株式会社セガは4日、「ぷよぷよeスポーツ」を使った実験の結果、ゲームのプレーで脳が活性化するデータが得られた、という実験結果を発表しました。脳科学者で公立諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授と協力して同社が実験を行いました。

「ぷよぷよ」は2021年2月に登場から30年を迎えます。セガが「長年にわたり多くのユーザーにプレーされ続ける理由やプレーすることの意義を科学的な観点から検証したい」と実験に取り組みました。

1人でプレーをする実験の様子(セガ提供)

近赤外線を照射して脳血流量の変化を調べる「NIRS(ニルス)」という実験を活用し、大学生6人が「ぷよぷよ eスポーツ」をプレー。1人でタイムアタックをした場合と、eスポーツを意識して2人で対戦をした場合の脳活動の違いについて調査しました。

「ひとり」よりも「みんな」の方が活性化

実験での平常時の脳波の様子(セガ提供)
1人プレー時の脳波の様子。赤い部分が活性化している(セガ提供)
2人プレー時の脳波の様子。活性化している部位が広がっている(セガ提供)

その結果、人間の日常生活や学習を支える重要な部位である前頭前野と頭頂連合野において活性化が見られた、と説明しています。また、1人でのプレーよりも、2人での対戦時の方が脳活動が活発になっている結果が出ていました。

こうした脳の部位に活性化が見られるという結果について同社は、「ぷよぷよ」のゲームプレーが人間の脳にとって良い影響をもたらす可能性がある、と説明。今回は大学生を被験者とした実験でしたが、篠原教授は「子どもの知育や高齢者の認知機能の低下予防にも役立つ可能性なども考えられる」と指摘しています。

脳科学者の篠原教授に聞く

対戦モードの実験の様子(セガ提供)

今回の実験に協力した篠原教授は「脳トレ」に関する著作を持つ脳科学者です。「学習」「運動」「遊び」といった観点から、日常的な脳活動を研究しています。著書に「もっと!イキイキ脳トレドリル」(NHK出版)や「『すぐにやる脳』に変わる37の習慣」(KADOKAWA)があります。

所属する「文理シナジー学会」の学会誌には、様々な遊びをしているときに脳がどのように活性化しているのか、といった実験の模様を発表しています。格闘ゲームやレースゲームなどした場合、プラモデルを作った場合、ラジコンロボットやロボット犬「アイボ」で遊んだ場合などがあります。

今回の結果を踏まえた考察を篠原教授に聞きました。

ぷよの回転と落下を考えることが脳を刺激

実験結果を説明する篠原菊紀教授(山内康平撮影)

――活性化が見られた前頭前野と頭頂連合野とは、どのような部位なのでしょうか?

前頭前野は、生物が「ヒト」に進化してから巨大化した部分で、知的活動の中核だと言われています。「ワーキングメモリー」、つまり何らかの知的な作業をしている間に記憶を保つ能力ですね。

たとえば、認知症のスクリーニングテスト(ふるい分け検査)では、単語の暗記、簡単な計算、単語の逆さ読みをします。それぞれ、脳で違うメモをし、多重に入れ子状に使っていくわけですが、「ぷよぷよ」もそれと同じです。

「次はこう落ちてくるから、こういう戦略をとるべき」というように、脳活動を非常に速やかに行っています。頭頂連合野も同じように、ワーキングメモリーとして情報を短時間記憶し、処理する機能をつかさどっていて、特に空間認知に関わってきます。

ぷよぷよが落ちてきた時、「回転させるとどうなるかな」と考える。ぷよぷよは前頭前野と頭頂連合野をよく使うので、ワーキングメモリーと空間認知に関わってくるのです。

――プレー中のどのタイミングが特に活性化しましたか?

まずスタート直後は、おおむね誰でも活性化しています。それから、厳しい状況下では絶対に活性化する。難易度が上がったり、戦略的にどういう組み合わせがいいかを考えたりしている時ですね。

逆に、手慣れてきたときは沈静化します。だから、1人よりも2人の方が活性化する。

2人でプレーするとつい、「勝ってやろう!」と思いますよね。

やる気スイッチを押す役目も

――やる気も出るそうですね。

やる気というのは、線条体という部位の活動に関わっています。腹側線条体というところに快感中枢があって、行動と快感を結びつけています。何らかの行動をすると快感が得られた、ということが繰り返されると、「これをやったらいいことが起きそう」という「予感」が成立する。

それがおそらく、やる気の正体だと考えられています。ゲームの特に素晴らしいところは、線条体の活動が担保されることです。線条体の活性化が起きるので、それがやる気のスイッチになる。

その時、ドーパミンの活動が増してきます。するとスキルアップが起きやすくなる。ただ、悲しいことに、いくら「ぷよぷよ」をやっていても、微積分ができるようにはならない(笑)。それはまた別途、ゲームを餌にして、学習する必要が出てきます。

――他のことの学習にも役立つのでしょうか?

「ぷよぷよ」のように短い時間でスキルアップするゲームは、学習モデルになりやすい。どうやればスキルが上がったかが、短期モデルで獲得しやすいんです。英語や数学などの勉強をやる時の「メタ認知」(自身の認知を客観的に見る)モデルになりやすいと言えます。

たとえば、これからバスケットボールについて学ぶとしましょう。とりあえず、無意識でドリブルができるようにならないといけない。次の技を使うにはどうしたらいいだろうか。

そうした感覚は「ぷよぷよ」でも得られるんです。

ただし、メタ認知がかかっていることを教える人がいないといけません。もしくは、自分でそれに気がつかなきゃいけない。「俺はゲームから人生を学んだ」と言うような人は大概それが分かっています。普通は、「ぷよぷよ」で獲得した世界観をバスケットのトレーニングに役立たせようとは思わないですが、実は構造的には同じなんです。

――eスポーツのように、自分がプレーするのではなく、観戦することでも脳は活性化しますか?

観戦するだけでも、のめり込みは起きるでしょう。人の脳にはミラーニューロン(他人の行動を自分の脳内で同じように写す神経細胞)があって、目の前にいる人の動作や意図を写し取ることで、その人と同じような脳活動が出やすいんです。ゲームを見ているだけでも、脳は活性化し得ると考えられるでしょうね。