ゲームはいろいろな壁を越える力を持っています。ePARAが取り組む「バリアフリーeスポーツ」は、障がいのある人もない人も、ゲームを通じた平等の実現につながる考え方です。

これは国連で採択された持続可能な開発目標「Sustainable Development Goals(SDGs)」が掲げる「人や国の不平等をなくそう」に通じる要素があります。この目標にはさらに、「2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する」というターゲットも定められています。世界中の誰もが楽しむことができるゲームもSDGsに関係があると言えるでしょう。

参考:外務省HP(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html

そこでePARAでは、SDGsを研究領域とする早川公・大阪国際大准教授(文化人類学)と全盲のゲームプレイヤー・なおやさん、ePARA代表の加藤大貴の3人が、バリアフリーeスポーツの価値と今後の役割に関して議論しました。

ゲームが居場所をつくってきた

トークはそれぞれのゲームとの出会いや思い出話からスタートしました。早川さんはまちづくり現象を研究テーマにしており、最近はまちづくりと関係の深いSDGsをテーマの一つに据えて研究、実践しています。なおやさんは生まれつきの全盲で、声優やエンジニアとして活躍しています。

加藤 本日はよろしくお願いいたします。私はゲームボーイの「初代サガ」をずっとやっていました。それまではゲームをなかなか買ってもらえなかったので、お金持ちの家に集合して「源平討魔伝」などのRPGを後ろから見ていました。また当時はゲームセンターで「ストリートファイターⅡ」の強いゲーマーの戦いを見るのも好きでした。ゲームは、コミュニケーションツールにもなっていた気がします。

なおや 私は、初めてやったゲームがリズムゲームの「パラッパラッパー」でした。タイミングを合わせてボタンを押すシンプルな操作なので、PlayStationでかなりやっていました。 あと、兄弟と「ワンピース」や「仮面ライダー」の対戦ゲームをやっていました。

早川 私も4歳のときからゲームを始め、ドラクエシリーズのようなRPGや三国志のようなシミュレーションRPGが好きでした。最近は子供と一緒にリングフィットや「ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング」をやっています。友達の家やゲームセンターは、「サードプレイス」みたいな感覚がありますよね。

加藤 サードプレイス感はありましたね。ゲームセンターでしか話さない仲間もいて、学校終わったから「今日も頑張りましょう」みたいな。

なおや 私が盲学校にいたころはオンラインゲームが流行り出したタイミングでした。しかし当時のオンラインゲームは、あまり音声読み上げに対応していなかったんです。そんな中、オンラインRPGゲームの「MAO」は、ガラケーでできる上に音声読み上げに対応していて、盲学校の仲間ですごく流行ったんです。だから夜な夜な「ちょっと狩りしようぜ」と集まって、みんなでひたすらモンスターを倒すみたいなことをやっていました。

加藤 面白いですね。全盲の方々がガラケーのゲームで盛り上がっていたなんて想像していなくて。視覚障害の方にとっては、当時からゲームが音声読み上げに対応しているかどうかは大事な要素だったんですね。

なおやさんのYouTube動画:全盲プレイヤーの鉄拳7ランクマッチ

「視覚のえこひいき」が進んだ

早川 「メディア研究の第一人者」といわれるマーシャル・マクルーハン(※)という研究者がいます。1970年代にインターネットとか技術革新とかもほぼ予言していたような人です。この人が当時は「テクノロジーは身体の拡張」であって、そこでいまは「視覚のえこひいきが進んでいる」とも述べています。なおやさんの話を聞いて、ゲームは視覚で扱うメディアとして進んできたけれども、視覚だけでなく聴覚や触覚などの感覚を拡張するゲームが出てくるのは必然だろうなと思いました。

※マーシャル・マクルーハン 1911年生まれのカナダ出身の英文学者、文明批評家。メディアに関する先進的な論考で知られ、1964年刊行の『メディア論 人間の拡張の諸相』の中で「テクノロジーは身体の拡張」である旨を述べている。

加藤 確かに、ゲームにおいても、フルボイスのゲームが次々に誕生したり、コントローラーが振動するのは当然になったり、聴覚や触覚を拡張させる機能はどんどん発展していますよね。

なおや ゲームのバトル中に声が入るようになってからはすごく対戦ゲームに参加しやすくなったのを憶えています。たとえば「From TV animation ONE PIECE グランドバトル!」は、技のコマンドを打つ際に途中で「シュイーン」という音がしたんです。そのおかげで相手が何か技出そうとしているなというのが分かるようになりました。

また、ONE PIECEは海賊系のアニメなので、海に落ちることもあります。そこでちゃんと海に落ちた音がして。「ここは海だからこのままいくと体力削られるな」とかが細かくわかるゲームでした。

早川 視覚障害の方にとって、ゲーム音声の強化は革新的だったのですね。ちなみに視覚障害を持っている方が、障害を生かしてゲーム制作に関わる事例はあるのですか?

