集英社の漫画誌アプリ「少年ジャンプ+」に掲載された「IGNITE」という漫画を読んで、多くのゲーマーが心を動かされるのではないだろうか。

今やゲーマーが主役のコミックスは珍しいものではない。プレーヤーから裏方まで多角的な視座を見せた「東京トイボクシーズ」(うめ)や、ゲーマーに共感の笑いを巻き起こした「ゲーミングお嬢様」(原作:大@nani/作画:吉緒もこもこ丸まさお)などがあるが、筆者として印象深いのはやはり「ウメハラ FIGHTING GAMERS!」(原作:友井マキ/作画:西出ケンゴロー)だろうか。あの梅原大吾のもと、とあるビデオゲームの、とある地域の、とある時代、とある人間、極限までフォーカスを絞った”戦史”は忌憚なき作画ともども、ビデオゲームやeスポーツといった文脈からさえ独立した傑作といえる。

ただそれでも、俵京平の「IGNITE」にはこうした名作をもってしても、今までにない肌がヒリつくような緊張感がある。それはどうしようもなく、リアルなのである。リアルというのは、例えば勝つための道筋を選ぶうえで選手同士が衝突するとか、そういうことではなく、限りなく今のeスポーツシーンで、具体的には「League of Legends」(LoL)の国内リーグ「League of Legends Japan League(LJL)」で起きていることを、ギリギリの範囲内で漫画という表現で再構築している点にある。

「世界では負けたけど国内リーグを6連覇しただけでも偉い!」

「あん時は6畳のワンルームに男6人が集まって…クーラーもない部屋でカップ麺ばっか食って練習してたな…」

「金目当てで子供を搾取するゴミカスみてえなハイエナ共がうろうろしてる」

印象的なセリフが多い「IGNITE」

これらの多くが、私が実際のプロチーム関係者と話す限り、事実としてあった、あるいはあることだ。「IGNITE」はeスポーツが興行として当たり前に成立した時代で、こうした暗く重い現実を受け止めたVAMPIRE E-SPORTSのEVEは、明星煌という未来ある少年と出会い、初心であった夢を恢復する、そういう物語である。

現在のeスポーツシーンにある障壁をルポルタージュ的に描写しながらも未来への希望も見いだす「IGNITE」。一体どのような作家がこのように鋭いeスポーツ漫画を描けるのが疑問に思い、作者である俵京平さん(@tawara_1112)に今回取材させていただくこととなった。

なお、取材は昨今の事情を鑑み、オンライン上でのやりとりで完結している。

――俵さんは、「少年ジャンプ+」にて2019年からスタートした「恋獄の都市」が初連載作品とお伺いしておりますが、漫画を書き始めたきっかけや、プロに至る活動経歴などを教えてください。

昔から漫画家が夢でした。「ONE PIECE」や「DEATH NOTE」などの作品に触発され、小学生の頃からB5のノートちぎって作ったオリジナルコミックを制作していました。それから色んな出版社に持ち込んだり、新人賞に応募したりしいてたんですが、結果はあんまり良くなくて。諦めようかなーってなっていた時、友達から辞めるなら最後にジャンプ行こう! ジャンプ! って言われまして(笑)。正直自信はなかったんですが、そのまま持ち込みをして、少年ジャンプ+の方を紹介してもらい、今の編集さんと出会うことができました。

――俵さんご自身はゲームをプレーされますか?

最近はあまりやり込んでいないので、息抜きに軽く遊ぶ感じでやってますね。MOBAは色々プレーしてみました。特にLoLは途中3~4年くらい休んだ時期もありますが、始めたのは9年くらい前ですね。9年目でやってやっとプラチナになりました。

FPSは本当に才能がなくて、一番長くプレーできたのが「オーバーウォッチ(OW)」でした。OWはエイムが悪くてもなんとかなったので、ダイヤモンドランクまでいけましたね。その前は音ゲーにハマってて、よくゲーセンにも通ってました。格ゲーは友達がうますぎて、一緒にやったらボコられるだけだったのが嫌で諦めました(笑)。 最近プレーしたのは「リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト」とか「龍が如く」、あとは「Outer Wilds」とか「原神」とかですね。

