はじめまして、市村圭(@kei_conv)と申します。 音楽ゲームのファン兼ライターをやっています。音ゲー文化のことを執拗なまでに細かく調べて、執拗なまでに細かく語ります。

さて、2010年代以降の音ゲー文化を語る上で外せないのが、ボカロ文化との関わりです。その歴史を「ごく簡単に」まとめようとしたところ、当初の想定の分量をあっさり突破してしまいました……。細かすぎる音ゲー語りに、どうぞお付き合いくださいませ。

初音ミク×音ゲーの前夜

2020年にセガ/Colorful Paletteからリリースされた「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(プロセカ)は、初音ミクをはじめとするボーカロイドキャラクターや楽曲を題材とした、最新の音楽ゲームだ。本作の背景には、2007年の「初音ミク」発売とボーカロイド文化の隆盛、および90年代に端を発する近代音楽ゲームの潮流と、それら2つの文化に築かれてきた10年以上にわたる関係性がある。そこで本稿では、「プロセカ」に連なる初音ミクと音楽ゲームの関わりについての簡単な歴史を、前後編構成でお届けする。

2007年、ニコニコ動画を主なフィールドとしてボーカロイド文化は黎明を迎えた。その契機となったのが、2000年開始のヤマハ「DAISYプロジェクト」に端を発する音声合成技術VOCALOID、そしてクリプトン・フューチャー・メディア社(以下、クリプトン)が「MEIKO」(2004)、「KAITO」(2006)に続いてリリースした「初音ミク」(2007)だ。同社の「鏡音リン・レン」やフリーウェア「UTAU」など後続ソフトウェアと共に形成したボーカロイド文化は、同人音楽やMAD動画といった先行文化と結びついてクリエーティブな精神に満ちたプラットフォームを形成し、新しい音楽を次々と生み出して行った。

初音ミク Project DIVA MEGA39’s

これら文化を支えたクリエーター、特にいわゆるボカロPとして頭角を現した新世代ミュージシャンたちの中には、先行して存在した音楽ゲーム文化から影響を受けた者も多く見られた。例えば「初音ミク」発売わずか2週間後の2007年9月13日に「恋スルVOC@LOID」でボーカロイドによるオリジナル曲制作に先駆けたOSTER project。同月にオリジナル曲「Packaged」をリリース、ボーカロイドコミュニティーを取り上げたGoogle ChromeのCMソング「Tell Your World」でも知られるkz(livetune)。そして同じく2007年からボーカロイドに参入し、近年は自らのバンド有形ランペイジ名義での活躍も著しいささくれPことsasakure.UKらは、いずれも音楽ゲームからの影響を公言している。

ボーカロイド文化から生まれた音楽そのものは、すぐに音楽ゲームと結びついたわけではない。ゲーム分野で初めて初音ミクの歌声が採用された事例は、日本一ソフトウェアからリリースされたアドベンチャーゲーム「トリノホシ~Aerial Planet~」(2008)。同作ではゲーム音楽家集団ベイシスケイプが音楽を担当、阿部公弘、工藤吉三、上倉紀行、金田充弘が初音ミクボーカルのイメージソングを制作している(ゲーム内では未使用)。

またキャラクターとしての初音ミクも、デジタルワークスエンターテインメント「13歳のハローワークDS」(2008)で初めてのゲーム出演を果たしている。しかしながら音楽ゲームそのものにボーカロイド楽曲が収録されるまでには、いくらかのタイムラグがあった。

一方でボーカロイド文化以前から、音楽ゲームに合成音声ボーカルが持ち込まれた例はいくつか見られた。代表として挙げられるのは、コナミ所属のコンポーザー村井聖夜が自前の音声合成技術を用いて仮想キャラクターALTによるボーカルパートを作成、「pop’n music」シリーズ内で発表した「0/1 ANGEL」(2002)をはじめとする楽曲群だ。また2003年にはソニーから、音声合成によりユーザーが作中キャラに演歌を歌わせることのできる先駆的作品「くまうた」(PS2)がリリースされている。

「初音ミク -Project DIVA-」とその派生

初音ミク Project DIVA MEGA39’s

初音ミクと音楽ゲームの関わりに道を付け、また牽引してきたのはセガだ。2007年内にはすでに企画立案およびクリプトンとの交渉を始めていた同社は、2008年初頭からゲーム試作を開始している。そして初音ミクの発売1周年となる2008年8月31日に「初音ミク -Project DIVA-」(PSP)を予告。同作は2009年に発売され、これが最初の公式な初音ミク×音楽ゲーム事例となった。初音ミク開発者のひとり佐々木渉は2017年のインタビューで、ボーカロイドの文化が商業の分野に広がってゆく時期の大きなトピックスとして、このセガによるゲームリリースを筆頭に挙げている。

セガは同作発売を契機として、「SEGA feat. HATSUNE MIKU Project」のブランドを立ち上げ。ボーカロイド楽曲やキャラクターを全面的にフィーチャーしたゲーム群のリリースを開始、2010年6月には「初音ミク Project DIVA Arcade」によってアーケードゲーム分野にも進出した。

以降、「Project DIVA」シリーズは定番の潮流となり、家庭用据え置き・携帯機・アーケードの各プラットフォームを対象としてこれまでに10作品以上をリリース。2020年には前出SEGA feat. HATSUNE MIKU Projectの10周年を記念した最新作「初音ミク Project DIVA MEGA39’s」(Nintendo Switch)が発売されている。

