「ゲームが居場所に」 フリースクールにeスポーツコース 引きこもりからの回復目指す

eスポーツを活用し、不登校や引きこもりの子どもたちをサポートしている団体があります。フリースクールと通信制サポート高校を運営するNPO法人「高卒支援会」です。eスポーツを居場所づくりや、仲間と同じ目標に向かって切磋琢磨できる手段と位置づけ、「e-sportsコース」を設けています。
eスポーツを活用し、不登校や引きこもりの子どもたちをサポートしている団体があります。フリースクールと通信制サポート高校を運営するNPO法人「高卒支援会」です。eスポーツを居場所づくりや、仲間と同じ目標に向かって切磋琢磨できる手段と位置づけ、「e-sportsコース」を設けています。
「僕がとるから」「早く戻って!」
東京都のeスポーツ施設「eXeField Akiba」。14歳、16歳、17歳の3人が、サッカーとカーバトルの融合ゲーム「ロケットリーグ」を真剣な眼差しでプレイしていました。この施設はNTTe-Sportsがeスポーツ文化の定着を目指して開業。ハイスペックな情報通信機器やデバイスがそろっており、eスポーツに集中するにはもってこいの場所です。
高卒支援会は、この施設を週2度使い、e-sportsコースの子どもたちが大会出場に向けて腕を磨けるようにしています。冒頭の3人も会のフリースクールに通う子どもたちです。
なぜ引きこもりからの回復を目指す団体が、eスポーツを採用しているのでしょうか。
会では以前から、ゲームを引きこもりの子どもたちの会話の糸口に活用してきました。その一つが、相談者の家庭を訪問する際に、元ひきこもりの学生インターン生に同行してもらうことです。
「インターン生がドア越しに『何のゲームをしているの?』と話題にすると、大人たちの呼びかけに無反応だった子が心を開くことも多かったんです」。30年以上にわたって問題に関わってきた会長の杉浦孝宣さん(一般社団法人「不登校・引きこもり予防協会」代表理事)は、そう言います。
今やゲームは子どもたちの「共通言語」。それを奪うのではなく、ツールとして活用する発想です。確かに外出は難しくても、オンラインゲームなら会わずに交流でき、チャットで連絡もとれます。そのやりとりの中で信頼関係を築き、スタッフが外食などに連れ出すこともあったそうです。
杉浦さんはゲームと引きこもりの関係について、次のように語ります。
「引きこもりの子はゲームばかりしていることが多いため、ゲームそのものを引きこもりの原因と考える親もいますが、違います。何もすることがないからゲームに逃げている子も多い。引きこもりや不登校の背景には様々な要因があり、その本質はゲームではないことの方が多いです」
「ですからゲームを無理やりとりあげても、親子げんかになるだけで解決にはつながりません。逆に、これまでの経験から、ゲームを人間関係や居場所づくりとのツールとして活用できることがわかってきました」
eスポーツの可能性に、高卒支援会は着目。今年1月、フリースクールのプログラムの中に、e-sportsコースを立ち上げました。
実際、冒頭の3人にとっても、e-sportsコースが大切な居場所となっています。
「引きこもってゲームをしているときより、今のほうがゲームが楽しいです」。そう語るのがメンバーの一人、ちきさん(16)です。高校入学直後に引きこもりに。現実から逃げるように、ゲームに夢中になっていましたが、どこか後ろめたさがありました。そのときと比べ、eスポーツ大会での勝利を目指し、仲間と顔を合わせて切磋琢磨できる今のほうが、心からゲームを楽しめているそうです。
ちきさんが家の外に出ようと思ったきっかけも、ゲームでした。高卒支援会スタッフによる自宅訪問の際に、「一緒にゲームをしようと」と声をかけてくれたのが、e-sportsコースの魚君(17)でした。それがきっかけで、魚君とゲームをするように。年が近く、引きこもりの経験もあるゲーム仲間ができ、ちきさんは「支援会に行ってもいいかな」と思えるようになったそうです。
高卒支援会ではeスポーツが、考える力の養成にもつながると考えています。
e-sportsコースの3人がプレイしていた「ロケットリーグ」は団体スポーツと同じで、チームの戦略、連携、声かけが重要となります。ゲームが終わった後には、3人はリプレイを見ながら、うまくできたところ、失敗したところを互いに分析し、意見交換していました。ちきさんは「自分の考えをどう伝えるか。人とコミュニケーションをとる勉強になります」と言います。
e-sportsコースの顧問でもある、理事長の竹村聡志さんは「なぜ負けたのかを仲間と分析し、戦略を立て直すことが、このゲームでは大切です。考える力やコミュニケーション能力が養われます」と指摘。「大会で勝ったり負けたりすることも大切です。目標に向けて仲間と一緒に頑張ることで、自己肯定感も育まれます」
竹村さん自身がゲーマーで、学生時代からゲームセンターで腕を磨いてきました。「ゲームセンターは、僕にとって様々な人と知り合える場でした」。そうした原体験から、ゲームはコミュニケーションツールとなりえると感じていたと言います。
「引きこもりの子のお宅にうかがうときには、会話のきっかけとしてゲームの話をします。フリースクール前の授業前にゲームする場を設けたことがあるのですが、ゲームをやりたいからと早く登校する子が増えました。規則正しい生活にゲームが役立つという手応えを感じました」
とはいえ、ゲームへの依存を心配する声もあります。
「フリースクールに通う子どもたちに対し、『自宅では何時までしかゲームをしてはいけない』などの厳しいルールはなく、そこは本人の判断に委ねています。ただ、9時半から始まる授業に遅刻しないこと、勉強と両立させることを大前提としています。もし支障をきたすような場合には家庭を訪問し、本人や家族の同意のもと、デバイスを預かることもあります」
竹村さんの夢は、 e-sportsコースからプロ選手が生まれることです。
「簡単になれるものではないし、生き残るのも厳しい世界です。でも目指す子どもがいたら応援してあげたいと思っています」
子どもたちが規則正しい生活を送ることで、引きこもりから回復することを目指す団体。フリースクールは午前9時半から始まり、自主学習に加え、国語、社会、英語、美術の集団授業を提供。e-sportsコースは集団授業のオプションとして位置づけられており、ほかにもプログラミングやイラスト・デザインのオプションを選ぶこともできる。生徒自らが企画するイベントも盛ん。通信制高校、フリースクールあわせ、計25人の子どもたちが学んでいる。