ePARA」はバリアフリーeスポーツをめざす取り組みです。障害者を雇用する企業がeスポーツを通じて競い合う「第1回ePARA CHAMPIONSHIP」が10月に開幕しました。「ePARA実行委員会」が主催し、GAMEクロス(朝日新聞社)が後援しています。実行委が事務局を置く株式会社ePARAのチームとして、10月17日にチームFPS/TPS部門として行われた「Call of Duty: Mobile」の試合に臨んだのがジジさんです。左腕に障害があり、パラテコンドーの日本代表経験もあるジジさんがキャプテンとして臨んだ軌跡を2回にわたり振り返ります。その前編です。

初めまして。ジジこと星野佑介と申します。私は生まれつき左腕に障害があり、肘がなく指が2本しかありません。健常者の肘に中指と薬指が付いているようなイメージです。そんな私は先日行われた「Call of Duty: Mobile」の試合に「Team-ePARA」のキャプテンとして出場しました。4チームの総当たり戦で2勝1敗、個人で部門MVPを獲得することができました。今回はまず、当日までのチームの物語を執筆しました。

パラスポーツからパラeスポーツへ

私は愛知県で生まれ、8歳までの6年半をアメリカで生活していました。そして14歳の時にパラテコンドーという競技を始めました。テコンドーは脚のボクシングとも言われる非常に激しい格闘技で、それまであまり運動をしてこなかった自分にとっては非常にやりがいのある競技であるとともに、とても辛い競技でもありました。

そんなパラテコンドーで私は日本を代表する選手として活動していました。試合や合宿などで世界中を旅する中で様々な経験をし、たくさんのことを学びました。

パラテコンドーのイベントで小池都知事に試技をするジジさん

しかし、2020年3月に行われた東京パラリンピックの代表選手を決める選考会で優勝することができず、パラリンピックの補欠選手となりました。以前から身体的にも精神的にも、競技特性と自身との不一致に悩むことが多かったため、これを機に別の何かで活躍を目指そうと思い、補欠選手並びに強化指定選手の辞退を決意しました。

最初はパラアーチェリーやパラ水泳などパラスポーツでの活躍を考えていました。しかし、パラテコンドーで日本代表として活動する中、合宿での空き時間や練習のない日の多くの時間をゲームに費やしていた私は、パラeスポーツの存在を知り、非常に興味を持ちました。

新型コロナウイルスの影響でパラスポーツの体験会などが減少する中、オンラインで行えるeスポーツに注目が高まってきたこともひかれた理由の一つです。そして障がい者とeスポーツとを繋げる活動をするePARAに出会い、自分にパラeスポーツプレーヤーとしての道があることを知りました。そして、様々な障がいを持ったプレーヤーたちと自分の大好きなeスポーツで腕を競い合いながら、共に切磋琢磨する時間の楽しさを知るようになりました。

チームキャプテンとしての出場

ePARAのメンバーとして活動を初めてまもなく、ePARA主催のバリアフリーeスポーツ大会「ePARA CHAMPIONSHIP」として、「Call of Duty: Mobile」が採用される予定を知りました。私はFPSを得意としており、過去にePARAのサイトに寄稿したこともあります。

【ePARA】上肢障害 FPS プレーヤーが目指すCALL OF DUTY:MOBILEの頂点

これほど大きなデビューチャンスはないと考えて出場を立候補しました。大会当日のルールが5vs5のチーム戦であったため、ePARAメンバーの中からサブプレーヤー含めて7人が選抜される中、私はそのメンバーに選ばれるとともにTeam-ePARAのキャプテンも務めることになりました。

キャプテンとしての出場が決まり、メンバーが各個人で練習をする日々が続きました。しかし大会当日2週間前、大会で対戦相手となる「Team-BASE」と練習試合を行うことになりました。結果はボコボコにやられてしまいました。

個人での練習しか行っていなかった我々はなすすべなくやられてしまったのです。そこでePARAチームのマネージャーである障がい者専門クラウドソーシングサービス「サニーバンク」さんの協力で、作戦会議が行われることになりました。

チームメンバーそろって行う初めてのミーティング。そこでの話し合いで我々のチームとしての壁が次々と明らかになり、大きな課題が浮かび上がりました。

7人中6人が障害を持つチームがぶつかった壁

1つ目がお互いの理解です。チームのメンバーは7人中6人が障害があり、障害の部位や特性も異なるため、お互いの障害の種類や特徴を全員が理解し合って補い合い、配慮し合う必要がありました。チームのキャプテンである私は特に理解しておかなければいけない点でしたが、それまではメンバーの障害の理解はほとんどできていませんでした。

2つ目がチームでの練習です。これまでは個人での練習しか行っていなかったために、練習試合では連携が全く取れていませんでした。それに対してTeam-BASEは日頃から同じメンバーで様々なタイトルで活躍していることもあって、非常に連携が取れていました。普段から一緒にゲームをプレーしているわけではない我々のチームはメンバー全員がそろって練習することが難しかったのです。

