メジャータイトルにおける世界王者

glory選手は昨年末、ハースストーンの世界大会「2020年ハースストーン世界選手権」で王者となった。

「日本人が世界王者になった」ことは広く報じられた。しかし「ハースストーンで」世界王者になったことの偉業っぷりは語り尽くされていないように感じる。

ハースストーンは世界で最もメジャーなデジタルカードゲーム(以下、DCG)のひとつなのだが、具体的なプレー人口はあまり知られていない。

Activision Blizzardは2018年にプレーヤー数が1億人を突破したと発表。以降のプレー人口は明らかにされていないが、サードパーティーの統計サイトによると、2021年に入ってからも時間帯によっては20~27万人の同時接続者数を誇っている。

2020年3Q(7~9月)のEsports Tier。画像は「Esports Observer」より引用

また海外eスポーツメディア「Esports Observer」によるEsports Tier(eスポーツタイトル格付け)では常に上位入りを果たしている。DCGとしてはもちろん、eスポーツタイトル全体で見ても大きな影響力を持つタイトルだとわかる。

と、ここまでハースストーンを持ち上げたものの、国内の実情に目を向けると全く違う景色が見えてくる。

日本における2020年のEsports Tiers。画像は「配信技研(giken.tv)」より引用

上記は配信技研が公開した「Esports Tiers in Japan 2020」である。国内の競技大会、もしくは競技に近い大会の視聴時間を基に格付けしたもので、表を見れば明らかなようにハースストーンの名前は存在していない。2019年も同様だ。

つまりハースストーンは海外でこそ盛り上がりを見せているものの、国内の競技シーンへの注目度はそこまで高くないのが実情だ。

裏を返せば、プレー人口においても、競技シーンの盛り上がりにおいても恵まれた環境とは言えない日本から世界王者が出たのだ。過去にKno選手がベスト4に入賞したものの、世界大会で優勝したglory選手はまさに規格外の存在と言える。こういった環境下でglory選手のような世界王者を輩出できたのは、濃密かつ良質な日本のハースストーンコミュニティーがあってこそである。

アジア王者を経て世界王者に

glory選手とは一体何者なのだろうか。

彼は2016年からハースストーンをプレーし始めており、すぐ競技シーンに参入している。そしてこの4年間で着実に実績を重ねてきた。

特に注目したいのは昨年6月に行われたアジア大会「2020年グランドマスターズ・シーズン1 アジア太平洋」において優勝を果たしたことだろう。同大会では同じ日本人であるAlutemu選手とposesi選手もそれぞれ3位と4位に輝いており、「日本人の上位入賞ラッシュ」を決めた極めて稀な国際大会となった。glory選手はアジア大会優勝によって、2020年度の世界大会におけるアジア代表枠を獲得するに至ったのである。

サラッと紹介したこのアジア大会優勝、これがすでにぶっ飛んでいる。そもそもこのアジア大会は年に2回しか開催されない大規模大会である。アジア地区の大規模大会での優勝自体が、ハースストーンにおける日本史上最高の実績なのだ。

マジですごすぎるぞglory選手……。

苦しみながらも勝ち抜いた世界戦

そして昨年12月13日、ハースストーンの世界大会がスタートした。今大会は2019年と同じく、各地域から選出された代表8名によって覇を競うダブルエリミネーション形式の大会だ。ただし昨年の世界大会は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、オンラインにて開催されることとなった。

「2020年ハースストーン世界選手権」の様子

世界大会の初戦はglory選手にとって厳しい結果となった。優勝候補の一角であるJarla選手とのマッチアップとなり、この試合では一つの白星もとれず0対3。惨敗であった。

ダブルエリミネーション方式なので敗者復活戦が用意されていたものの、glory選手にとっては間違いなく最悪の初戦となった。

そこからの復活劇は、見事という他ない。

敗者復活戦の1戦目は、2019年シーズン世界2位であるアメリカ代表のbloodyface選手。2020年シーズンのアメリカ大会では堂々の1位を取っており、アメリカだけではなく世界においても比肩する選手が殆どいない強敵であった。初手はbloodyface選手が白星をあげてリードを許すも、glory選手が華麗な3タテを決めて3対1で撃破。

2戦目の中国代表XiaoT選手に対しても、同様の試合運びだった。初戦の進化シャーマンに対しては敗北を喫するも、3タテで逆転勝利。勢いに乗ったglory選手の好調具合は、敗者復活3戦目Monsanto選手との対局において最高潮に達し、ここに至って一つのゲームすら落とすことなく3対0のストレートで勝利した。

そうしてようやく辿り着いた世界大会決勝戦ではJarla選手と再び相まみえる。ハースストーンの公式が後に発表した「Top 5 Moments - World Championship」において1位に輝くシーンが、この決勝戦で生まれる。

大会ではウェブカメラによって選手の表情が常に画面に表示されていた。選手達の表情は冷静沈着、ポーカーフェイスが多い中、glory選手は豊かな表情やリアクションを見せていた。普段から静かに闘志を燃やすような鋭い目つきが特徴的だが、苦しい場面では険しい表情を隠さず、戦況が好転すると笑顔も漏れる。

優勝した瞬間の感極まった様子には、見ている人の多くが暖かい心持ちになっただろう。表裏のない感情表現豊かなキャラクターも、glory選手の魅力をさらに引き立たせる。

今後、多くの日本人が様々なタイトルで活躍していくのではないか。そう思えるくらい、国内ゲーマーのレベルは急激に上がってきている。その中でも頭一つ抜けた偉業を達成し、今もなお成長し続けている偉大な世界チャンピオンglory選手に敬意を表したい。

改めて、glory選手おめでとうございます。