今回は、ゲーミングオーディオを中心に展開するブランド「EPOS」が販売するカナル型の完全ワイヤレスイヤホン「GTW 270 Hybrid」を紹介します。EPOSの担当者さんから提供していただいた製品ではありますが、忖度を抜きにして使った感想など述べていきます。

EPOSは、オーディオ機器メーカーとして有名なゼンハイザーとともにゲーミングヘッドセットなどを作っていたDemant社が起ち上げたブランド。ゼンハイザーに縁のあるブランドとあれば、本製品の作りに期待する方も多いかと思います。

で、ぶっちゃけどうなんだと聞かれると「ゲームをプレイしていても違和感を覚えづらいこと(遅延が少ないこと)が特長の完全ワイヤレスイヤホン」であり、そこに魅力を感じるなら購入を考えて良いモノだと言えます。

良いところ・気になるところを簡単にまとめると以下の通り。

良いところ
●「aptX LL対応」かつ「完全ワイヤレスイヤホン」の存在はレア
●aptX LLのおかげで遅延を感じづらい
●ペアリング済みのトランスミッター(USBドングル)付き
●スマホ・ゲーム機・PCどれでも接続可能
●イヤホンのフィット感は良好

気になるところ
●比較的高価(トランスミッター付きの本モデルは約2.7万円、3月25日に発売する単体モデルだと約2.3万円)
●ゲームをがっつりプレイする人にとっては駆動時間が短いかもしれない(約5時間)
●トランスミッターを使いながら通話はできない(別途マイクを用意する必要がある)
●充電ケース表面は傷が付きやすい
●イコライザー兼ファームウェアップデート用アプリの挙動が不安

「低遅延」×「完全ワイヤレスイヤホン」の存在感

「GTW 270 Hybrid」の最大の特長は、「完全ワイヤレスイヤホン」でありながらBluetoothの低遅延なコーデック「aptX Low Latency(以下、aptX LL)」に対応していること。この記事を書いている2021年3月時点では、この組み合わせを実現した製品は珍しいのです(aptX LLに対応した「ワイヤレスイヤホン」ならまぁまぁ見かけるようになりました)。

左右のイヤホンがケーブルでつながっていない、完全ワイヤレスイヤホンである「GTW 270 Hybrid」

そもそもワイヤレスイヤホンの無線方式は、Bluetoothが主流です。Bluetoothイヤホンを使ってゲームをプレイすると、ゲームの映像と音がズレて(遅延が発生して)遊びづらく感じた経験はあるかと思います。これは個々の製品が悪かったり使用環境の影響だったりするケースもありますが、それ以前に「Bluetoothってそういうものだから」といえるケースもままあります。

もう少し詳しくいえば、音を圧縮するBluetoothの規格「コーデック」が関わってきます。コーデックはいくつか存在し、種類によって音声データをどうやって圧縮しているか、どのくらいのスピードで運べるかといった特徴が異なります。つまり、音声データを運ぶスピードが遅くなりがちなコーデックによって大きな遅延が生まれることもあるのです。

aptX LLは低遅延であることを特徴としたコーデックであり、これに対応している「GTW 270 Hybrid」はゲーム用途に役立つかも、とスペックシート上は判断できます。

音ゲーでも使えるレベルの低遅延!

コーデックは遅延に影響する要素なのですが、それだけですべてが決まるわけではありません。本製品で実際にどのくらいの遅延が発生するのかは、試してみないとわかりません。

というわけで、スマホと「GTW 270 Hybrid」をaptX LLで接続して使ってみました。このときに必要な準備は、本製品に付属しているトランスミッター(USBドングル)をスマホに挿し、スマホのBluetooth機能をオンにするだけ。はじめからトランスミッターとイヤホンのペアリングが終わっているので、何も設定する必要はありません。イヤホンを装着すればすぐに使いはじめられます。

