「人と同じは嫌」 ブレない姿勢が生む

fron選手の「ぷよぷよ」キャリアの始まりは小学生の頃でした。

「低学年の頃に初めて「ぷよぷよ」を遊んだのですが、当時プレイしていたタイトルは5連鎖まで組み上げると「ばよえーん」という連鎖ボイスを聞けたので、それを目標に遊んでいました。4年生くらいから上級者の動画を見るようになって対戦を始めたので、今『レジェンド』と呼ばれている世代の影響はかなり受けています」

今ではプロとして肩を並べているKamestry選手やくまちょむ選手のプレイに大きく影響を受け、アーティスティックな連鎖に憧れたというfron選手。オンライン対戦で練習を積みながらも、彼らが主戦場としていたアーケード版でも強くなりたいという思いからゲームセンターにも通いました。そんな上達過程で生まれたのが「fron積み」です。いや、正確には「fron積み」という呼び方が生まれたと言うべきでしょうか。

「他の方もたまに組んでいた形ではあったんですが、使っている人も少なくて名前も決まっていなかったのに、僕がその積み方ばかりするので『fron積み』って呼ばれるようになったんです」

fron積みを組み上げるfron選手(右)。右の盤面における紫と青がつながった部分が重要=「ぷよぷよファイナルズ SEASON3」より

組み上げるまではわずかな手順の「fron積み」ですが、一見シンプルに見えるこの置き方がfron選手によって多用されるまで特定の呼び方をされなかったのは、ひとえに完成後の難易度の高さから。配色によって多彩な引き出しが要求されるため対戦で安定して使用するには相当な練度が必要とされ、使い手のfron選手をして「難しいですよね」と言わしめる土台です。

では、なぜfron選手はこの積み方にこだわるのか。その理由はfron選手の「練習していく段階で、どうしても『人と同じ形を組みたくない』という気持ちがあったんです」という言葉が示す通り、使っている人がいなかったという「唯一性」を重視した結果でした。

「ぷよぷよ」対戦において大きなウェートを占める土台の形を、使いやすさを度外視して選ぶ。ともすれば無謀にも思われるチャレンジを始めたfron選手でしたが、これと決めた手順をひたすら組み続けることでその戦術を磨き上げると、数々の大会での勝利につなげてきました。ぶれずに貫きつづけたことで、いつしか無名の難解な土台は自身の代名詞へと昇華したのです。

環境にあらがい、唯一性にこだわる

インタビューに応じるfron選手

恐らく世界で最も「fron積み」を熟知し、その強みも弱みも把握しつくしたfron選手。スペシャリストとして分析する長所には「大連鎖を組みながら速攻ができること」を挙げ、序盤から2連鎖トリプルにも4連鎖にも移行可能な構えを取れる柔軟性が魅力と語ります。

ただ、使い手として知れ渡っているfron選手と対戦するとなれば対戦相手もその特徴を研究・警戒してくるため「誰もが速攻を警戒していて、効果が薄いのであまり狙わない」という悩みも。それでも速攻を警戒している隙につけ込むなど、相手を見て対応する「柔軟性」もこだわりをやり通すには必要なエッセンスになっています。

そして、強い唯一性への探究心は土台だけでなくプレイスタイルにも表れます。多くの「ぷよぷよ」上級者は先んじて小さな連鎖を打つことで相手の連鎖を邪魔したり、それを嫌った相手の動きを誘発して時間的優位を作ったりという動きが一般的です。しかし、fron選手はやはりこの「皆が狙う戦法」は好みません。

「先に攻めることの強さは分かっているのですけど、あんまり自分から攻めたくないんですよね。中盤戦での読み合いを制して、相手の攻撃をいなし完璧に勝ち切りたいんです。どこか考え方のネジが外れているのかも知れないですね(笑)」

人と同じは嫌。この執着心に近いこだわりの強さは「ぷよぷよ」以外にも向けられ、シミュレーションゲームでは強いキャラよりも好きなキャラを選び、カードゲームでも環境を支配しているデッキは使わないという徹底ぶり。

「ランドセルを買ってもらう時にも『普通の黒は嫌だな』って言ってネイビーを選んでいたので、生まれつきなんでしょうね。でも、あえて強い戦術やキャラクターを使わずに戦うからには勝たないと意味がないと思いますし、それを覆せなかった時は悔しいです」

「自分は変わっている」と笑う口調は終始柔らかいのですが、時折出る力強い言葉からはプロらしい意思の固さを感じさせます。意図的にトップメタではない手法を選んでも、勝てなければ「結局は性能の良さが大事なのか」と思われてしまう。そこにあらがいたいという情熱が強さの源になっています。

「長崎から」の思いを胸に今なお成長中

「ぷよぷよファイナルズ SEASON3」で訪れた神田明神で撮影に臨むfron選手

「ライバルだと思うプレイヤーは?」という質問に対して挙がったのは、ヨダソウマ選手ぴぽにあ選手の名前。特に1997年生まれの同学年であるヨダソウマ選手は長崎から上京してくる以前から知り合っており、互いに切磋琢磨し高め合う間柄。「直接対決は負け越してるかもしれないですけど、最近の大会成績だと僕が勝ってるかな」と、今後もバチバチの関係は続きそうです。

公式大会「ぷよぷよ チャンピオンシップ」のSEASON3で年間王者に輝いたぴぽにあ選手とも互いに意識し合う相手ですが、その力関係はここ最近で少し変わってきています。

「ぴぽにあ選手は実力も練習量もすごくて、一時は勝てそうにないとも思っていました。でも自分も状態が良くなっているのでイメージは悪くないですね。恐らく、めちゃくちゃ攻めてくるTomさんと頻繁に練習しているのが効いているんだと思います。ガンガン来る戦法は苦手だったんですが……。あまりにも経験を重ね過ぎて、克服してきたのかもしれないですね」

公式大会で解説を務めるTomさんとの練習頻度については「もう毎日のように対戦してるんですよ」と少し苦笑いを浮かべたfron選手ですが、まだまだ成長曲線は上昇の途中。公式大会でも上位進出を果たすことが増えていますが、実はそうした表舞台ではかなり緊張していることも明かしてくれました。

「大会はもう何回目か分かりませんけど、いまだに寿命が削れるんじゃないかというぐらい緊張します。でも緊張するあまり判断ミスが生まれて普段とは全然違うプレイをしてしまうことがあるので、あまり入れ込み過ぎないようにしないといけません」

「ぷよぷよファイナルズ SEASON3」のセットを前にポーズを決めるfron選手

最近は「勝てるときは勝てる」という精神で挑むようにしていると言い、それが昨今の好調を支える要素のひとつなのでしょう。それだけ緊張できるほど試合に熱い意気込みを持てるのは、東京進出を果たしてなお薄れない地元への思いの強さからです。

「自分は出身県の長崎に居た頃から「将来は東京に出て対戦を頑張りたい」と思っていたんです。今はプロ選手と言う想像以上の立場でそのイメージが実現していますし、地元からも応援の声を頂いているので、頑張りたいです」。そう語る目には、プレイスタイルへのこだわりと地元への思いが秘められていました。