スマホ時代の音ゲーと初音ミク

音楽ゲーム史を考えるときアーケードや携帯機と並立して欠かすことができないフィールドが、2010年代に勃興した国内のスマホゲームシーンだ。

2008年には初の国内向けiPhoneである「iPhone 3G」をソフトバンクが発売。2011年の「iPhone 4S」ではau、2013年の「iPhone 5s」「5c」からはドコモでも取り扱いが開始され、三大キャリアが揃い踏みしたことで本格的なスマホ時代が幕を開ける。国内のモバイルゲーム市場は2011年に3000億円程度、2020年には1兆2000億円以上にまで膨れ上がった。ちなみに2013年には、初音ミクとコラボしたAndroidスマホの「Xperia feat. HATSUNE MIKU SO-04E」もソニーモバイル/ドコモから発売されている。

世界的にも、目覚ましい隆盛を見せたプラットフォームに呼応して、2010年代にはスマホ向けに音楽ゲームの波が到来。バンダイナムコが「太鼓の達人プラス」(2010)をリリースして先陣を切ると、その後にはインディ系パブリッシャーが台頭した。

アーケード音ゲー「Theia」「Mozarc」のHYPAAを母体とする台湾Rayarkが「Cytus」を、国内の独立開発者Staによるbit192 Labsが「Tone Sphere」を、それぞれ2012年に公開。以降、無数のiOS/Androidプラットフォーム向け音楽ゲームが、国内外のディベロッパーから継続的にリリースされている。なかでも2015年にリリースされた中国チーターモバイルの「ピアノタイル2」(日本ローカライズ版も「ピアノタイルステージ」として2018年リリース)は、全世界で10億ダウンロードという空前の記録を打ち立てた。

セガ「Miku Flick(ミクフリック)」

このプラットフォームでも、初音ミクと音楽ゲームの関わりに先駆けたのはセガであった。セガは大手メーカーとして初めてのボカロ音ゲー「Miku Flick(ミクフリック)」を2012年3月にリリース。当作は「SEGA feat. HATSUNE MIKU Project」の一環として制作され、リズムアクションゲームであると同時に”フリック操作の練習”にもなるという、国内スマホ黎明期らしい切り口を提示した。後に姉妹作「Miku Flick/02(ミクフリック/02)」(2012/8)もローンチされ、2作は2010年代後半までサービスを続けた。

セガ「Miku Flick/02(ミクフリック/02)」

2020年にはやはりボカロが主体のスマホ音ゲーとして、エイチームとクリプトン・フューチャー・メディアによる新作ゲーム「初音ミク -TAP WONDER-」もリリースされている。

またボーカロイド自身が主役のゲーム以外にも、一般の音楽ゲームアプリにボカロ楽曲が収録される事例は多く見られ、例えば英国lowiro「Arcaea」(2017)、台湾Rayark「Deemo」(2013)、韓国Team ArcStar「OverRapid」(2016)、ブシロード「D4DJ Groovy Mix」(2020)など枚挙にいとまがない。

なかでも特筆すべきはRayark社の音楽ゲーム「Cytus II」(2018)が2019年に実施したコラボレーション事例だ。国内のボカロPに加え、台湾の3R2や米国のAnamanaguchiといった中堅アーティストをもボカロ曲のコンポーザーやリミキサーとして招聘。同社が「Deemo」や「VOEZ」(2016)といった従来作で培ってきた音ゲーとストーリーテリングの融合を、初音ミクのコラボエピソードでも存分に発揮した。なお3R2は前出の「Cytus」「VOEZ」「Arcaea」や台湾Noxy Games「Lanota」(2016)等で、Anamanaguchiは米国Gaijin Gamesの横スクロールリズムアクション「BIT.TRIP RUNNER」(2010)で、それぞれ音楽ゲームへの参加経歴を持つ。

VRゲームと初音ミク

セガ「初音ミク VRフューチャーライブ」

比較的新しいプラットフォームながら、近年の音楽ゲーム隆盛を語る上で欠かせないのがVRゲームだ。

VRヘッドセットのOculus「Oculus Rift」(3月)、HTC「HTC Vive」(4月)、ソニー「PlayStation VR」(10月)が相次いで発売されVR元年と称された2016年ごろから、VR向けゲーム作品が活発に発表されるようになった。

VRプラットフォームにおける音ゲーの可能性も積極的に模索され、2018年にはチェコの開発スタジオBeat Gamesから「Beat Saber」という世界的ヒット作も生まれている。国内でもこれまでのAC/スマホ/家庭用プラットフォームの音楽ゲームメーカーとは異なる新興勢から「ハッピーおしゃれタイム」(2017)、「AIRTONE」(2017)、「SEIYA」(2018)といったタイトルが次々とリリースされた。

2021年にはコナミデジタルエンタテインメント社から完全新作「BEAT ARENA」がリリースされ、コナミアミューズメント社のAC音ゲーであるBEMANIシリーズとのコラボも行われている。

セガ「初音ミク VRフューチャーライブ 2nd Stage」

このVR音ゲー分野にVOCALOIDを持ち込んだのがセガ「初音ミク VRフューチャーライブ」(2016)。前出の「PlayStation VR」プラットフォームのローンチタイトルとして第1作である「~1st Stage」をリリース、最終的に計3作品が配信された。

もともとセガは、初音ミクらボーカロイドキャラクターのライブステージ出演というフォーマットに早期から着目していた。例えば「初音ミク」発売2周年の2009年8月に新木場で行われた、ボーカロイド初の本格的ライブイベント「ミクフェス'09 (夏)」に関与。また翌2010年には、大規模ライブイベント「ミクの日感謝祭 39's Giving Day」をZepp Tokyoで主催している。