なお、PCやゲーム機との接続も同様の方法で接続できるので、デバイスの種類をあまり気にせずに使えるのはうれしいですね(iOSの接続はサポートされていませんが)。

トランスミッターの接続端子はUSB Type-Cを採用している
Androidスマホとトランスミッターを接続したところ

そんなスマホ環境で音ゲーやFPSをプレイしてみたところ、とくに問題や違和感なく遊べました。これはすごいことなのですが、この遅延の小ささを僕個人の感覚でいくら語っても参考にならないのかなと思います。

そこで、今回は遅延を計測できるアプリを使いました。アプリはセキュリティーに不安のある、いわゆる「野良アプリ」と呼ばれるものなので僕としては使用を推奨しませんし、測り方は力技なので正確なデータとは言いづらいです。外部環境や使用デバイスによっても計測結果は左右されることもあり、ここでお話するデータは参考程度にとどめていただけるようご留意ください。

計測結果

上のスクリーンショットは計測結果です。「GTW 270 Hybrid」を使ったときの遅延を5回測ったところ、平均値は91msでした。
この結果にはスマホ・OSに起因する遅延も含まれるので、その遅延を引き算することで「GTW 270 Hybrid」由来の遅延を割り出します。僕の使っているスマホの遅延(正確にいえばスマホ+USBオーディオの遅延)はアプリ提供サイトによると「11~22ms」とあり、自身で測っても20ms前後だったので22msとしておきます。
となると、「GTW 270 Hybrid」の遅延は91ms-22msで69ms、0.069秒となります。

つまり、僕の普段の環境にプラス0.069秒の遅延が発生することになります。プロシーンやわずかな差が勝敗を分けるシビアな世界に身を置いている方にとっては(この製品だけでなくワイヤレスオーディオ全般が)無視できない遅延かもしれません。しかし僕の場合は音ゲー(タップタイミングを調整する機能は使用しますが)を支障なくプレイできたこともあり、たいていの方にとっても影響は少ないレベルの遅延だと思われます。

なお、イヤホンのファームウェアバージョンは「7.2.37」、トランスミッターは「3.3.43」に更新してから計測しています。手元に届いた状態のファームウェアだと平均値は82msだったので遅延が大きくなっていますね……(接続は安定しているっぽいですが)。

製品を受け取った状態の計測結果

ちなみに、詳しい方だと「aptXの遅延って70(±10)msで、aptX LLだと約40msじゃん?」と思うかもしれません。それはそうなんですけど技術仕様なだけで、実際は製品ごとに異なってくるものだと思います。あと、先述しましたが計測方法がややラフなので、その影響もありそうです。

イヤホンの対応コーデックはSBCとaptX、aptX LL。aptX接続時の平均値は300msほど。テストするごとに値は290~310ms程度と、かなり変動しました

見た目も装着感も音質も良い

遅延についてずっと話していましたが、そろそろ別の視点でのお話もします。
まず「GTW 270 Hybrid」の見た目の話から。イヤホンも、イヤホンの充電や収納に使うケースもマットな仕上がりで、ゲーミングデバイスの一種には見えないほど落ち着いたデザインは好みです。外出時に使っても目立たないので、普段使いにも似合います。

充電ケースにイヤホンを収納したところ
ケース背面には、ケースを充電するためのUSB Type-Cポートを備えている

EPOSによれば、10万件以上の耳のスキャンデータを元にイヤホンのフォルムを設計したそうです。実際に装着すると、イヤホンがカナル型(耳栓型)なので異物感は拭いきれないものの、余計な圧力がかかっているようには感じませんでした。左側のイヤホンは約6.1g、右側は約6.6gとそこまで重くないこともあり、充電が切れるまで装着していても痛みを感じずに快適に使えています。

長時間使っていると耳の中が蒸れてきますが、これも密閉感の強いカナル型ならではのデメリットでしょう。

イヤホンを装着するとこんな感じ

音については低音が少し弱く感じますが、そのほかはバランスよく鳴っている印象。音の鳴る方向もそこそこわかりやすく、ゲーム用に使っても問題はなさそうでした。

USB Type-CからUSB Type-Aに変換するケーブル、充電ケース用ケーブル、サイズ別のイヤーピース、トランスミッター用ケースなどが付属する

気になるポイントをまとめて紹介

「GTW 270 Hybrid」の気になる点や注意点も挙げていきます。まず、本製品はイヤホン部にマイクを搭載しているものの、トランスミッターを使ってaptX LLで接続すると通話ができなくなることは覚えておきましょう。これはaptX LLの仕様に起因するものなので、本製品がダメというわけではありません。トランスミッターを使うなら(aptX LLで接続するなら)、別途マイクを用意する必要があります。

