障害者を雇用する企業がeスポーツを通じて競い合う「第1回ePARA CHAMPIONSHIP」。「鉄拳7(Steam版)」で競う22日の格闘ゲーム部門のアンバサダーをアイドルグループ・仮面女子の猪狩ともかさんが務めます。2018年4月に強風で倒れてきた看板の下敷きとなり、脊髄損傷で車いす生活となりながらアイドルとして活動を続ける猪狩さんに、大会への思いを聞きました。

――車いす生活になって2年半。慣れましたか?

だいぶ慣れてきてはいると思います。ただ、外の道じゃなくても、建物のなかでどうしても狭いところがあると通りづらいなあとか、2階や3階でエレベーターがない場所だと行きたくても諦めざるを得ないとか。おんぶしてもらったり担いでもらったりという方法もありますけど、「そこまでして」という思いもあって諦めたりしますね。

――私も20年以上前に車いす生活の方と駅のホームに取材に行った際に、「普通の人は感じないのかもしれないが、実はホームって線路側に向かって傾いている」と指摘されたことがあります。そのような感覚をお持ちになったことはありますか?

個人的な環境のことなんですが、ライブのときステージの床が意外と水平じゃないんです。両手を離すと勝手に車いすが進んじゃうんです。本当は両手を使って踊りたいのに、どちらかで車いすを抑えていないと勝手に動いちゃうから、両手で振りが出来ないということは結構あります。ただ、舞台を直すのはなかなか出来ないかなとも思いますので、何かいい方法はないかなと思いはします。

でも、後ろに下がっちゃうときは仮面女子の後ろにいるメンバーが足で止めてくれてサポートしてくれますね。一緒にいることで学んで、一緒に走っている感じですね。

インタビューに答える猪狩ともかさん

吐き出すことでコントロールできている

――車いすの選び方にこだわりはあるのですか?

私の場合は、毎回行く場所が同じわけではなく、車で移動だったり新幹線だったりするので折りたためる方がいいと思っています。かつ、固定されたような安定感のあるものがいいなと思っているので、今のものを選びました。

――自動車も運転されるそうですが、そのときも同じ車いすを使われるのですが?

完全に一人で乗り降りして、積み下ろししてという専用の軽い車いすを使っています。きょうもここまで運転してきました。さすがに遠くまでは難しいですが、30分くらいなら自分で運転していろんなところへ行けます。

――ご家族のみなさんは、車いす生活になる前と後で何か変化はありましたか?

かかわる時間は増えたと思いますね。今まで何でもかんでも自分でできていたのが、どうしても手を借りないといけない場面もありますので。一緒にいる時間が増えたかなという気はしますね。

――車いす生活になることで、猪狩さんの気持ちに変化はありましたか?

前向きに考えるように努力するようになりました。もともと根はネガティブで、落ち込みやすくて自信をなくしやすいので。そういうときは無理やり自分にポジティブなことを言い聞かせたり、映画を見て考えることから逃げたりとか。前向きになるコツは、吐き出すことです。誰かに相談したり、文字で書き出したり。ためないことです。

人間は人に聞いてもらうだけで気持ちがスッキリすることがあると思うんですよ。私はためずに、吐き出すことでうまくコントロールできているかなと思います。

猪狩ともかさんは数多くのパラスポーツを経験している

どう工夫したらうまくいくか考えるのは楽しい

――パラスポーツをやったことはありますか?

いろいろ経験させていただいています。初めてやったのが、車いすソフトボール。あとはボッチャ、バスケットボール、卓球、射撃、テニス、フェンシングなどです。楽しいと思いますね、車いす生活になっても体を動かしてリフレッシュすることができるのは。今までとやり方は違いますが、一つの工夫でやりやすくなったり戦略ができたりするので、健常者と言われる方がやるスポーツに比べて考えることは多いけれど、その分、どう工夫したらうまくいくのかと考えるのは楽しいです。

――一番好きな競技は何ですか?

