JFA専務理事が描くeスポーツ・サッカーの未来予想図「化けることを確信している」

日本サッカー協会(JFA)は4月、サッカーe日本代表を選出しました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、世界大会が中止となるなか、代表選手はリモートの環境で活動しています。キンコーズ・ジャパンやドミノ・ピザ・ジャパンなどで経営者として活躍した後、JFAの専務理事となった須原清貴さん(54)に、担当するe日本代表への思いなどを聞きました。※インタビューはオンラインで実施しました。
日本サッカー協会(JFA)は4月、サッカーe日本代表を選出しました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、世界大会が中止となるなか、代表選手はリモートの環境で活動しています。キンコーズ・ジャパンやドミノ・ピザ・ジャパンなどで経営者として活躍した後、JFAの専務理事となった須原清貴さん(54)に、担当するe日本代表への思いなどを聞きました。※インタビューはオンラインで実施しました。
――異色の経歴です。JFAに転身する決め手になったことは何でしょう?
まず一つは、田嶋幸三・JFA会長から複数回に渡って誘ってもらったというのが大きかったです。1回目に誘ってもらったときには僕の中で気持ちの整理がつかず、まだ商売人としての自分の人生・キャリアに正直言って未練がたくさんありましてね。今はまだそのタイミングではありませんと申し上げました。
ところが、田嶋が2期目も続投になったときにもう1回、来いと言われたときには、さすがに断れんだろうというのがありました。やはり田嶋幸三にこのポジションで2回誘われたというのは大きなメッセージなので。
もう一つ、自分自身はサッカーのプレーヤー経験はないのですが、子どもがサッカーを始めたときから地元のサッカー少年団のいろんなコミュニティーに参加させてもらいました。審判員としても活動させてもらって、自分の中ですごく人生が豊かになったんですね。
仕事のスランプがたくさんあった時期だったのですが、土曜、日曜にグラウンドに行けば、そこには少年サッカーの仲間がいて、審判仲間がいて。グラウンドを離れた後も、みんなで家族で集まって、飲んで騒いで。
そういったことで、僕はサッカーそのものに恩があって、どうやって恩返しできるんだろうとずっと考えていました。どういう形であれ、草の根で活動を続けることがもちろん一番重要な恩返しなのですが、田嶋からチャンスをもらえるのだったら、もっと違うところでの恩返しが出来るなという気持ちはありました。
――2018年3月に専務理事に就任されてからこの2年と少しの間に一番注力されたことは何でしょう?
情けなく聞こえるかもしれませんが、本音で言いますと、もうキャッチアップするので必死でした。ビジネスの世界ではどこに行っても、マーケットの風景とか業種や業態の風景とか、だいたい12カ月でほぼ見えるんです。
遅くとも13カ月目からは自信を持って意思決定が出来て、何が起きてもすべて自分の責任という状態を作り出せるのですが、この世界は12カ月では収まらないんです。
昨年、一昨年のこの時期に起きていたことと、今回はコロナもあるので余計に違うのですが、仮にコロナがなかったとしても全然違う風景が来るんですよ。やはり4年サイクルで動いているんですよね、この世界は。ワールドカップがありますから。
4年回さないと、でっち奉公が終わらないんですよ(笑)。ですので、ストレートにお答えしますと、学ぶのに必死で、まだそのプロセスが続いています。
心がけてきたことはあります。田嶋はフットボールのプロフェッショナルなので、技術領域やサッカーの本丸のところはとにかく田嶋がやりたいことをやらせてあげる。今なら森保一・日本代表監督が、反町康治・日本サッカー協会技術委員長がやりたいことをやらせてあげる。
僕は審判員としてほんの少しだけかじった程度ですから、サッカーに対する愛はありますが、知識や技術はないわけですよね。そこは割り切って、どうやったら彼らにやりたい状況を提供できるかを必死に考えてきました。
そのうえで、ビジネス領域でしっかり支えるというのが僕に期待されていたことだと思うんです。ビジネス領域の中で何を回していけば良いステージを提供できるかというと、お金の話と、それからFIFA(国際サッカー連盟)、AFC(アジアサッカー連盟)とのいろいろな連係です。FIFA、AFCとの技術やサッカーの本丸のところの連係もありますが、お金周りの連係は重要なので、そこは相当しっかり向き合えるように頑張ってきたつもりです。
あとは国内のスポンサーさんとしっかり向き合って信頼を勝ち取ること。JFAとつきあっていると面白いことがあるんだ、須原と一緒に仕事してると何かワクワクすることがあるんだ、みたいなお声を少しでも聞かせて頂けるように、コミュニケーション、提案を続けてきたつもりです。うまくいっているかどうかは分からないんですけど(笑)。
――昨年12月にe日本代表の創設を発表されました。eスポーツの世界に入っていく狙いや期待はどこにあったのでしょうか?