また、充電ケースの表面は傷がつきやすい仕様なので、取り扱いにも注意。持ち運ぶときはカギなどの硬いモノと一緒にしまわないようにしましょう。

ここからは個人的に気になるポイントを挙げます。

最初に気になったのは駆動時間。スペックシート上だとイヤホンのバッテリー駆動時間は最大5時間と短めです(僕が実際に使ってみると5.5時間程度でした)。完全ワイヤレスイヤホンとしては普通の部類に入るかもしれませんが、がっつりゲームで遊んでいるときに充電が切れてしまうなんてこともあります。そのため、ゲームの休憩を挟むときに充電ケースに入れて対策するのがやや面倒に感じました。

あと、これは自分だけなのかもしれませんが、サイズ別に4種用意されているイヤーピース(イヤホンに装着済みのもの+サイズ別に3種付属)がどれも合いませんでした。材質のせいか、本製品を使っていると耳の中が痛くなってしまうのです。他社のイヤーピースを別途購入して使っていますが、本製品はイヤーピースを挿し込むノズルが低めなようで、イヤーピースと高さが合っていません。しかしこちらのほうが快適に使えるので、この状態で使用を続行しています。

正直に言えば、価格も引っかかりを覚えます。トランスミッター付きの本製品は税込2万6800円で、3月25日から販売されるイヤホン単体だと税込2万2800円。「ゲーム用途でも実用的なレベルの低遅延を実現した完全ワイヤレスイヤホンがほしい」という方に向いた製品で、その点を重視しているなら購入を検討する価値はあります(ライバル製品もほぼいませんし)。

僕の場合だとそこを重視しきれておらず、「たしかにそれは魅力的だけど、そんなにお金を出せるならもっと音質や定位性に優れた有線のイヤホン・ヘッドホンや、完全ワイヤレスという点は妥協してaptX LL対応のワイヤレスイヤホン+トランスミッターを探したい」と思ってしまいます。あと5000円ほど安かったらなぁと思わずにはいられない価格設定だと感じます。

本製品とは直接関係ありませんが、EPOSブランド製品に向けたWindows 10用アプリ「EPOS Gaming Suite」も紹介しておきましょう。本アプリはイコライザーやバーチャル7.1chサラウンドサウンド機能、イヤホンとトランスミッター本体のファームウェアアップデート機能などを搭載しており、それぞれ残念に思う部分が散見されます。

イコライザー機能そのものに不満はそんなにありませんが、プリセットが「MUSIC」「ESPORT(TREBLE)」「MOVIE」「FLAT」の4つだけなのが寂しい……。ゲームジャンルやタイトル別に、EPOSが推奨するプリセットは提供してほしいと思いました。

「EPOS Gaming Suite」のイコライザー画面

また、ファームウェアアップデート機能はアップデートを済ませても同じアップデートをするよう促されたり挙動が不安だったりで、やや信用に欠けます。Windows 10以外のOSで本アプリが提供されていない点も難点でしょう。「GTW 270 Hybrid」がスマホでの利用に適していることを考えると、ファームウェアアップデートだけでもスマホ上から行えるようにしてもらえたら、と思ってしまいます。

本アプリは「Sennheiser Gaming Suite」から改名・アップデートされており、イコライザー機能は周波数特性をより細かく調整できるようになるなど改善も見られたので、今後に期待したいです。

「アップデートが利用可能です」をクリックするとアップデートがはじまる

そういった気になる点はあるものの、完全ワイヤレスイヤホン特有の手軽さや、フィット感の良いフォルムは好みなので「GTW 270 Hybrid」はスマホと組み合わせて利用しています。ヘビーゲーマーよりはライトゲーマーに向いた製品で、ケーブルの煩わしさから解放されたいことに重きをおく方にオススメです。