なおや 事例としては少ないのではないでしょうか。視覚障害を持つ人がゲームをしているだけでもびっくりされることが多いので、視覚障害を持ってプレーしている人がいるなんて知らないみたいなところからな気がしますね。

早川 私もなおやさんのパワプロ鉄拳の記事を読んで驚きました。視覚障害の人がゲームをやるのは、これまではさほど認識されていなかったのも無理ないと思います。

太刀打ちできないゲームもある

早川 SDGsは「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」として国連で採択されました。17のゴールと169のターゲットから構成され、「誰一人取り残さない」ことをスローガンに掲げています。そんなSDGsの視点で見ると、なおやさんの取り組みは大きなヒントになる気がします。

加藤 なおやさんがゲームをやってみようと思ったきっかけとなる経験や出来事はあったのですか。

なおや 「パワプロ」を例に言いますと、兄弟がプレーしているのを聞いているうちに、実況や効果音でピッチャーがボールを投げたタイミングや、バットに当たったかどうかはわかると思ったんですね。これだけ情報があればとりあえずプレーすることはできるかなって。他のゲームでも自分以外の誰かがプレーしているところを聞いて、できそうだと思ったらまずやってみます。まぁ、やってみたらほとんどできないことも多いんですけどね。

加藤 全く太刀打ちできないゲームもあるんですね。

なおや 画面上の文字が読めないと成立しないゲームは結構あります。たとえば、以前やったことのあるRPGでは、キャラクターボイスがついているので対戦することはできたんです。ストーリーモードの一部は、特定の場所に行かなくても、歩き回っていればボスと遭遇するモードだったので、できると思ったのでプレーしてみました。しかし、途中からフィールド上にあるボタンを押さなければ進めないとか、ビームを発射する相手の攻撃をよけないと進めないという段階になると、自分には無理だというのがありました。

早川 やはり、誰一人取り残さないみたいなスローガンがあっても、実現していくのは容易ではないですね。SDGsへのゲーム業界の貢献を考えると、なおやさんみたいなユーザーの声を拾って長くゲームを開発していくことができる世の中になるといいですよね。

目標の番号よりも姿勢が大事

早川 ゲーム業界とSDGsで掛け合わせようとする際、意識しているゴール(目標)の番号ってあるのでしょうか。

加藤 ePARAでは10の「人や国の不平等をなくそう」がまずあります。先日、ケニア在住の鉄拳7の女性プレーヤー・ガソニさんに関する記事を読みました。その内容に感銘してTwitterに連絡したんです。すると、とんとん拍子で話が進み、7月に開催したバリアフリー対応eスポーツカフェ「Any%CAFE」のオープニングイベントにオンラインで出演いただくことができました。テクノロジーのおかげでeスポーツを通じていろいろな壁が越えられたと感じました。

オンラインでePARAのイベントに出演したシルビア・ガソニさん(中央)

早川 それはSDGsの実践的なアクションですね。

加藤 また、ゲームそのものよりも、その先にある「8 働きがいも経済成長も」を見ています。そのうえで、2030年までに達成するように定められている「8」のターゲットの一つ「若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する」を意識しています。

早川 SDGsは、私たちがより良く、より平和で、よりみんなが幸せになれる社会に向けての暫定的な指針です。SDGsアジェンダにも書いてある通り「Transforming our world(我々の世界を変革する)」を大切にする必要があります。そこで大事なのは、世界が変わると共に世界に関わる自分も変わることだと思います。スキルとかの手前にある、姿勢(アティチュード)が大切かと思います。

加藤 目標を掲げることに留まらず、実際に社会を変えようとする姿勢が大切なんですね。

障害当事者のプロジェクトチーム「Fortia」の狙い

バリアフリープロジェクトチーム「Fortia」from ePARA

早川 先日、ePARAは「Fortia(フォルティア)」の活動開始を発表されていました。どのような位置づけでしょうか。

加藤 ePARAはeスポーツを通じて就労支援を行う株式会社で、主体は支援者で構成されています。一方でFortiaの主体は障害当事者の方々です。Fortia内で様々なユニットを作り、様々なバリアフリーを目指して挑戦していきます。ePARAはFortiaの自主的な活動を側面から支援している位置づけです。