難しいな(笑)。やってみて継続したいなと思ったのは水泳です。もともと12年間水泳を習っていて、泳ぎは得意なので、車いす生活になって初めてプールに入ったときから結構泳げたんですよ。なので成功体験というか、「泳げた」という自分の中で自信がついたことが水泳が好きな理由です。

泳法はクロールか平泳ぎです。得意な泳ぎ方? バタフライ以外だったら(笑)。

――「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会」のメンバーとしてパラスポーツ・バリアフリー応援大使も務めていらっしゃいます。どんな活動を?

一番最近だと、東京五輪・パラリンピックの水泳会場となる新しくできた東京アクアティクスセンターの視察をしてきました。個人のYouTubeチャンネルでもUPさせていただいたところ、パラ競技団体の方が「こんな感じなんだね」と反応してくださって、うれしかったです。

今まで見た施設の中で一番いいんじゃないかなと思いました。例えば、車いす席には普通のいすも固定されている場所が多いのですが、そうすると車いすの人同士で来た場合に隣同士で座れなくなってしまうんです。ですが、アクアティクスセンターは何もない状態の車いす席で、同行者がいたらその方のいすは運んできますよ、というタイプだったので、すごくいいなと思いましたね。私の好きなプロ野球・西武ライオンズのメットライフドームもそうですね。

車いす生活は2年半になる

家に帰るとゲーム、好きなタイトルはスプラトゥーン

――もともとゲームは好きだったのですか?

自宅に帰ってからほぼ毎日やっていますね。好きなタイトルは「スプラトゥーン」です。あんまり、うまくないんですけどね。あとは「どうぶつの森」とか「マリオカート」とか。マリオ系は結構好きですね、テニスとかパーティーとか。

――今回は格闘ゲーム部門のアンバサダーですが、格ゲーの経験は?

兄と姉がスーパーファミコンでやっているのを見たことはあるのですが、自分でやったことはないです。機会があればやりたいと思いますね。周りでやっている人がいる、となると、きっかけにはなるなと思います。

実際、「スプラトゥーン」も周りがやっていて、じゃあやってみようかなということで一緒に始めたので。最近は仮面女子のメンバーも「スプラトゥーン」をやっている子がたくさんいます。

見る人が楽しく、プレーヤーはやりがいを感じて

――今回が第1回となる「ePARA CHAMPIONSHIP」にはどんな思いがありますか?

eスポーツはパラスポーツとまた違うと思います。パラスポーツも障害を持っている方が輝けるスポーツではありますが、eスポーツとなると障害を持っている方もそうでない方もみんな同じ条件で戦うわけじゃないですか。

ゲームのなかでは、自分が障害を持っているということを忘れられる時間なんじゃないかと思うんです。誰でも輝くことができる場所だなと思います。見る方も楽しいと思いますし、やる方もやりがいを感じると思います。eスポーツがさらに広まっていくきっかけになるといいなと思います。

――アンバサダーとしてどういう盛り上げ方をしていきますか?

私自身が楽しんでいることが大事だと思います。楽しんでいる人を見ると見ている人も楽しいと思うので、自分自身が大会を楽しんでいる姿を見せることで、みなさんにも楽しいと思っていただけたらうれしいです。

――「ePARA CHAMPIONSHIP」に出場される選手のみなさんへ一言お願いします。

私は格闘ゲームはやったことはないので、やっている方たちの技術のすごさはレベルが違うものなんだろうなと想像していますが、実際に試合をしているところを見て楽しみたいと思っています。みなさん、頑張ってください!

(聞き手・松元章 撮影・早川結希)

猪狩ともか

いがり・ともか 1991年12月9日生まれ、埼玉県出身。地下アイドルグループ「仮面女子」のメンバー。2018年4月、強風で倒れた看板の下敷きになり脊髄損傷。車いす生活になったが、同年8月から仮面女子に復帰した。現在はパラスポーツ関連でも精力的に活動している。