浅瀬のズルは超浅い

スポーツマンシップという言葉があるように、スポーツは公明正大が前提だ。eスポーツもそうありたいものである。だが、人類が作ったものである以上……そしてスポーツがそうであるように、eスポーツにもズルが存在する。即死コンボ、オートエイムなどのチート……。オンラインが当たり前となった昨今では、格ゲーでの強すぎ技などについてはパッチの適応などで調整されるのが当たり前になってきてるよな。ズル技がズル技であり続けることが難しい時代だ……!

いや、なにも「パッチ適応の是非」とか「昔はやんちゃな技がやんちゃな性能のままで良かった……」なんてことを論ずるつもりはない。ただふと思ったんだよな。「私たちの周りでの“ズル”という言葉はもっとレベルが低い」と。

足払いはダウンするのでズル!

私が格ゲーで遊び始めた頃の話だ。私の周りの連中に格ゲー経験者がおらず、スーファミでスト2が出て間もない、そんな格ゲー黎明期……。その頃、私たちの間では「足払いはズル」だと考えられていた。

「そんなバカな」と思うだろう。ダウンを取ることは2D格ゲーの基本中の基本だ。極論、2D格闘ゲームというのはダウンを取って起き攻めするゲーム……。そんな見方もできるくらい当たり前のことだ。だが我々の間では、「ダウンを取る」ことは徳が低い行為と見なされていた。我々は殴り合いがしたいのだ。それなのにダウンを取る、転ばせるとは何事だ。倒れてしまうじゃないかと。

ただし投げや必殺技でダウンを取ることについては問題なかった。それらはたどり着くのにそれなりの大変さがあるからだ。技術には敬意を示す。例え浅瀬の中の浅瀬で戦っていようと、リスペクトの気持ちは忘れない。それが私たちだ。だが足払いはダメだ。レバーを下に入れながらボタンを押すだけでダウンが取れるなんて……お手軽すぎる!

足払いは立ちガードできないからズル! これが格ゲーリテラシーZEROの世界だ!

ここまで読んだ皆は不思議に思うだろう。「しゃがみガードすりゃあいいじゃないか!」と。その通りだ。我々は足払いに対して、しゃがんだ。だがそれに対して飛び蹴りをしてくる奴がいたんだ! なんてことだ! 我々は知っていた。下段攻撃はしゃがみガードできることを理解していた。だが格闘ゲームというものに触れてまだ日が浅い私たちは「中段」という概念を理解してなかった。

「なんか飛び蹴りがしゃがみガードできないんですけど!」私たちは叫んだ。飛び蹴りと足払いの連携。これほど恐ろしいものは当時の我々にはなかった。我々は格ゲーを始めたてなので「的確にガードを入れ替える」なんて高度なテクニックはできない! 「立ちガードすれば足払いでダウンさせられるし、しゃがみガードでは飛び蹴りが防げない! クソッ、どうすればいいんだ?」

もちろん、昇竜や通常技での対空なんてことを思いつきもしないほど浅い浅瀬での話である。そもそも「対空」という概念がなかった。なんだよ対空って。仕方ないので我々は飛んだ。対空という概念はなかったのでアッパーとかで飛び蹴りを叩き落とすという発想はなかった(だってふつう無理じゃん)。我々が選んだのは空対空だった。まるで空中でぶつかり合うケンシロウとシンのように。そして我々のあいだには「足払いは完全にズルだろ」という道徳が生まれた……。

スライディングは足払いのまま前進してくるのでズルいに決まっている

あと足払いがズルなので当然スライディングもズル。っていうかあまりにも卑劣すぎて言葉も出ないみたいな扱いだった。だって下段判定が前進しながらやってくるんだぞ! そんなのズルだろう。何度も言うが当時の私たちの格ゲーレベルは浅瀬も浅瀬、いや浅瀬というのも生温い。裸足で海に出て、押し寄せる波が足に触れたので「キャー! 冷たーい!」と騒いでるような、そんな圧倒的低レベルだった。

だから「スライディングは牽制と移動を兼ねた攻撃!」みたいな使われ方はしてなかった。出す方は延々スライディングし続けて、出された方は永遠にガードし続けるか、諦めてダウンするかを選ぶしかなかった。いやマジで。そんな格ゲーを私たちは「最強!!!!!!!!」「わー!!!! ズルズルズルズルズルズルズルズル!!!!!!!!!!」と叫びながら遊んでいたのだった。

あまりにもレベルが低すぎる。だが低すぎるだけに二度と味わうことのできない遊び方だった。

今もズルズル言い合っている

あれからそれなりに長い年月が経った。何度か途切れつつも、私はまだ格ゲーをなんとなく遊んでいる。基本的なシステム、駆け引きはうっすらと身についた。あの頃のように足払いやスライディングがズルという考えはなくなった。代わりに「強い行動はズルだろ」という更なる粗暴さが誕生した。具体的には「GUILTY GEAR」シリーズのカイのグリードセバーとかがズルだ。

小さく飛び上がって中段をカマすグリードセバーは立てず、全ギルティギアプレイヤーからズルいと言われている技のひとつです。カイの紳士的なセリフも地球の温暖化にひと役買っています

グリードセバーはズルい。あんなぴょんと飛んで切るだけの技が見えるはずない。しかも足払いとかスタンディッパーとかで二択がかけられるの余計にズルい。我々は浅瀬で格ゲーをしてるので「めちゃめちゃ画面を凝視して見てから判断する」とかできねえ。「二択だから……イイカンジのタイミングで立つかしゃがむかすればガードできる!」しかやらねえ。この段階で格ゲーはジャンケンへ変化する。「多分パーが来るからチョキ出せば勝てるだろ」というレベルに落ちてしまう。そしてジャンケンに負けた時に私のから飛び出すのは「わー! ズル!」という罵倒だ。いやだってズルいだろ! 格ゲーやりたいのにジャンケンさせて勝つんだから。ズルいわ。

二択だけではない。私たちの間では「めちゃめちゃ発生が早いのでとりあえずぶっ放せる技」とか「性能が超アップして体力が回復するシステム」とかもズルだ。だってズルくない? 強いんだもの。

Twitterで罵り合いながら「ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3」を遊ぶ我々(Twitterでやるな)。「赤いズル」はXファクター、ズルボタンはSボタンのことです

でもね……昔と違って「ズル!!!!」って罵り合いながら遊ぶ格ゲーがたまらなく楽しいんだよね。みんな、最近「ズル!!!!」って叫んでるかい? 不思議なもので大人になればなるほど、たとえ実際にそれは不正だろ! ってときでも「ズル!!」って言えなくなっちゃったりするよな。なんかズルって言い出すほうが恥知らずだろみたいなさ。

でも格ゲーで出されて腹立つ技に向かってズル!!!! と叫ぶのは気持ちいい。万能感がある。「だって食らったの俺のせいじゃないし」という自己肯定が強まる。素晴らしい。そして罵る相手は気心知れてる仲なので気分を害することもない。むしろズルと言われて気持ちいいんだよ。出して気持ちよくなりたいだけの技を思惑どおりに出して気持ちよくなり、さらに相手が負け惜しみを吐く! こんなに気持ちいいこと、現実ではなかなかないぜ。両方とも気持ちいい。win-winの関係ってやつだ。

みんなも友達とプレマしてズルズルと罵り合ってみな。別に格ゲーうまくならないかもしれないけど、とりあえず楽しいからさ。