eスポーツ界に報道写真のプロ集団が本格参入した理由 「ゲッティイメージズ」日本法人の代表取締役・島本さんに聞く
「グランツーリスモ」のゲーム内で撮影されたリアルな一枚(C)1174522459, Gran Turismo/Clive Rose/Getty Images
国際オリンピック委員会(IOC)や国際サッカー連盟(FIFA)など、世界のスポーツ団体の公式フォトエージェンシーである「ゲッティイメージズ」(本社:米国)が、eスポーツの報道写真を配信することになりました。専門のフォトグラファーが「グランツーリスモ」(GT)などのゲーム内で写真を撮影します。オリンピックなどの国際大会でスポーツ写真報道に定評のある同社がeスポーツ界に参入する舞台裏を、「ゲッティイメージズ ジャパン」の島本久美子社長に聞きました。
――リアルなスポーツの報道写真に定評のあるゲッティイメージズが、eスポーツに参入していく意図はどこにあるのでしょうか?
eスポーツは、例えばオリンピックの競技にしようかどうかという議論もされているくらいなので、新しい競技としてある意味で一つのスポーツという捉え方をしていいと思っています。
常に新しいスポーツで新しいことをできないかということを探っている弊社からしたら、自然に次の課題として、面白いこととしてeスポーツが挙がっていました。
アクションシーンがないと面白くない
――従来のeスポーツの報道写真をどのように見ていますか?
大会でゲームを操作している選手の写真と、トロフィーを持って万歳している写真など、一元的なものしかなくて面白くないですよね。やっぱりスポーツだからアクションシーンがないと面白くないと思います。
今までスポーツを盛り上げていくのにどうやったらより躍動感のある、いい写真が撮れるのかというのを研究してきた側からしたら、この写真ではまだスポーツとはいえないようなものしかなかったので、工夫する余地はいっぱいあると感じました。
しかし、普通のスポーツもそうなのですが、大会主催者側との協力があって初めていい写真が撮れるものなのです。信頼関係を築いて一緒に盛り上げて、よりいいビジュアルを出していく必要があります。
例えばオリンピックはその部分をすごくIOCが意識しているので、本当に隅から隅まで明るく、どこを撮ってもきれいに写真が撮れるくらい徹底しています。背景にスポンサーなどのノイズが全然ないので、本当にクリーンな絶対に一番いい写真が撮れるようにできています。ビジュアルとしていいものを撮れるように意識するのとしないのとでは全然変わってきます。
おそらくeスポーツは今までそういう概念がなかったのだと思います。そこで弊社としては大会主催者やゲームを開発する側と一緒に協力していきます。
ゲームで実際起きたアクションシーンを普通のスポーツと同じように撮れて、普通のスポーツの報道写真と同じようにスピード感を持って世界中のメディアに配信する。面白いビジュアルがeスポーツにおいてもメディアが使えるような状態になれば、もう少し一般的にも取り上げられるようになっていくものかなと期待しています。
【ゲッティイメージズの撮影写真(上)と実際のF1の写真を比較】
「グランツーリスモ」のゲーム内で撮影。現実と区別がつかない。(C)
1257419035,Gran Turismo/Clive Rose/Getty Images
実際のF1のレース写真。(C) 52965337, Clive Rose/Getty Images
物理的制約がないからこそ撮れるもの
――具体的にどんな写真をイメージされていますか。例えば「GT」ではどうでしょうか?
本当のモータースポーツと一緒ですね。すごい技、すごいターンで追い抜いたときなどの写真を増やしたいと考えています。さらにeスポーツは物理的な制約がないので、例えばタイヤの近くでも撮れるし、空からでもドローンを飛ばさなくても撮影できます。物理的制約がないからこそ撮れるものも意識して撮りたいというのはありますね。
今のゲームはリアルと差がないくらいの素晴らしいビジュアルです。「え、これは見たことないよね、例えばモータースポーツだと撮れないよね」というアングルのものを狙いたいと思いますね。
「グランツーリスモ」のゲーム内で撮影。(C)1257420350, Gran Turismo/Clive Rose/Getty Images
――グローバルeスポーツイベントにおける映像撮影からライセンス管理までを行うことになった「リーグ・オブ・レジェンド」については、狙いのイメージがなかなかわかないのですが。
おそらく普通のスポーツと一緒で、そのeスポーツや選手のことをよく分かっているか、分かっていないかによって、すごく変わると思います。
例えば、この選手はこういうすごい技を持っている、それが分かるようなビジュアルを撮れる、という場合はいいものになるはずです。スキーのモーグルの選手でひざの動きがすごい人、っていうのが分かっていれば、そこをうまく撮ってあげるとファンにも喜ばれるし、いい写真になると思います。普通のスポーツと普遍的なところがあると思うんですね。
プレーヤーの強みとか癖とかを分かって、そのスポーツのことを理解していると、面白いところや意味のある場面を撮れると思います。だから、ある程度スポーツのフォトグラファーをやっていた人、もしくは本当にそのeスポーツに詳しい人じゃないと良い写真を撮れないと思います。
あとはゲームの中と言ってもカメラソフトは普通のカメラと変わらないわけで、光のことやシャッタースピードのことなどを同じように考えないといけないので、フォトグラファーが撮った方が時間の制約の中では差が出てくると思います。
「グランツーリスモ」のゲーム内で撮影。(C) 1271110673, Gran Turismo/Clive Rose/Getty Images
メジャースポーツと同じくらいの可能性
――今後のeスポーツの可能性をどう考えていらっしゃいますか?
普通のメジャースポーツと同じくらいの可能性はあると思います。スポーツですからお金がかかるので、スポーツを支えるスポンサーがつく形と同じように、eスポーツもスポンサーにとってメリットがある形にする必要はあると思いますね。特に今はソーシャルメディアが発達しているので、スポンサーがソーシャルメディアで自分のところのロゴがはっきり入っていて面白いシーンのものを配信したりするのに、報道とは別に撮るんです。報道の写真ではなるべくぼかして撮るので。はっきりピントが合ってロゴがきれいに入るような形で写真を撮るのと同じように、eスポーツでも同様のことをやっていく必要性があると思いますね。
(聞き手・松元章)
ゲッティイメージズ ジャパンの島本久美子・代表取締役
島本久美子
しまもと・くみこ 大阪府出身。2歳から 13 歳までを米国で過ごす。1991年 神戸大学経済学部卒業後、大阪ガスに勤務。大阪ガスでは地域開発に取り組み、マルチメディアをテーマに京都リサーチパーク設立に関わる。
その後渡英し、ゲーム会社を経て2001 年、英国のパブリシティポータルサイト「イメージネッ ト」に入社、グローバルセールスダイレクターに就任。2004年にイメージネットがゲッティイメージズに吸収されたのを機にゲッティイメージズ(イギリス)で、イメージネットと報道写真のセールス シニアディレクターとして、イギリス、ドイツ、スペ インの報道写真事業の拡大に貢献。
2009年に帰国し、ゲッティイメージズのアジアヴ ァイスプレジデント兼ゲッティイメージズ ジャパン代表取締役に就任。現在に至る。2018年に Diversity & Inclusion Global Advisory Committee の設立に貢献。最終学歴は2006 年 University of Manchester (UK), Media Studies 修士号。