またセガは2012年に「初音ミク and Future Stars Project mirai」(3DS)を発売。同作はグッドスマイルカンパニーのフィギュアシリーズ「ねんどろいど」のキャラデザインを採用。リズムゲームを主体としつつもAR技術などを積極的に取り入れ”未来ガジェット”をコンセプトとした新しいゲーム性を提案し、2013年、2015年にはそれぞれ続編作も制作された。

コラム後編で述べるスマホ・VR世代の初音ミク×音ゲーの潮流、そして2020年リリースの「プロセカ」は、セガが00年代から築いてきたこれらの流れの先にある存在である。

アーケード音ゲーとボーカロイド

さて、時代をスマホ世代に向ける前に、世界の音楽ゲーム文化勃興を大きく引き立てたアーケード音ゲーの分野についても整理しよう。

音楽ゲームの”起源”についてはアタリ「Touch Me」(1974、AC)、タイガーエレクトロニクス「サイモン」(1978、電子ゲーム)、アスキー「オトッキー」(1987、ディスクシステム)など、音楽ゲームというゲームジャンル分類の曖昧さにより解釈が分かれる。しかしリズムアクションをゲームパートの肝に据えた近代音楽ゲームブームの起点となったのが、家庭用ゲームではソニー「パラッパラッパー」(1996、PS)、そしてアーケードゲームではコナミ「beatmania」(1997、AC)であることには論をまたない。

初音ミク Project mirai でらっくす

以降、アーケードの音楽ゲーム分野では、ジャレコ、アリカ、韓国AMUSE WORLDなど各社が次々に参入する群雄割拠の時代が到来。セガもこの時期に「サンバdeアミーゴ」(1999)、「クラッキンDJ」(2000)といったアミューズメント施設向け作品をリリースしている。

00年代中盤以降は「beatmania」や「Dance Dance Revolution」(1998)のブームを基盤としてBEMANIブランドを築き上げたコナミと、「太鼓の達人」(2001)のシリーズでライト層の人気を確固たるものとしたナムコ(バンダイナムコ)が、国内の音楽ゲーム文化を牽引してきた。

そんな中で初音ミクとのコラボレーションで先行したのは、アーケード音ゲー分野では後発参加となったタイトーの音ゲー×ガンシューティング作品「ミュージックガンガン!」(2009)。主題歌でありプレイアブル曲としても採用された「MUSIC☆STAR feat. 初音ミク」が、アーケード音ゲーで初めて公式にボーカロイド楽曲が導入された事例である。

続いてはセガが前述の通り「初音ミク Project DIVA Arcade」(2010)でボーカロイド楽曲を主体とした音ゲーをアーケードに展開した。2012年には音ゲー×落ちモノパズルを志向したアークシステムワークス「マジカルビート」がリリース。同作ではボカロPとしても知られていた”きくお”が音楽を主導しており、実際に初音ミクによるボーカル曲も取り入れられている。

これら新興の音楽ゲーム群とは対照的に、アーケード音ゲー分野の先行者であるコナミの動きはやや遅れた。皮切りとなったのは、コナミが2012年に立ち上げた音ゲーの新シリーズ「SOUND VOLTEX」(2012)だ。同社音ゲーへの参画を志望するミュージシャンやイラストレーターの登竜門となった公募システム「SOUND VOLTEX FLOOR」を通して、ニコニコ動画・同人音楽分野の新世代アーティストが同作に参入を開始した。

「SOUND VOLTEX」のローンチにあたっては「初音ミクの消失」(2008)などで知られ2010年にはEXIT TUNES(ポニーキャニオン)からアルバムもリリースしたcosMo@暴走Pの他、ピノキオピー、蝶々P、マチゲリータP、八王子PことP*Lightらが初音ミク音源を採用した楽曲を提供。これらがコナミ音ゲーの収録曲に初音ミクが用いられた最初期のケースとなった。

またコナミは、VOCALOID技術を用いた株式会社インターネット「メグッポイド」と、そのアバターキャラクターであるGUMIを積極的にプッシュ。GUMIボーカルをテーマとした書き下ろし楽曲の公募を複数回にわたり実施した。ちなみにGUMIは同時期、Paraphra 社によるノンシリーズの音楽ゲーム「Megpoid the Music #」(2013、PSP)でも全面的にフィーチャーされている。

セガ「maimai でらっくす Splash PLUS」

2015年ごろからは、コナミ「SOUND VOLTEX」やセガ「maimai」への前出「初音ミクの消失」収録をはじめ、様々な合成音声ソフトウェアを用いた既存楽曲が各社の音楽ゲームに次々と収録される風潮が続いている。

セガ「初音ミク Project DIVA Future Tone」より、OSTER project「ピアノ×フォルテ×スキャンダル」プレイ画面

2011年ごろから急速に発達したスマホ音ゲーや、2016年をターニングポイントとするVR音ゲーと初音ミクの関わり、そして2020年の「プロセカ」事例の興味深さについても今後、紹介していきたい。

セガ「初音ミク Project DIVA Arcade Future Tone」より、まらしぃ「アマツキツネ」プレイ画面

【著者紹介】市村圭

ライター。 専門分野は音楽ゲーム。音楽誌「ポプシクリップ。マガジン」音ゲーコラム連載、ほか音ゲー文化に関する論考など。執筆参加作に「ゲーム音楽ディスクガイド2」(ele-king books)。
Twitter:@kei_conv