、ゲームのRTAでありながら「フィジカルを生かす」珍しい競技となっています。

「Summer 2021」の大会前からリングフィットアドベンチャーRTAに関するニュースもあり、Twitterではトレンド入りするなど高い注目を集めていました。イベント開催中もその関心度の高さは変わらず、大会では最高の18万人以上が同時視聴しました。実況に元テレビ東京のアナウンサーである田口尚平さんを起用するなど、配信面での力の入れ具合もうかがえました。

えぬわたさんが挑戦したのは、ゲーム中最大の負荷レベル30で第1ステージをいかに早く攻略するかを競うカテゴリ。えぬわたさんはこのカテゴリの世界記録保持者であり、「Summer 2021」では自身の記録更新も期待されていました。

競技中はマッチョな男性がリングコンを素早く押し込む姿に視聴者が湧きました。リングコンを押し込むことで攻撃が出る仕組みなのですが、えぬわたさんの筋力を存分に生かした連射の速さは「えぬわた砲」とも呼ばれています。さらにえぬわた砲を出した回数に応じた金額がえぬわたさんから国境なき医師団に寄付される仕組みも明かされ、さらに視聴者のコメント欄が湧きました。

結果は17分ちょうどで自身が持つ16分53秒の世界記録(当時)には及びませんでしたが、多くの視聴者を集めました。

誰でも世界一になれるのがRTAの魅力

アスリート顔負けの人から、障がいのある方まで様々な走者が出場したのが、今回の「Summer 2021」の特徴だったと思います。また、採用されるゲームタイトルも人気作のみではなく、理不尽さで有名となったものや、かなりのゲーム好きでないと知らないような作品など実に様々でした。
「RTAの多様性」が詰まった大会であったと言えるのではないでしょうか。

そして「Summer 2021」で競われたのはそれぞれのゲーム作品のいちカテゴリに過ぎず、普段はさらに多くのカテゴリに分かれて、日々RTA走者が記録を競い合っています。ゲーム作品によっては10種類以上にカテゴリが分かれている作品もありますし、自分で新しく作ってしまうことも可能です。RTAには無数の種目が存在するのです。

決してゲームが上手くない人でも、好きなゲームで自分だけの遊び方を突き詰めることで誰でも世界一になれるのがRTAの魅力だと筆者は考えています。それによってYouTubeなどでカテゴリの注目度が高まれば違う走者も加わり、切磋琢磨する環境が自ずと生まれます。自分の記録が抜かされることで、どうすればよりタイムを縮められるのか見つめ直すきっかけにもなります。

このRTAの持つ多様性と奥深さは、教育にも生かせるのではないかと考えます。eスポーツを部活動や学校教育に取り入れる施策は既に進んでいますが、RTAもよい影響を与えてくれるのではないでしょうか。既にRTA in Japanをはじめとするイベントではチャリティー要素との掛け合わせが広がっていますが、まだまだRTAを社会に役立てられるすべはあるのではと可能性を感じずにはいられません。