3つ目がコミュニケーションの壁です。今回のePARAチームには聴覚に障害を持っているプレーヤーも参加していました。一般的にはFPSのチーム戦において、チームで連携を取るためのツールとしてボイスチャットの存在が不可欠です。

しかし、聴覚障害のプレーヤーにとっては補聴器を用いてもボイスチャットでは機能が不十分で、別の方法で補う必要がありました。最初は文字起こしを使用していましたが、試合中はツールが追いつかない上にうまく文字を起こすことができませんでした。普段健常者とチームを組んでいた私にとっては思いもよらない課題で、初めは解決策など全く思いつきませんでした。

4つ目が時間が有限であることです。チームメンバーはそれぞれ本業となる仕事や学業があり、Call of Duty: Mobileの練習に捧げることができる時間は限られています。残り約2週間でさらに限られた持ち時間の中でチーム力を上げて結果を出すためには、効率的に先述の壁を乗り越える作戦とコミュニケーションが必要でした。

作戦1 出場するゲームモードを分ける

たくさんの課題が見つかる中、功を奏した作戦のひとつがチームメンバーの出場するゲームモードを分けることです。今回の大会では1試合の中で1ラウンド目にHARDPOINT、2ラウンド目にSEARCH & DESTROY、3ラウンド目にDOMINATIONが行われることになっていました。

そこでコミュニケーションの手段とチーム練習の時間の確保の観点から、3ラウンドフルに出場するプレーヤーを3人。2ラウンド目だけに専念するプレーヤーを2人。1、3ラウンドに専念するプレーヤーを2人。と個人の特徴に合わせて最初に決めました。そして1日のチーム練習の時間を2回に分けることでメンバーの時間の都合に合わせやすくしました。

作戦2 マップの写真に絵を書いて作戦会議を行う

2つ目の作戦がマップの写真を使った作戦会議です。試合当日に使用されるマップが事前に決まっていたため、マップの写真に絵を書きながら作戦の話し合いや説明を行いました。

その際、マップの要所に自分たちでわかりやすいように名前をつけて当日のコミュニケーションに使用しました。マップの写真に絵を書いて行う作戦会議は、はじめは聴覚障害を持つプレーヤー向けの工夫でした。しかしそれは幸いにも、他のメンバーにとっても伝わりやすい結果となり、メンバー全員の作戦の理解を深めることができました。

Round1 HARDPOINT用のマップと配置図

作戦3 コミュニケーションが不要になるまで作戦の徹底

3つ目の作戦がコミュニケーションの手段の変更とコミュニケーションの必要が無くなるまでの作戦の徹底です。聴覚に障害を持っているプレーヤーが音声のみのボイスチャットでは正確なコミュニケーションが取りづらいことから、実戦練習以外での作戦会議などはzoomを用いてカメラをつけて読唇を可能にする配慮をしました。

これにより作戦会議でのコミュニケーションが非常にスムーズに行えるようになりました。特に聴覚に障害を持っているプレーヤーが出場されるラウンドでは作戦②マップの写真を活用するのと組み合わせながら行うことで試合中のボイスチャットが必要なくなるまで作戦を徹底することができました。

Round2 SEARCH & DESTROY 用のマップで配置と作戦を共有

作戦4 コミュニケーション方法を柔軟に変えてみる

4つ目の作戦がコミュニケーション方法を色々と試してみることです。試合中のボイスチャットツールは、最初は「Discord」を用いていましたが、Call of Duty: Mobileとの相性やメンバーが日常的に使用している傾向をふまえ、「パラレル」に変更しました。

また、3ラウンドフルに出場するプレーヤー3人がたまたま英語を話せることもあり、3人での練習時は英語を使用してみました。敬語の存在しない英語を使うことでお互いに自然とフレンドリーに会話が進み、緊張がほぐれ、心の距離が急速に縮まったと感じました。

このようにして、私たちは本番に臨みました。続きは次のコラムで書きます。

ジジ

愛知県出身。生まれつき左腕に障害があり、14歳のときにパラテコンドーに出会う。2020年に予定された東京パラリンピック出場をめざし、日本代表の強化指定選手だった経験を持つ。最近はパラeスポーツの頂点を目標にしており、日本のパラeスポーツを盛り上げ、世界で戦うことを夢に持つ。

ePARAとは

株式会社ePARAに事務局を置く「ePARA実行委員会」では、eスポーツを通じて、障害者が自分らしく、やりがいをもって社会参加する支援を行っています。支援活動の一環として、障害者eスポーツに関するニュース発信や、障害者eスポーツ大会の企画運営を行っています。
大会やイベントを通して「困難や限界を超える精神や力」を多くの人に発信し、より良い社会の実現をめざしています。「PARA」はパラリンピックと同様に平行を意味するパラレルであり、 将来的にはリーグ優勝者がトップeスポーツプレーヤーと対等に試合を行えるようになる「物語性」も含めて「ePARA」と名付けています。

バリアフリーeスポーツ ePARA