7月初頭、格ゲー界に衝撃が走りました。

世界中の格ゲーファンが楽しみにしていたオンライン大会「EVO Online」が、7月4日の開催を目前に中止となったのです。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中止となった世界最大級の格ゲー大会「EVO 2020」の代替として企画されていたイベントだっただけに、中止の知らせがコミュニティーに与えた衝撃は大きいものでした。

社会と同じように、ゲームコミュニティーにも不当な扱いは存在する

「EVO Online」中止の直接的な原因となったのは、「EVO」シリーズ総合主催者であるJoey Cuellar氏にまつわるセクハラ行為にあったと見られています。開催の2日前に突如としてTwitter上で発表されたJoey Cuellar氏の過去のスキャンダルですが、このタイミングで告発があったのは決して偶然ではありません。

当時ゲーム・eスポーツ業界では、著名人からハラスメント被害や差別的扱いを受けたとする告発が相次いでおり、この動きはアメリカの現代社会うねりを反映したものであるといえます。

ハラスメント告発運動といえば、2017年には「#MeToo」運動が大きなムーブメントとなりました。ハリウッド女優たちがNew York Times誌に暴露した数々の性的ハラスメント被害が波紋を呼び、「#MeToo」のハッシュタグとともに、ソーシャルメディア上で世界中の女性たちが不当な扱いに対して声を上げました。

そして最近では「#BlackLivesMatter」が世界を巻き込んだ運動になっています。ジョージ・フロイド氏の死を受けて、世界中の人種的マイノリティが、人種差別を無くすべく様々なメディアで声をあげています。

これらの運動は、今まで不当な扱いを受けながらもそれを公表する機会や場を与えられず、差別やハラスメントに耐え忍んできた人々が声を上げるきっかけになってきています。

そしてこういった社会の動きが、ゲーム・eスポーツ業界にも変化をもたらしています。

Joey Cuellar氏にまつわる一連の騒動

「EVO Online」中止の直接のきっかけとなったのは、Joey Cuellar氏にまつわるCrackPr0n氏の告発でした。

80年代からアーケードで格ゲーをプレーしていたというCrackPr0n氏ですが、17歳の彼が「B5 2001」(EVOの前身である大会)に参加した際、Joey Cuellar氏から性的ハラスメントを受けたとのこと。この告発を受けJoey Cuellar氏は当時の行いを認め、Twitter上で謝罪しました(当該ツイートは削除済み)。

そして当該の告発があった翌日、「ストリートファイターV」を手掛けるカプコンが、Twitter上で「EVO Online」への参加辞退を表明しました。

「Joey Cuellar氏にまつわる告発を受け、カプコンはEVO 2020に参加しないことを表明します。我々は被害に遭われた方々への配慮として、辞退することが適切だと判断しました。大会を楽しみにしてくれていたファンやプレーヤーの方々には、申し訳なく思います(意訳)」

カプコンに続き、「鉄拳7」を手掛けるバンダイナムコエンターテインメントも「EVO Online」への参加辞退を表明しました。

「バンダイナムコエンターテインメントは直近の告発を受けて、EVO 2020に参加しないことを決断しました。我々の気持ちは、格ゲーコミュニティーでの被害を告発した人々と共にあり、ファンの皆さんの継続的なサポートに感謝します(意訳)」

これら2つのゲームはどちらも毎年「EVO」のメインタイトルに選出される主要ゲームであり、2つの企業が「EVO」参加辞退を表明するのは異例の事態です。

一連の騒動を受け、EVO公式Twitterは「EVO Online」の中止、及びJoey Cuellar氏の解任を発表しました(当該のツイートは削除済み)。Joey Cuellar氏は今後いかなる形でも「EVO」に関わることはなく、以降はTony Cannon氏がCEOを務めるとのことです。

EVO中止は突然の出来事ではなかった

Joey Cuellar氏にまつわる告発は、ゲームコミュニティーに求められている「変化」の表れでもあります。

6月には、「ストリートファイター」や「Marvel VS. Capcom」シリーズにおけるアメリカのトッププレーヤー、Filipino Champ選手が黒人に対する差別的なツイートを行ったためCPTへの無期限出場停止を言い渡されました。

またその数週間後には、同じくトッププレーヤーのChrisG選手が、過去にFacebook上で行った黒人女性ゲーマーに対する差別的な発言が発端となり、所属チームEvil Geniusesから解雇されています。

この2人のプレーヤーは格ゲーコミュニティーにとって非常に大きな存在でしたが、いかなる差別もコミュニティーとして決して受け入れられないものです。これらの対応は、格ゲーコミュニティーが変わろうとする「覚悟」と言っても過言ではありません。

そしてCrackPr0n氏を告発へと突き動かしたと思われるのが、「大乱闘スマッシュブラザーズ」プレーヤーであるPuppeh氏による告発です。

7月1日に投稿された告発によると、彼が14歳だった2016年、当時24歳だった女性プレーヤーCinnpie氏から、複数回に渡って性的ハラスメントを受けたとのことです。

Puppeh氏とCinnpie氏は共に「大乱闘スマッシュブラザーズ」の大会で知り合い、そしてPuppeh氏が被害を受けたのも大会の前後だったとのこと。Cinnpie氏は大会のコメンテーターとしても有名だったことから、この告発はコミュニティーに大きな衝撃を与えました。

Puppeh氏は当該の告発を行った理由について「何年もの間、黙っているのが辛かった。何度も繰り返し傷つくのを止めたかった」と語っています。

ファンとして、これからのコミュニティーに求める変化

筆者は10代のころ「ウルトラストリートファイターIV」の大会を見て格ゲーの魅力に触れ、以来ライターとして様々な大会を取材してきました。2019年には初めて「EVO」を現地で観戦することもでき、それが印象深かっただけに「EVO 2020」「EVO Online」の中止は衝撃でした。しかし今回の一連の告発をただのスキャンダルとしてではなく、コミュニティーに内在する問題として真摯に受け止めることが重要だと思います。

今回の件は日本のコミュニティーにとっても、決して対岸の火事ではありません。配信チャットやSNSでは有名プレーヤーに対する誹謗中傷は日常的に発生していますし、女性プレーヤーに対する差別的な姿勢も、筆者の目が届く範囲ですら未だに見られます。周囲が「些細なこと」と見ぬふりをしていても、何かをきっかけに今回のような大問題へと発展する可能性は十分にあります。

ゲームとは本来、言語や文化圏を越えたコミュニケーションを可能にするツールです。近年のeスポーツブームにおいてはトッププレーヤーたちによるハイレベルな戦いがよくフォーカスされますが、その土台となる「プレーヤーが誰しも公平に楽しめる健全なコミュニティー」無しに、eスポーツの世界は成立しません。

また以前のようにオフライン大会が開かれる日のためにも、格ゲーコミュニティーが今後より良いものに変わることを願うばかりです。