いま、日本で大人気のゲームタイトルの一つに「Apex Legends(Apex)」がある。

全世界で2番目にシェアを誇り、「Apex大国」と言える日本では、国内最大規模のApex大会「CRCup」において同時接続者数11万人を記録するという恐ろしいコンテンツに成長した。トップインフルエンサーや漫画家、芸能人やアスリートまでもがこのゲームに熱中しており、一つの社会現象になっているとも言える。

そんな人気を誇るこのゲームにも、長年オンラインの世界を悩ませ続けてきた「魔物」が潜んでいる。

その名も「チーター」 だ。

ヒョウ柄模様をしたネコ科の動物ではなく、ゲームにおいて専用のソフトなどを用いて不正を行う「チート」を使う人たちの呼び名である。ゲームで人気者になろうと使用するもの。ゲーマーから尊敬されるためだけに、偽りの強さを金で買うもの。チーターには様々な種類がいる。

これらの行為は、ゲームの売上に損害を与える、もしくは著作権を侵害しているなどと判断された場合、犯罪行為として罪に問われる可能性があるものの、対策を講じるメーカーとその穴をつくチーターのいたちごっこが続いているのが現状だ。

チート行為が問題になっているのは日本だけではない。先日、中国のチート販売業者が逮捕されたことをBBCが報じた

ゲームの不正行為が犯罪にまで繋がってしまうということに恐怖を覚える人もいると思うが、今回触れたいのはそこではない。注目すべきは、この販売業者がチートだけで「約84億円」もの大金を儲けていたということだ。

このニュースを受け、この記事ではゲームとチートの現状を整理し、チートを使用することと、チートという選択肢を無くすことが今後業界にどのような影響を与えるのかを考察したい。

「1日約1000円」で強さが得られるなら?

この記事を読むまで、チートという存在を知らなかった方もいるだろう。そこで、もう少しだけ詳しくチートというものを説明しておきたい。

チートは英語で「いかさま」「ずる」などを意味する言葉であり、ゲームにおいては「ゲームを有利に進めるための行為」を指す。数あるゲームの中には制作者が意図してチートを用意していることもあるが、最近ではもっぱら「プログラムを不正に操作すること」を指すことが多い。

スーパーマリオを例に話してみると、8の面が難しくてクリアできないから、常にスター状態で動けるように不正にプログラムをいじる……と想像してもらえればわかりやすいはずだ。

先に挙げたApexを含め、筆者がよくプレイする「FPS/TPS」でもチート行為が問題になることは少なくない。VPNサービスを提供するSurfshark社が今年2月に公開した調査結果によると、国内でも絶大な人気を誇る「フォートナイト」のチート関連動画がYouTube上で2,600万回以上再生されていた。このことからも、FPS/TPSジャンルにおけるチート行為への関心の高さが伺える。

※Surfshark社の調査は「最もチーターが多いゲーム」と題されているが、あくまでもYouTubeにおけるチート関連動画の再生回数を比較したものである。

FPS/TPS競技シーンの歴史は長く、eスポーツ市場全体で見ても最も盛り上がりを見せているジャンルのひとつだ。プレイヤーは常に研究を続け、成長し、トッププロはコンマ1秒以下の判断が求められる世界で勝敗を競っている。

これらのゲームには、何千時間という時間をかけてもたどり着けない境地にいるゲーマーが世界中にいる。彼らに勝つため、いや、同じ土俵に立つにしても、想像を絶するほどの時間を投資する必要がある。だからプロは称賛されるし、「ゲームが上手い人」には価値があるのだ。

ではもしも、その境地に至る “強さ” がたったの「1日約1000円」で得られるとしたら?

その需要を明確に表したものが、チート販売業者の売上総額「約84億円」である。

「犯罪」になり得るチート、なぜ減らない?