なおや 「Fortia」はラテン語で「何かを受け容れたうえで前に進んでいく勇気・力」を意味します。それぞれが異なる障害を持つ私たちにピッタリな言葉だと思い、チーム名に採用しました。

また、Fortiaは当初は「ブラインドeスポーツチーム」として発表しましたが、現在は「バリアフリープロジェクトチーム」と掲げています。これは、eスポーツの勝敗の部分に焦点を当てるではなく、自分たちが何かに挑戦していく姿勢に重きを置きたいからです。こうした名称や立ち位置は、メンバーで何度もじっくり話し合いながら決めていきました。

早川 Fortiaの活動の魅力は、自分たちがやっていくものの言葉の定義とか、そういうのを自分たちでつくっている感じですよね。何でそれができているのかなって思います。

なおや 単純に、やっている取り組みが面白いというのが一つと、雑談も大切にしながら明るいスタンスで会議を進行させていることがあると思います。

加藤 Fortiaが誕生する以前は、ePARAが「これをお願いします」というように業務として障害者の皆さんに依頼をしていました。仕事としては進むのですが、想像の範囲から抜けてくるようなアクションは少なかったです。Fortiaができてからは、仕事というより個々の情熱や面白いと感じることを重んじて活動されています。その影響か、ウワーっと熱量がダダ流れした感じになったんです。皆さんがFortiaを自分のチームとして大切にし、育てていきたい気持ちを強く感じます。

「面倒くささ」が壁を越える力に

早川 文化人類学の立場から考察を進めてみたいと思います。クリフォード・ギアツ(※)という文化人類学者がいます。彼は「文化は意味の網の目」で、「人間は自分でつくったその意味の網の目に絡めとられている存在」だと言います。ふだん人間は生きていく中で網の目にすごくはまっています。例えば、健常者がこうあるべき、障害者はこうあるべき、働き方はかくあるべき、ということです。

※クリフォード・ギアツ 1926年生まれのアメリカ合衆国出身の文化人類学者。ギアツが提唱した解釈人類学は、仮説を実験によって明らかにするものとは異なる、行為者にとっての意味を何重もの文脈の分析から読み解いていく方法として注目された。

加藤 たしかにそれはあると思います。

早川 そういう網の目の存在に自分たちで気づき、それをもう一回ほどき直して、意味の網の目、つまり文化をつくり直していく。 そんな感じがFortiaの中にあるのかなと思ったんです。

しかし、それには、すごく手間がかかります。なおやさんは、Fortiaを作っていく過程に面倒くささを感じることはありますか?

なおや どうなんでしょう。なかなか進まない時はありますが、すごく大変だったなみたいなことは今のところは特にはないです。

早川 SDGsを考えるうえでは、世の中はもっとお互いの関係を考えたりとか個別の事情を考慮したりする「面倒くささ」を増やしていくべきだと思うんです。関係性や個別性とかを回復させていくのが良い気がするんですよね。そこに役立つ可能性があるのがゲームです。

ゲームは、単にある種の現実逃避とか時間つぶしみたいなツールから、関係性や個別性を含み込んで楽しむための場というかメディアになりつつあるみたいな。なおやさんという人物を知って、その練習の過程を知っているから大会でコンボが決まった時により感動する、みたいなイメージです。

加藤 「面倒くさい」ことは、切り捨てた方が実は楽なんですよね。eスポーツのイベントの運営でいえば、決まったeスポーツのルールでやる、補助ツールを使わない、音声読み上げソフトを使うのは禁止など、レギュレーションで縛って多様性を削った方がよほど楽です。

しかし、実はその「面倒くさい」部分に魅力が隠れていて、そこを「ePARAがチャレンジします」と言いたいんです。ePARAやFortiaは、障害を切り口にした挑戦的な取り組みで、「面倒くさい」に価値を生み出す突破口になればと考えているところはあります。

プレーするだけがゲームの楽しみ方ではない

早川 「応援の人類学」(丹羽典生編著、青弓社)という、スポーツやアイドルの「応援」を研究した書籍があります。アスリートやアイドルは主役ですが、応援するファン・スタッフ・環境とか、いろんな要素が渾然一体となって高揚感や自己肯定感みたいなのが生まれると述べられています。たぶんePARAの主催するイベントは、そういう要素を強く持っているのかなと思います。

