専攻で育むコミュニケーションと人間性 生徒たちの成長

eスポーツ専攻で学ぶクラーク記念国際高校の生徒たち

1992年に開校したクラーク記念国際高校は全国に50超のキャンパスがあり、1万人以上の生徒が学んでいます。通信制でありながら毎日通学する「全日型教育」をメインとした教育スタイルで、カリキュラムの柔軟性が特徴です。web学習などを組み合わせて在宅で学ぶスタイルもあり、不登校などを経験した生徒にも学びの選択肢が用意されています。

同校の秋葉原ITキャンパス(東京都千代田区)は、「好きなことから未来を広げる」というコンセプトで2019年にeスポーツ専攻を設置。5対5のチームで戦う「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」を採用し、セレクションを経て選ばれたメンバーで全国大会に臨んでいます。eスポーツだけを学ぶのではなく、午前は国語や数学といった一般科目を学び、午後にeスポーツ関連科目を学ぶカリキュラムです。

クラーク記念国際高校のeスポーツ責任者・笹原圭一郎教諭は専攻の狙いについて、こう話します。「eスポーツをする上で大切なのはコミュニケーション。ある程度の実力になると、技術ではなくコミュニケーション面で勝敗が決まります。それからチームマネジメント能力や英語も必要です。eスポーツ業界で活躍する人材を育てることはもちろん、人間性を育てる観点から教育をしています」

クラーク記念国際高校の笹原圭一郎教諭

当初は「eスポーツを通じて高校生の学びになるのか」といった指摘もあったといいます。それでも、2019年の第2回全国高校eスポーツ選手権で同校のチームは準優勝に輝いたほか、2020年の高校対抗eスポーツ大会「STAGE:0」でも準優勝となりました。

生徒たちの成長を笹原教諭は肌で感じています。「大会に出場するチームのメンバーでミーティングを開き、目標を共有し、金曜を含む週末の夜には必ずチームで練習します。週末の練習試合で問題点を見つけ、翌週までに解決。そうした小さな目標を積み重ねて、一人一人が勝つために行動したことが結果につながったと思います」

それでも、入学を希望する保護者らには、eスポーツにマイナスのイメージを持つ人もいるそうです。笹原教諭は「だからこそ、教育的な成果が出た、成長した、ということを表現したい。生徒には『君たちの行動が日本のeスポーツの将来を決める』と常々話しています」と強調しています。

eスポーツ教育の拠点化をめざす

「CLARK NEXT Tokyo」のeスポーツアリーナ

さらに、クラーク記念国際高校は今春、新キャンパスとなる「CLARK NEXT Tokyo」を東京都板橋区に開校し、eスポーツに関する教育に一層力を入れる方針です。eスポーツコースを設け、同校のeスポーツ教育の拠点に位置づけます。高速回線、ゲーミングPCを設け、大会を開催できる「eスポーツアリーナ」など専門設備を備えます。このほか、ゲーム/アプリ、ロボティクスという2コースも設置し、学んだ知識や技術を社会に還元することをテーマにした教育をめざしています。

CLARK NEXT Tokyoを担当する入試広報課の成田康介課長は「まだ日本では、eスポーツを教育に採り入れることは広がっておらず、イメージもばらばらだと感じますが、教育に活用できると確信しています。また、フィジカルな活動ができない状況下でも、大会が実施できるほか、性別や年齢、身体の状況に左右されにくく、多くの人が参加できる。この新しいスポーツを社会のために活用できる人材を育てる必要があると思います」と語っています。

「CLARK NEXT Tokyo」の部屋に並ぶパソコンやゲーミングチェア

学業と両立してプロ活動も 現役大学生たちの活躍

高校から大学に進むと、どのような活動になるのでしょうか。現在、各地の大学にeスポーツサークルが作られ、対抗戦が開かれるなど、学生同士の輪も広がっています。

学生コミュニティー支援プログラム「LeagueU」の主催で、全日本大学選手権「LeagueU JAPAN COLLEGIATE CHAMPIONSHIP 2020」という大会が昨年8~9月に開かれ、白熱した試合が繰り広げられました。その大会から追加されたタクティカルFPS「VALORANT」部門で初代王者になったのは近畿大学esportsサークルでした。また、LoL部門は東京工科大学「A2Z」と慶応義塾大学「TitanZz チーム1」の決勝となり、数多くの大会優勝経験のある強豪校で、プロ経験のある選手も抱えた東京工科大学が3連覇を果たしました。

