札幌市の国立病院機構北海道医療センターで、入院患者ら5人がネットでつながり、ボイスチャットをしながら、オンラインゲームを楽しんでいる。

「行ける。勝てるぞ。押し込め」

「でも、いま攻めるの怖くない?」

熱狂しているのは、世界で最もプレーヤー登録数が多いオンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」。5人1組の2チームが対戦し、相手陣地を攻略する陣取り合戦だ。

北海道医療センターの作業療法室でeスポーツを楽しむ患者たち(同センター提供)

この医療センターで、数年前にLoLチームを組織したのは吉成健太朗(25)。運動神経細胞が変性し、筋肉が徐々に萎縮していく脊髄(せきずい)性筋萎縮症(SMA)を患う。同じ病院に入院するSMA患者や筋ジストロフィー患者らに声をかけて5人を集めた。対戦イベントに参加したり、オンラインで相手をランダムに見つけたりして、試合を繰り返す。

入院している病室に設置されたモニターや機材を使い、eスポーツに取り組む吉成健太朗(国立病院機構北海道医療センター提供)

地元札幌の出身。生まれたときの検査でSMAと診断された。根本的な治療法が確立されていない難病で、15年前から長期の入院生活が続く。

「日常生活に関することは、すべて介助が必要です。指も上下で5センチほどしか動かせません」。そう話す吉成が使うのは、その範囲内の指の動きですべての操作ができる特別なコントローラーだ。同センターの作業療法士、田中栄一(49)が改造した。

「みんなと同じようにゲームができて、遊べて、友達からいろんな評価をもらうなかで成長もしていくし、興味も広がっていく」と話す田中は、患者の障害にあわせ、あごや視線などでも操作ができるさまざまなコントローラーを工夫してつくっている。

北海道医療センターでは、作業療法士の田中栄一が、難病患者らそれぞれにあった機材を工夫してつくったり、購入したりしている(同センター提供)

両親にコンピューターを買ってもらった小学校高学年のときにオンラインゲームを知った吉成は、夢中になった。eスポーツとの出合いは中学生の時、ネット情報でプロ選手がいることに驚いた。

「障害者がeスポーツをできるわけない」。一般的にそう思われるのは分かっていた。そう決めつけられることが障害者の可能性を狭め、「もったいないと思った」。同じようにできることがあると、アピールしたい。病院内でチームをつくり、日本各地の企業や高校のeスポーツ部と練習試合をしてきた。うわさを聞きつけて、LoL開発元の米ライアットゲームズ日本支社から担当者が直接会いに来たこともある。

病室に設置されたモニターや機材を使い、「リーグ・オブ・レジェンド」をプレーする吉成健太朗(国立病院機構北海道医療センター提供)

「本気でやっていいのかと、みんな聞くんですよ。障害があるから手加減したほうがいいんじゃないかって。でも、実際にゲームをやると僕たちが勝つんです」と笑みを浮かべた吉成。「障害に関係なく、時間を共有して楽しめる。本来ならば出会えなかった人たちと、つながることができるのがうれしい。それがすごく大切で、貴重なことだと感じます」

同じくSMAで入院中の新井海斗(22)は、吉成の考えに賛同してチームの一員となった。「障害者の中から将来eスポーツのプロプレーヤーがでる世の中になってほしい」と期待する。

北海道医療センターの作業療法室で、特別に改造された機材を使い、eスポーツを楽しむ新井海斗(同センター提供)

多くの人たちと関わることが増えたことで、気持ちが明るくなったという。病院内でもう1チームつくることになったときは、コーチ役を務めた。普段は話すことのない別病棟の入院患者とつながりができたことがうれしかった。

ある日、いつもの5人の予定があわず、足りない人数をオンラインで見つけて即席補充することにした。そのゲーム内で新井がミスをしたとき、新たに加わったゲーマーがこう言った。

「お前、害児かよ」

もちろん相手は新井に障害があることは知らず、冗談のつもりだったようだ。実際に試合後には「害児とか言ってごめん」と話しかけられたので、「いいよ、僕は本当に障害者だから」と応じたら、ものすごく謝られたという。

指が動く上下5センチの範囲内で操作できるように改造されたコントローラー。作業療法士の田中栄一が、吉成健太朗のために工夫してつくった(国立病院機構北海道医療センター提供)

ゲームのできる障害者がいるはずないという先入観があるから起きる差別がある。eスポーツ大会では通常、正規のコントローラー使用しか認めない規定があり、特殊なものしか使えない吉成たちが参加できないのもその一例だ。障害者限定の大会もでてきているが、それは吉成たちが目指すものとは異なる。

「eスポーツで障害者の存在が当たり前と認識されたときに初めて、本当の意味で障害者理解が進んできたと実感できる。これを実現することが、僕たちの目標です」。吉成がチームを代表し、メンバー全員の共通の思いを強調した。