「あれ、やばくなかったですか?」「やばかったですねぇ」

VALORANTの関係者の間でそう話題になったできごとがある。10月2~4日に行われた超大型国内大会「EDION VALORANT CUP」。

準決勝で優勝候補筆頭だったAbsolute JUPITERをSCARZ(@SCARZ5)が打ち破った。そして、彼らは決勝でも強豪のDetonatioN Gamingを打倒し、悲願の優勝を飾った。一連の流れは「やばかった」と言え、それでいてその一言では収まりきらない衝撃を見ている者たちに与えた。

しかしSCARZはその直前の7~9月の3カ月、「RAGE VALORANT JAPAN TOURNAMENT Powered by GALLERIA」を除けば完全に負け越していた。「暗黒期」に入っていたと言っても過言ではなかった。では、なぜ彼らは「国内最強」のJUPITERを押しのけ、DetonatioN Gamingをも退けることができたのか。

SCARZに所属しつつも、SCARZを最も俯瞰する男、「VALORANT」部門コーチのClaireことibot氏(@scarz_ibot)に話を聞いた。

今年一番のジャイアントキリング「EDION VALORANT CUP」

SCARZのメンバー

――「EDION VALORANT CUP」について、いくつか聞かせてください。まずはどんな練習が効果的で、刺さったと思いますか?

断定できませんが、いくつかあります。

まずは普段のスクリム(練習試合)。「試す」ことに重点を置き、勝敗に関しては全く気にしないように注意したことです。練習として、経験を蓄積することにフォーカスしました。勝ちにこだわると試したい作戦ができなかったり、良い所や悪い所が見えづらくなったりするので。

「EDION VALORANT CUP」が特にそうだったんですけど、普段のスクリムでの練習・反省点を生かして淡々と実行していたら勝てた感覚なんですよね。実際、「勝ったけど実感がない」といったコメントをしてた選手もいたんですけど、いつも通りやってたら勝ったという。練習通りのパフォーマンスを出すことに集中してたら優勝した。そういう感じでしたね。

また、「RAGE VALORANT JAPAN TOURNAMENT」でSCARZの体力がないことが分かったのは大きな収穫でした。一時的ですが、対策として体力づくりなども取り入れることにしました。筋トレとかではなくて、スクリムの練習量を増やし、動画を見る時間もあえて増やして、「集中力が持続すること」にフォーカスした練習メニューです。

長時間やるのはキツくて選手も嫌がるので今はやっていませんが、大きな大会の前にはそういうメニューを組んでいました。

細かい話ですが、バインドについては「EDION VALORANT CUP」の1週間前ぐらいに立ち回りや考え方を5000文字ぐらいでまとめたテキストを作って選手に見てもらい、それが実戦でうまく機能したと思っています。

――ibotさんのバインド専用メモ! ibotさんの直接的なアドバイスって、SCARZの試合にかなりの影響を与えそうです。

あっ、それに関してちょっと脱線するんですけど、実は僕が好きな言葉があって。ビジネスYouTuberの人の言葉なんですが……(笑)。

――なんで恥ずかしがっているんですか(笑)。「ビジネスYouTuber」っていう響きが耳慣れないのは、なんとなく分かりますけども……。

すみません……(笑)。とりあえず、「一流のサービスをしたいなら、一流のサービスを受けろ」っていう言葉が好きなんです。

自分で言うのもあれですけど、「オーバーウォッチ」の選手時代に相当な経験を国内と国外で蓄積したので、だからこそ僕なら大舞台や辛い期間で役に立つアドバイスを伝えられるんじゃないかなと思っています。今のSCARZメンバーは「EDION VALORANT CUP」までだと3人しかオフライン経験が無くて、僕の経験が役に立つ余地もあると感じました。

――「EDION VALORANT CUP」などのオフラインにおいて、ibotさんが伝えた最も重要なアドバイスはなんですか?

オフラインは空気にのまれたら完全に終わりなんです。根性論だけで「空気にのまれるな」って言うのは簡単ですが意味が無いので、そうならないように事前準備とか作戦とか立てていました。ただ、それが通用しなくなった場合の他の選択肢も考えつつ、準備・択を複数用意した上で最終的に「空気にのまれるな」って言っていましたね。

――下地あっての良いアドバイスですね。そうして優勝を果たせた「EDION VALORANT CUP」はかなり思い出深い大会になったのではないでしょうか。

「EDION VALORANT CUP」で優勝した後、Adeさんが「6年目でようやく結果を出せた」って言っていて、正直ちょっと泣けましたね。そこを手伝えたのは嬉しかったです。