健闘した慶応大「TitanZz」の約80人のメンバーは、「LoL」や「VALORANT」をはじめ、カードゲーム「シャドウバース」など、タイトルごとの部門に分かれ、オンラインでの交流やイベントの企画などに取り組んでいます。メンバーには初心者もいれば、プロとして活躍する選手もいます。

LoL部門の4年生・yukiame0選手は大学でeスポーツに打ち込むことについて、「普通のスポーツと同様にeスポーツは自分で考えて研鑽を積んでいくことが必要です。学生時代にeスポーツを真剣に取り組むことで自身の成長にもつながると思っています」と話します。そして、サークルで取り組むことについては「チームスポーツとして真剣にプレーしていますので、意見を出し合ったり、連携をとったりして勝ち取る勝利にはとても達成感があります」と意義を感じています。

プロだけではない活躍の場 業界を支える人材育成

社会に出たら、高校や大学での経験をどう生かすのでしょうか。eスポーツ大会などを運営する株式会社RIZeST(ライゼスト)の代表取締役・古澤明仁氏がeスポーツと出会ったのは2013年のことでした。前職でパソコン周辺機器メーカーに勤めていた際に、eスポーツを生かしたマーケティングを学ぶうちに魅せられたそうです。

「最先端のスポーツとして注目されるが、最もeスポーツに魅力を感じるのは、その逆のアナログな部分。ゲームが好きで、上手で、友達と一緒にやっていて、という人がプロになり、生活が変わり、人間性まで変わる。この素晴らしさを伝えたいと思いました」

eスポーツにはプロプレーヤーだけでなく、競技の設計、大会や会場運営、放送といった仕事もあります。年間約400の案件に携わるRIZeST社はそのノウハウを蓄積していましたが、コロナ禍の中でeスポーツ以外にも応用できると感じたといいます。

プロサッカーチームのオンライン交流戦のほか、アニメ関連企業が参加したオンライン展示会や商談会など、eスポーツ業界以外からRIZeST社に声がかかりました。培ってきた制作のスキルが様々な場面で社会の力になると確信した、と語っています。

「eスポーツが盛り上がれば盛り上がるほど、プロを目指す人はたくさん出る。でも、本当にプロになれるのは、ごくわずか。だが、そこで志を折ってほしくない。運営スタッフなど業界を支える人材は不足しており、業界で活躍できる才能に出会うことを楽しみにしている」。古澤氏は力を込めました。

アメリカの教育現場では 自ら考え、行動する力を養う

NASEFの内藤裕志さん

日本よりも大きな市場を持つ海外にも視点を向けてみます。アメリカに本部のある北米教育eスポーツ連盟「NASEF」(North America Scholastic Esports Federation)では、教育とゲームの融合に取り組んでいます。また、eスポーツを通じた次世代の学習や教育の促進を目的に、教育プログラムを開発しています。主な対象は日本の高校生に相当する世代です。

実際に、eスポーツがどのような形で教育的な価値を生み出しているのでしょうか。NASEF でeスポーツ戦略室チーフを務める内藤裕志さんによるとNASEFは学術機関と連携し、eスポーツを始める前と後の効果を調査。子どもたちの能力がどうスキルアップしたのかを検証すると、「科学的調査と分析」や「問題解決、推論、知識の応用」よりも、「社会的感情学習」の伸びが顕著に見られました。

内藤さんは「社会的感情学習とは、考える力や対人スキル。自分をコントロールしながら目標を設計し、どう自分を成長させるのか。どう周りとコミュニケーションを取るか。こうした力は、若者たちが成長し、社会に出ていくために重要な能力ではないでしょうか」と指摘。それらのデータを踏まえ、自分たちで考え、行動することを重視したNASEFの教育プログラムを、内藤さんは「自分が進む道で活用できる考え方を見つけてもらうため」と説明します。

米国全土、カナダやメキシコでも展開

例えば、あるプログラムでは、高校最後の年に実際にイベントを運営します。「ゲームのイベントの企画」「ゲームを作る」「情報発信」など、子どもたちの要望を聞き、役割を与えています。その学習を通じて、お互いが連携することを学び、キャリア像を具体的に描くことができるようになるそうです。

2018年4月の立ち上げ時はカリフォルニア州の28校38チームがNASEFのプログラムを導入しました。2020年8月時点では米国全土の48州900校以上に拡大。カナダやメキシコでも展開し、5000人以上の生徒が参加しており、「eスポーツを教育現場で生かす取り組みは急成長している」と内藤さんは話しています。