eスポーツはエンターテインメントとしてだけでなく、教育の観点でも注目されています。

北米教育eスポーツ連盟「NASEF」(North America Scholastic Esports Federation、ナセフ)は、⽶国カリフォルニア州に本拠地を持ち、eスポーツ×教育の分野で先進的な活動を進めてきたNPO団体です。2020年11月には、ゲーミングPCメーカーの株式会社サードウェーブと提携し、日本本部として「NASEF JAPAN」を設立するなど日本においても動きを活発化させています。

「NASEF」の活動内容とその成果から、今後の日本におけるeスポーツと教育のあり方のヒントを考えてみたいと思います。

ゲームを通じたチャレンジで身につけるスキル

NASEFの役割(提供:NASEF JAPAN/NASEF)

NASEFは、教育とeスポーツの融合を「Scholastic Esports(教育的eスポーツ)」と捉え、ゲームを通じてチャレンジを楽しみながら、次世代が求められる共感⼒や共創⼒、想像⼒、問題解決⼒などを養うことをその目的としています。

主な活動は「コミュニティーの形成」「カリキュラムの開発・提供」「クラブ・部活動の活性化・支援」。そして、学術機関と連携し、施策効果を測るための「リサーチ」も行われています。

自分を成長させるためのコントロールに効果

「教育的eスポーツ」で得られたスキルに関する研究結果(提供:NASEF JAPAN/NASEF)

「教育的eスポーツ」の実施前と実施1年後を比較したリサーチでは、5つのカテゴリーにおいてどの程度スキルアップが得られたのかを可視化しました。リサーチ前には、「科学的調査と分析」「数学:問題解決、推論、知識の応用」のような論理的思考への効果が目立つのではないかと想定されていましたが、実際には「社会的感情学習」の結果が顕著となっています。

「社会的感情学習」とは、目標を達成するために、どのように自分を成長させていくかのコントロール、そして周囲とコミュニケーションを取りながら合意形成し、前に進めていくためのスキルです。NASEFでは、この「社会的感情学習」を先行きが見通せない社会の中で次世代が成長していくために必要なソフトスキルと捉えており、教育プログラムの設計においても重要なポイントとしています。

ゲームの枠を超えた課題

NASEFのオリジナルプログラムの一つに「Beyond the Game Challenges(ゲームの枠を飛び出す課題)」があります。与えられた課題に対して、生徒と先生が共にチャレンジし、その成果をもってアワードが贈られるコンペティション形式です。

特徴的な名前の通り、ゲームの成績を競うものではなく、ゲームを取り巻く課題をどう解決すべきか、もしくはゲームで何が解決できるのかなど、競技者以外の視点でゲームに向き合える内容になっています。

「Beyond the Game Challenges」の課題(提供:NASEF JAPAN/NASEF)

課題を通してeスポーツの「職業体験」

NASEFでは、eスポーツ業界における主な15のキャリアパスを「eスポーツエコシステム」として定義し、大きく「ストラテジスト」「コンテンツクリエイター」「起業家」「運営」の4つのカテゴリーに分類しています。「Beyond the Game Challenges」の課題は、実践を通してこれらの職業を体験できる仕掛けです。

eスポーツエコシステム(提供:NASEF JAPAN/NASEF)

また、実際の取り組みにあたっては、生徒たち自身が主体的に考えて行動することが求められます。

たとえば、自分たちの活動の情報発信一つとっても、まずeスポーツに関するリサーチからはじまり、親や周囲の人に理解してもらうためのメッセージ作りが必要です。SNSを活用する場合は何を発信するべきなのか、コメントがあった際のリプライのスタンスなど、運用ルールの整備やガイドラインも含めて生徒自らが設計していきます。

生徒たちは課題を自分たち自身で見つけるところから始め、課題解決のためにどんな役割をもってチームに貢献すべきなのか、自分の得意不得意や興味の方向性を「eスポーツエコシステム」を手がかりに見つけ、将来どのようなキャリアに進むべきなのかのヒントを得ることができます。