VR音ゲーには、音楽ゲームをわざわざVRで行う必要があるのか?という問いが常につきまとう。「初音ミク VRフューチャーライブ」は高度なリズムアクションにはフォーカスせず、プレイヤーがオーディエンスの一人として参加する「最新鋭VRライブステージの体験」を主体に据えることで、一つの回答を差し出した。
また2018年にはDegica社から、やはり初音ミクのダンスモーション+リズムアクションをコンセプトとした新作「初音ミクVR」の配信が開始されている。

音楽ゲームの最先端としての「プロセカ」

セガ/Colorful Palette 「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」

そして2020年9月にセガとColorful Paletteの協業によりリリースされたのが、「SEGA feat. HATSUNE MIKU Project」の新規タイトルである「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat. 初音ミク」(以下、プロセカ)だ。

もともとColorful Paletteは、サイバーエージェント傘下で「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」(2017。以下、ガルパ)を手掛けたCraft Eggの子会社であった。「ガルパ」は、先行して存在したブシロードのメディアミックス企画である「バンドリ!プロジェクト」の一環としてリリース。ブシロード「ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル」(2013)やサイゲームス/バンダイナムコ「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(2015)らが拓いたアイドル系スマホ音ゲーというフォーマットに基本的にはのっとりながらも、他メディア形態との連携も含めて音楽ゲームの可能性を新たに提示。2020年9月時点で2000万人ものユーザーを抱える音ゲーの大ヒット作となった。

そして満を持してリリースされた「プロセカ」もまた、若年層を中心に支持を集め、NHKが2021年4月に行った「ハマっている音ゲー」調査で1位を獲得。「Google Playベスト オブ 2020 日本版」のユーザー投票部門では、ゲームカテゴリの最優秀賞に選出されている。

セガ/Colorful Palette 「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」

ボカロ文化の観点から捉えた「プロセカ」の意義と興味深さはあまりに広範にわたり、本稿ではとても語りきれるものではない。音楽ゲームの観点から特に強調すべき点は、音ゲー文化における「プロセカ」が、これまで述べてきた「初音ミク×音ゲー」の系譜が培った文脈の、一つの総決算としての姿を持つことだ。

例えば本作の示すストーリーと音楽ゲームの高度な融合は、Rayarkの「Deemo」「Cytus II」、近年もコナミ「ノスタルジア」(2017)やアプリボット「SEVEN’s CODE」(2019)などが見事に提示したコンセプトの、さらなる発展系の一つと捉えることができる。そこには前述の通りブシロードやバンダイナムコらが展開しスマホアプリ文化に根付かせた、ソーシャル要素を有するアイドル系音ゲーのフォーマットもまた基盤として存在する。

また「プロセカ」はボカロ既存曲や有名ボカロPによる書き下ろし曲の収録に留まらず、「プロセカNEXT」と称した楽曲公募を、「テンションが上がる曲」をテーマに掲げた2020年10~11月の第1回を皮切りとして恒常的に実施している。これはバンダイナムコ「太鼓の達人」やコナミ「SOUND VOLTEX」が2010年代前半から挑戦していた、積極的な公募企画による、新しい音楽が生まれる場としてのプラットフォーム形成への試みに連なる。

さらに2020年12月には、日本国内のeスポーツイベント「RAGE」内で「プロセカ」の賞金付き大会「RAGE プロジェクトセカイ 2020 Winter powered by AQUOS」が開催されている。プロeスポーツ×音ゲーは、コナミによるリーグ戦「BEMANI PRO LEAGUE」や韓国NEOWIZ社の「DJMAX RESPECT V」大会などにより、世界的にも徐々に道が開かれつつある潮流だ。

90年代に端を発し、四半世紀近くを経てなお目覚ましい発展を続ける音楽ゲーム文化。2007年に萌芽し、多分野のクリエーターと多層のユーザーから支持を集め続けるボーカロイド文化。そしてそれらから延び、発散し、ときには互いに融合する無数の分枝。「プロセカ」はこれらの文脈を次々と巻き込み提示する、令和の時代における最先端の試行である。

音ゲーとボーカロイドのこれから

「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat. 初音ミク」より、ユニットLeo/needのシングルCD「needLe/ステラ」ジャケット

ボーカロイドを取り入れた音楽は、ニコニコ動画をはじめとするインディーズミュージック文化のなかにおいてごく自然に、あらゆる音楽ジャンルを越境して「ボーカロイド音楽」というくくりで受け入れられ発展した。音楽プラットフォームとしてのボーカロイドは若年層のリスナー/クリエーター双方からの支持を受け、そして音楽ゲーム文化とも不可分に結びついてきた。

「ボーカロイド」は、キャラクターを軸とした音楽提示のフレームワークである。それは「ロック」や「ラップ」といった概念と同様、任意の音楽ジャンルに組み込まれ得る要素であり、実際に組み込まれてきた。あらゆる音楽の中にボーカロイドは馴染んでゆき、あらゆる場面でふとしたときにそこに現れる概念となってゆく。

「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat. 初音ミク」より、みきとP「ロキ」プレイ画面

アーケード、スマホ、VR、そしてSteamやSwitchと世界的に発展を続ける各種ゲームプラットフォームの中で、音楽文化と相互に作用しながら続いてゆく「音ゲー」という文化。そこに音楽がある限りの必然として、ボーカロイド文化との相互作用もまた、そこに常にあり続けることになるだろう。

【著者紹介】市村圭

ライター。 専門分野は音楽ゲーム。音楽誌「ポプシクリップ。マガジン」音ゲーコラム連載、ほか音ゲー文化に関する論考など。執筆参加作に「ゲーム音楽ディスクガイド2」(ele-king books)。
Twitter:@kei_conv