作中のゲーム「Crown of Chaos」は実在のMOBAに酷似している

――今回俵さんの描かれた「IGNITE」はeスポーツ、そして現役プロチームのMOBAでの活動を描いていますが、これらをテーマとした理由をお聞かせください。

プロゲーマーの人生ドラマが描きたかったからですね。ゲームのジャンルに関しては特にこだわりはなかったんですが、MOBAなら世界で一番人気のあるジャンルでちょうど漫画的にも映える要素があるなーと思い、テーマとしました。

――チームの不和、外国人であろう朴の存在、そして田舎から来た新人など、個人の努力や才能のみならずプロのチームスポーツである点に注目した理由をお聞かせください。

少年スポーツ漫画だからです!(笑) 1人に焦点を当てるだけじゃなくてチームのみんなで支え合う姿が描きたかったからですね。外国人や田舎から来た新人とかは、「プロゲーマーになりたいという一心で各地から夢を持って集まった」という状況がまた彼らの本気度を見せられるんじゃないかなと思い、入れることにしました。

プロを目指す少年に出会い、主人公のEVEは少しずつ初心を取り戻していく

――eスポーツを扱うフィクションが未だ抽象的な内容が多い中、国内と海外の大きな壁や、給与未払いに触れるなど、リアルさにこだわった理由、そしてどのように調査されたか教えてください。

多分他のeスポーツを扱うフィクションとはジャンルが少し違うんだろうなーと思います。正直「IGNITE」はゲーム自体の面白さがわかる漫画ではないと思います。「IGNITE」は子どもの頃に読んだ漫画「ヒカルの碁」から色々と影響を受けておりまして、「ヒカルの碁」のファンタジー性がありながらも、とてもリアルな感じがする世界が好きでした。

だから私もよりリアルにeスポーツの世界を描いてみたくなりましたね。業界の暗い部分や問題について敢えて言及したのも、よりリアルな世界を伝えるためです。調査は……そうですね。恥ずかしながら昔、自分もマイナーなゲームでプロの世界に片足を入れたことがありまして。その時感じたことと、普段から色んな大会やプロゲーマー業界情報をよく見ているので、それを混ぜて使いました。

――俵さんの実体験も含まれているとのことですが、「IGNITE」の中で最も感情移入して描けたキャラクターはどなたですか?

やっぱ主人公ですね。自分はもちろんトップ層ではなかったんですが、ゲームに対する熱が溢れた頃を思い出しながら描きました。

――「IGNITE」は読み切りでしたが、今後eスポーツの漫画を描かれる予定はありますか。またどのような作品を描きたいなどの展望はありますか。

今のところは読み切りを描いただけでも満足しています。でもいつか連載版も描きたいですね。ゲームの漫画を描くには、ゲームをするよりももっと面白い漫画を描かねばならないという大きな課題があるので、その問題をクリアしつつ、時代に合うeスポーツ漫画をいつか描きたいと思っております。次に連載したい作品は、前作が暗すぎる話だったのもあり、より明るくて、勇気を与えられる漫画が描きたいですね。

――「ゲームをするよりももっと面白い漫画を描かねばならない」とはどのような課題でしょうか。それを超えるために何が必要なのでしょうか?

ジレンマだと思います。「ゲームをプレーするより、ゲーム漫画を読むのにあなたの貴重な時間を使ってください!」ということですが、ゲームが大好きな人からしたらゲームに時間を使いたいし、そうではない人はそもそもゲーム漫画に対する興味が薄い。なので普通の漫画より読者層を絞ってしまうんじゃないかなと危惧しています。これを超えるには、やっぱりもっと面白い漫画を描いて、ゲームに興味がない方にまで届くようにするしかないなと考えています。

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eスポーツシーンが直面する問題を描きながらも、未来への希望も示されている

ゲームそのものではなく、ゲームをとりまくリアルな世界観やヒューマンドラマに魅力を見いだし、そこで自身のプロゲーマーとしての経験を糧に描かれていた「IGNITE」。いつかは連載版、あるいは明るくて勇気を与えられる作品も検討しているという。次もeスポーツをテーマとするかは未知数だが、俵さんの次回作に期待したい。