教育に「eスポーツ」が貢献する理由

NASEFの内藤裕志さん

「NASEF」の活動の主目的は、勝てるプロプレーヤーを育てることでもeスポーツ業界の発展に貢献することでもありません。

では、教育に「eスポーツ」を取り入れる意義はどこにあるのでしょうか。

NASEFでeスポーツ戦略室チーフを務める内藤裕志さんは「教育にeスポーツを取り入れる最大の理由は、仲間同士で切磋琢磨できる環境があるということです。リアルスポーツや芸術にも当てはまりますが、中でもゲームはプレーヤーの数が多く、子供たちが日頃から興味をもってやっているので、教育においても間口の広いチャネルとして優位性があります」と説明。もう一つの理由として「オンラインで繋がる」ことを挙げ、「国境や言語の壁を超えて、ゲームという共通の興味をもった同世代や世代の離れた仲間とも集まることができるのはソフトスキルを養うためのよい環境です」と語ります。

そして、新型コロナウイルスの感染が拡大する中では、オンラインであることを生かしたNASEFのプログラムが人気になりました。北米だけでなく、カナダやメキシコでも盛り上がった「Minecraft COVID-19 Design Challenges」です。

このコンテストでは、NASEF出題のテーマに対し、子供たちがオンライン上でチームを組んで挑みます。たとえば課題の一つである「inform the public」は、コロナウイルスに関する正しい知識を世の中に知ってもらうためのチャレンジです。

この課題では、マインクラフト内に有益な情報を提供する図書館や博物館を作ることを求めていますが、作品の完成度だけでなく、お題の意図を十分に理解したうえで必要な工夫がなされているか、そしてチームとして成り立っているかも審査されます。

日本での「教育的eスポーツ」の展開

NASEFのプログラムでは、教育現場のフェローの先生からも「生徒たちが目的を持って行動するようになった」と成果を認める声がありました。

では、日本において、eスポーツ×教育の可能性を広げていくためにはどのような変化が必要になるのでしょうか。

内藤さんはまず、eスポーツやゲームの「社会的立ち位置」を変える必要性を指摘します。「日本でも、賛同を得られる学校や保護者と一緒に、どうしたらeスポーツを活用することで教育によい効果を生み出せるのか、事例紹介も通して発信できればと思います。ゲームのネガティブな面がフォーカスされがちですが、評価が裏返るようなことがあれば、ゲームの立ち位置も変わり、子供たちに提供できる教育の機会も広がると思います」と話しました。

eスポーツ×教育の現場に必要なガイド役

教育に取り入れるには「教育する人」も重要です。部活動と同様に、指導するコーチの不足が想定される中では、プロプレーヤーの活躍の場面ともなりそうです。しかし、内藤さんは必ずしもゲームが強くなくても指導はできると考えています。

「本当に必要なのは、どう生徒を成長させるか。それは、ゲームが強くなくてもできることです。生徒たちはiPhoneやiPadを説明書なしにも使いこなすように、興味があるものはどんどん吸収していきます。テクニックの指導よりもガイドをしていくことが、教育の場においては大事だと考えています」

日本では現在NASEF JAPANを設立。国内の48の学校と取組みを進めていますが、更に多くの学校に広げる活動しています。日本での活動について、内藤さんは「NASEF JAPANでは、eスポーツリーグも開催いたします。パフォーマンスを発揮できる場所であるとともに、先生たちがチームや部活について情報交換できるコミュニティーとしても提供したいです。我々と一緒に、ゲームを通して子供たちのことを考えられる組織や団体を広げていきたいです」とビジョンを語りました。

NASEF JAPAN 国際教育eスポーツサミット 2021

国内外の教育現場でeスポーツを活用する事例と可能性を深掘りするオンラインシンポジウムが開かれます。
【開催日】3月20日12:00〜15:00
【参加申込期間】3月17日23:59 まで
【参加対象】教育関係者、学校関係者、教員、生徒、自治体、行政関係者、企業、eスポーツ関係者(興味のある一般の方も参加可能です)
【参加方法】オンライン・ライブ配信(Zoomウェビナー)
【参加料金】無料
【主催】北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)
【後援】一般社団法人全国高等学校eスポーツ連盟、クラーク記念国際高等学校