チートには様々な定義や種類があるため、一概に犯罪だと決めつけることはできない。しかしゲーマーなら誰が見ても「良し」と言えない行為に、ここまでの需要があることは驚きという他ない。

私自信チートを使用したことはないし、身近にチートを使っていると思われるゲーム仲間もいない。ましてや実力に見合わない勝ちにこだわりもいないため、チートに手を出す動機もない。

しかし長くゲームを続けてきた身として、一度は1つのゲームに本気で向き合った身として、「何かを捨ててでも得たいものがある」という気持ちは理解できる。好きなことで稼ぎたい。有名になりたい。周りから自分のプレイを褒めてもらいたい。承認欲求と「何を捨てるか」の天秤は、若ければ若いほど曖昧になる。

あくまでも一個人としての意見だが、私はこれほどまでにチーターが増えてしまう理由は、あまりにも「手に入るものが多すぎる世の中」になっているからだと思う。

基本プレイ無料のゲームが主流となり、大学の課題はインターネットに転がっている記事をコピー&ペーストして終わらせ、ついにはゲームの強さまで「買えば良い」と思えてしまう時代になったのではないか。

私はeスポーツ業界で様々な活動をしてきたが、私も含め若い世代が圧倒的に多い。同世代で輝かしい活躍をしている人が多いからか、「自分もゲームプレイで成功できる」「その気になればあっという間にフォロワーを増やして、有名人になれる」と思ってしまう。

本来どんなことでも、何かを得るためには地道な努力と膨大な時間が必要だ。自分の人生を懸け、全てを犠牲にした結果、何も得られないことだってある。チートなんてものを使わず、最後まで自分の力だけで勝負し、消えていったプレイヤーも数多くいる。

それがゲー厶。それがeスポーツという世界なのだ。

若い世代がその現実に目を向けられるかどうかが、チート問題解決の糸口になるのではないだろうか。少し大きな話をすると、「観客に見えづらい不正」であるチート問題を解決できるかどうかが、eスポーツが世間で認められるかどうかの境目であるとも私は考えている。

遊びから競技へ変わるゲームの世界で、チート問題を解決するには

チート問題の解決策について結論から話すと、私は「ゲームへの認識を変えること」こそが解決への一歩になるなのではないかと考えている。

我々ゲーマーにとってチートは悪であり、事実犯罪として認められているから悪であることに変わりはないのだが、「悪いことだから止めろ」と言うだけでは永遠にチーターとの距離は縮まらない。

というのも、確率的にはもう身近にチーターがいてもおかしくないはずなのに、私たちは潜在的に「自分の友達がチートなんか使っているわけがない」と思いがちだ。善良なゲーマーは「悪と自分は無関係である」と信じていて、チーター自身も「自分は悪ではない」もしくは「悪であるとバレない」と思っているから、一向に問題が解決しない。

その平行線を少しでも近づけるためには、「ゲームは『単なる遊び』以外の側面を持つ」ことをより多くのゲーマーが知る必要があると思う。

チーターの中には遊び半分で使っている人もいて、ゲームに真剣に取り組む人間の心理が分からない人もきっといる。そんな人々にも理解を求めることは困難を極めるが、残念なことにプロゲーマーと呼ばれる人やストリーマーでもチートを使って姿を消した事例も多い。

私がそう信じたいだけかもしれないが、きっと彼らは仕事としてゲームに取り組むうちに自身の利益だけしか考えられなくなってしまい、不正行為に手を出してしまったのだろう。個人の目先の利益が全体の損失に繋がることは、どの業界でも起こり得る。

大きな話になってしまったが、いちeスポーツファンとしては、「プロ」を名乗り競技シーンで活動している人間が勝利のために必死に努力している他の選手たちを侮辱する姿は見ていてとても悲しい。

特に昨今では、「プロゲーマー」という職業が小中学生のなりたい職業の上位に位置するようにもなった。好きなことで生きていける。ゲームプレイでお金がもらえることはとても夢のあることだし、夢を抱いて生きることは本当に素晴らしい。

しかし、それがいつしか仕事や勉強に対する逃げの口実になってしまったり、自分の欲を満たすためだけの道具になってしまっていることもある。そうならないためにも、我々の世代がゲーマーが積み上げてきた努力を知るべきだし、伝えるべきだ。

これからの世代に、チートという選択肢を与えてはいけない。

私ができるのは、この記事が「チートとはなにか」「ゲームとはなにか」を考えるきっかけになることを願うことだけである。

【著者紹介】よろず

株式会社RATEL所属。eスポーツチーム「Knew Blue」代表。以前はeスポーツチーム「Quintette」に所属。高校2年の時、Quintette広報としてnote投稿を始める。noteフォロワー7600人。執筆活動、ブランディング、マーケティング、eスポーツチーム運営など、eスポーツの「よろず屋」として活動している。現在、大学生。
Twitter:@yoro2u