ちょっと面白いのが、あの大会って3日間あったんですけど、着替えは2日しかもってきてない選手がいたこととか。「負ける前提かよ!」って(笑)。

――本当に負ける前提じゃないですか、それ(笑)。「EDION VALORANT CUP」の時、SCARZすごく強かったのに。

自分達の実力がどれくらいなのか、よく分かってなかったんでしょうね。良くも悪くも勝ったら「勝っちゃった」、負けたら即反省してすぐに「次頑張ろう」ってなるんで、変に気負っていないんですよ。

負けが込み続ける時期、いわゆる暗黒期を経たことで、勝った時と負けた時のチームとしての対応がそこそこ確立して、何があってもさらっとしてるんです。もう自分たちの立ち位置をそこまで気にしていません。さっぱりしてますよ。

――まだまだ今後強くなりそうですよね、それ。

個人の反省がポンポン出てくるのがすごく良いんですよね。今の5人だから回ってる部分があるんです。

「Counter-Strike: Global Offensive」(CS:GO)を長くプレーしていた選手って撃ち負けたから負け、って意識があると感じています。そこはもちろんそうなんですけど、でも僕は撃ち負けたところとか、スキルの使い方をミスったりとか、そういう個人技の部分は指摘しないようにしていて。指摘しても話がまとまらないし、発展しないと思ってるんですよね。

僕がやっていた「オーバーウォッチ」は連携力が重要なゲームだったので、選手の皆にとってゲーム文化の違いは受け入れがたい部分だったと思います。でも、暗黒期以降はすごく柔軟に僕の考えを受け入れるようになりました。そういう素直な吸収力というか、変化を恐れない姿勢が強さの秘訣だと思います。

コーチから見たSCARZメンバーとは

――改めて、ibotさん目線での各選手のプレーの特徴、性格、評価などをお話ししていただきたいと思います!

各選手ですか……。うーん、そうだな。改めて一人一人語っていくのは少し恥ずかしいし難しいですね(笑)。

ade選手

ではまずadeさんについてお話ししますね。彼はIGL(インゲームリーダー)というか、色々作戦を言うタイプなんですけど、結構な頭脳派です。まさに理論派。脳内に描いている択も広いのが強みなんですけど、逆に自分の持っている考えが強すぎるところもあります。こだわりと言うか。

だから最初の頃は感覚派のmarinさんやryota-さんの意見を取り入れなかったんですけど、今は結構考え方が変わってバランスが良くなりました。見事にバランスの良い戦術面のリーダーに成長したと思います。

marin選手

marinさんはチームのリーダーで、雰囲気作るのが上手い感覚派のプレーヤーですね。でもお調子者に見えて、考えているというか。意外としっかり者です。

「EDION VALORANT CUP」を見ていても思ったんですけど、SCARZのエース的な存在は誰なのかと問われたら、現状はやっぱりmarinさんがエースポジションにいると感じますね。突破力が高く、ここぞという時に道を切り開いてくれる存在です。

Sak選手

Sakさんはadeさんと似て理論派のプレーヤーで、良い感じにチーム全体のサポートをしてくれています。adeさんという戦術面のリーダーを見えないところから支えて、チームが困ってる時に指示を出してくれて。

読み合いも上手ですね。相手がこうしてくるとか、こう来たからこうしようとか、理詰めの読みがすごく鋭いタイプです。

ryota-選手

ryota-さんは結構お茶目で、marinさん寄りです。何かあった時とかにすぐドンマイドンマイ言ったり、ナイスと褒めたり。そういう発言が目立つプレーヤーです。あとはかなりの努力家ですね。

元々彼はサイファーを使っていたんですけど、そこからレイナやソーヴァをやって、今はブリーチです。練習量・研究量は物凄いですね。そういうのもあって、例えばmarinさんがジェットで突破する時にブリーチでフラッシュ入れたりカバー入れたりするんですが、marinさんの思考はryota-さんがデュエリストをやってたから分かるのかなと。

色んなロールの視点を持ち、相手目線での嫌らしいスキルの使い方や、味方目線での気持ちの良いスキルの使い方を感覚で実行できるのが彼の強みかなって思いますね。

Np選手

Np(Npoint)さんは個人的にオフラインでの印象が良いですね。勝ったらガッツポーズしたり、よく叫んだりしていて、めちゃくちゃ気持ちがこもっているのが伝わってくるんですよ。一番の縁の下の力持ちと言うか、実はすごいSCARZを支えている印象があります。

最初の頃はチームの作戦にそのまま従うことが多くて自分から提案することはなかったんですけど、途中から意見を出すようになってくれました。しかもNpさんの提案ってかなり的確で、何かあった時に流れを変えることもあるので、キーマンだと思っています。理論派と感覚派の間なのでバランスも良い。