なおや 自分もやはり目が見えなくて、鉄拳をやるにしても限界はあるし、昔から勉強ができるようなタイプではなかったので、自己肯定感は低めですよ。でもePARAの方々は何かあったら「なおやさんすごいね」って褒めてくれるので、そうなってくると「俺、実はすごい人なのかな?」と思うのです(笑)。

早川 そうなんですね(笑)。

なおや これだけできるんだったら、ちょっとePARAでこういうこともやってみようかな、みたいなこととかもあるので、周りの方に成長させてもらっていると感じるところはあります。応援している人とプレーヤーの関係はきっとそういうところなんですね。

オンラインで対談する3人

組み合わせが新しいものをつくり出す

早川 ゲームタイトル単体や障害支援というカテゴリーだけで見るのではなく、さまざまな人・環境・技術を組み合わせて何か一つの世界を作ることが大事だと思います。文化人類学で「ブリコラージュ」という概念があります。ブリコラージュとは、あるものを組み合わせて新しい世界をつくっていくという意味合いで、「器用仕事」と訳されたりします。ePARAやFortiaでやっていることはブリコラージュだと思ったんですね。すごく奥深いことをやっている気がします。

加藤 自己肯定感も高まります。

早川 勝ち負けだけではなくて、誰が、どこで、誰と、どうやってゲームをしているか、という部分をフィーチャーしたりするのも面白いです。 攻略法とかではなく、ゲームと付き合う方法がいくらでもある、多様でありうるという部分です。バリアフリーeスポーツを考えていくのは僕らのゲームとの付き合い方を多様化するっていうこと、ひいてはそれがSDGsの示すビジョンにも繋がってくるのかもしれないと思います。

加藤 言葉にすると「ブリコラージュ」という説明になるかもしれないのですが、普段やっていることだと思うんですよね。志が近い人を寄せ集めて、今あるものをどう工夫したら全員が楽しめるかっていう、その活動自体が社会的に意味のあると思います。

なおや ゲームを使っていくと、すごく可能性が広がると思います。自分の中でも色々なゲームを通じたコミュニケーションを通して「これはこんなふうに使えるかな?」「あんなふうに使えるかな?」という新しい発見の連続です。新しい発見は、Fortiaで他の障害を持つ方と話をしていくと、より一層大きくなります。こうした発見を組み合わせながら、何か形を作っていきたいなと思いました。

早川 SDGsの視点でいえば、ゲームを通じて、コミュニティーや居場所をつくる、ということに今後の可能性があるのでは、と今日の話を聞いて思いました。コミュニティーはケアの場でもあり、自己肯定感の回復もコミュニティーだからこそできると思うんですよ。

加藤 なるほど。

早川 ビジネスは時に、自己肯定感を折りにくる側面があると思います。そうしたものと引き換えにお金を稼いでいるようなところです。そうではなくて、楽しみを共有し、そして共創していくような、そういった居場所づくりが就労の支援にもつながっていくのではないかと考えています。

加藤 本日はありがとうございました。

(文・ePARA/構成・GAMEクロス編集部)

対談者紹介

早川公

はやかわ・こう 大阪国際大准教授。文化人類学者。関根久雄編「持続可能な開発における〈文化〉の居場所」(2021年、春風社)に寄稿。隔週金曜日午後10時~、stand.fmで文化人類学的ラジオ「早川公のアカデミックソルト」を放送中。

ツイッター:@hayakawa_ko

早川公・大阪国際大准教授

なおや

本名・北村直也(きたむら・なおや) 声優、エンジニア、大の野球好き。 生まれつきの全盲で、「不可能を可能にする男」というキャッチコピーのもと、誰もなしえなかった「視覚障害を持つ声優」に挑戦している。その状況は日々SNSで発信。フォロワーからは「野球の人」という印象が持たれるほど、野球ツイートも熱い。
ツイッター:@noy_0207

なおやさん

加藤大貴

かとう・だいき 国家公務員を経て、「ePARA」代表。NPO市民後見支援協会理事。これまでの略歴などは記事「自分らしく生きていける世界――ePARA代表・加藤大貴氏が国家公務員を辞めて実現したかったこと」で詳しく紹介中。
ツイッター:@koken_3

加藤大貴・ePARA代表

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