他の4人で繋がっているなか、最後に繋がるのがNpさんって感じです。

――最後に繋がるのがNpさん……独特な表現ですね。でも分かります。土壇場で流れを持っていく人ってイメージですかね。

そうですね。Npさんは逆境に強いし、頼れるプレーヤーです。「EDION VALORANT CUP」でもクラッチしたり、流れ変えたりしていたんで。苦境な時ほど発言力も重要になりますし、上と戦っていくなかですごく貴重な素質を持っていると思います。

チームに必要なのは「第三者の目線」

――ibotさんからは「コーチ」という役割に対する思いが感じられるのですが、ibotさん自身のコーチ観を語っていただけますか。

そもそも選手以外の第三者がいる状況がチームにとっては大きいんです。選手同士だと、どうしてもフラットな立場を取りづらく、議論も難しい面があります。「フラットな存在」であることこそが、コーチという役割において重要な部分だと思っています。

あと僕は感覚派で、最終的には感覚がモノをいうと思っているんですよ。勝負勘は説明して身に付くものじゃないですし。

――勝負の分かれ目は最終的には感覚で決まると。確かにそれは思います。状況が複雑になったり、1秒にも満たない時間で行動しなければならない場面で、理論より感覚がモノを言うというのはしっくりきます。

僕自身が理論立てて説明するのが苦手だというのもあるんですけどね。ただコーチの経験を重ねるにつれて、他人を説得したりチームの土台作りには理論が非常に役立つと考えるようになりました。

例えば「ハインリッヒの法則」(※)という有名な経験則があるんですけど、これってゲームにも取り入れやすいと思ったんですよ。ミスがあった時、それが他のミスにも繋がってることが多くて。言われてる側からしたら「この時たまたま起きたミス」と流しがちなんです。でも、そのミスは色んなことに繋がってるんだよ、と説いたりしましたね。ハインリッヒの法則って名前は出しませんけども(笑)。

※1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には事故寸前だった300件の異常(ヒヤリ・ハット)が隠れているというもの。

あと僕はミスを指摘する方法も、少しだけ工夫してます。

不快にさせないような言い方はもちろんですが、選手がミスした時にどんなに言い方を工夫しても、追求された本人は素直に受け入れられないこともあります。そういう時は1度軽くジャブを打って、その場は終わらせてしまう。期間を空けてまた同じミスをした時に「この前にも似たようなミスがあったけど」と、改善を促すための説得材料にするようにしています。

――ミスを追求されたら反発されそうなイメージありますけど、指摘にちゃんと従う選手達もすごいですね。

やっぱり最初は「文句しか言わないな、この人」って言われていましたよ(笑)。僕自身のダメな部分なのですが、他人を褒めるのがすごく下手なんですよ。「今日メッチャ良かったね!」ってあんまり言えなくて……だから勝っても「ここ修正した方が良いよね」って平気で言っちゃって。

――でも、それが逆に良いのかもしれませんよ。勝った時に喜び過ぎないクセが付いて、勝っても負けても反省するからずっと上手く回っているというか。

僕自身がこういう感じだからこそ、今のSCARZの皆も勝っても負けても平常運転を続けられているのかもしれませんね。ありがたい限りです。

――ちなみに、ibotさん自身が話してみたい他チームの選手やコーチはいますか?

選手とかだとBlackBird IgnisのIGLの人と話してみたいですね。多分poemさん、oitaNさん、RiPabloさんの内の誰かだと思うんですけど。BlackBird Ignisは主要メンバーが抜けても結構良い成績を残せているんです。これって本当にすごいことだと思っていて。

これだけメンバーを変更したら成績が落ち込むのが普通だと思うんですけど、しっかりと周りのレベルに置いていかれないようにしていて、比較的短期間で仕上げてきてるのはなかなか出来ることじゃありません。

あとはLAG Gamingの元コーチの人とも喋ってみたいですね。あまり面識はないんですけど。

国内に限らないのであれば、「オーバーウォッチ」のサンフランシスコ・ショックのコーチであるCrustyさんですね。元チームメイトの選手が同チームに入っているんですけど、彼から話を聞く限り評判がいいですし、僕自身もCrustyさんの存在が心の支えになっている部分があるので。

あと、Cloud9 KoreaのコーチであるPavaneさんとも話してみたいです。

ibot

SCARZ「VALORANT」部門のコーチ。元「オーバーウォッチ」プロ選手。選手時代、世界大会である「オーバーウォッチ ワールドカップ 2017」「オーバーウォッチ ワールドカップ 2018」に日本代表として出場した。 SCARZには、2020年6月の「VALORANT」部門創設時より在籍。