こういう質問を受けたときは、こういう戦略があって思いがあって意思決定をした、とお答えできればすごく格好いいんですけど、必ずしもそればかりではないんですね(笑)。
一番最初はFIFAが世界大会をやり始めた。eW杯をやっていたわけですが、そこに24カ国が参加する2人編成の国別対抗戦「FIFA eネーションズカップ2020」を入れてきたので、国の代表を出さなくてはいけない、出るというチャンスが出てきた。
これは大きなきっかけでしたね。アジアを代表する日本ですので、代表を出さなくてはいけない義務がある、というところから考え始めました。
――そのeネーションズカップも中止になりました。コロナウイルスの影響で、当初描いていた活動とは異なるのでは。今の状況をどう考えていらっしゃいますか?
やっぱり悔しいですよね。eネーションズカップへ代表を送り込む準備は出来て、日本でも国内予選を準備して、会場も用意して日程も決めていただけに、まあ本当に悔しい限りです。
でも一方で、eスポーツ・サッカーがあったおかげで、自粛期間中に僕らはいろんなことが出来たんですよ、追加で。それはものすごく大きな収穫であり、メリットでした。eスポーツ・サッカーがあったおかげで、e日本代表がいてくれたおかげでいろんな面白さをサッカーファミリーのみなさんにお届けすることが出来たというのは副産物として大きかったですね。
――e日本代表のお二人も、かえってチャンスと前向きでした。逆にやれたことが多かったわけですね。
4つの国・地域対抗で国際親善試合をやらせてもらったときも、岡崎慎司選手とWeb Nasri選手がペアを組んで出場してくれて。本当はFIFAのイベントだったのに、当日の朝だったか前日の夜だったか突然、FIFAがテクニカルな問題でと言って中止してしまった。
やめなきゃいけないの、と言っていたら、スタッフたちが頑張ってくれて、それぞれの国とババっと話をしてくれて、親善試合をしようと動いてくれて。裏で彼らはものすごく苦労してくれたんですけど、お客さんからしたらたぶん何事もなかったかのように、オンラインで試合をお届けすることが出来ました。
4月はライブがなかったんですよ、スポーツに。eスポーツであってもライブでお届け出来たというのは、ものすごく大きいことだったと思います。あんなにエキサイトできた久しぶりの瞬間で、eスポーツ・サッカー、e日本代表を持っていなければできなかったことで。そんなことが他にもたくさんありました。
スポーツ界が少しずつ正常に戻るなかで、無観客からスタートして、お客さんは入れるけれども完全な満席にする状態って、相当な期間は来ないと思うんです。でもeスポーツは大丈夫なんです。
確かに会場を用意して、いろんなデコレーションをして盛り上げるという従来型はできなくなっています。けれども、オンラインにしかできないいろんなプロモーションやデコレーションがあります。オンラインだからこそできるんです。これはチャンスですよね。面白いことが待っていると思います。
――スポーツの選択肢が増え、一方で人口は減少しています。eスポーツに限らず、サッカーという視点で考えたときに裾野を広げるために何が必要ですか?
サッカーの競技人口が残念ながら下降傾向にあるというデータはあります。でも、そのデータの定義は何なのかというと、JFAの登録制度です。選手、指導者、審判の登録なのですが、登録制度が定義や設定の仕方があまりにも狭すぎる、というのが非常に大きなポイントになっていると思います。
今、一定のお金を支払って登録して頂いています。お金を支払って頂くことで何ができるのか、どういうメリットを登録者に対して提供できるのか、というときに誤解されて伝わっています。我々のコミュニケーションも悪かったのですが、公式戦に出るためには登録していなければならない、公式戦で笛を吹くためには審判員として登録していなければならない、という形で認識されてしまっているんです。
そうじゃないんです。登録して頂くことによって、我々JFAとお一人お一人がつながることができるんですね。つながることで我々はいろんなサービスを提供することができます。公式戦に出て頂くこともサービスの一つなのですが、情報を提供するとか、何かディスカウントのチャンスを提供するとか、イベントに招待するとか、登録して頂けるとできるんです。
もう登録という概念そのものを根本的に変えていく必要があると考えています。例えば公式戦には出ないんだけれどフットサルを草サッカーで楽しくやっておられる方、登録はしていないけれど登録した選手を応援されているファン、サポーター、ご父兄のみなさん、そういった方々とも一緒につながれるようなものを我々用意しなくてはならないと思っています。
そうすることでサッカーの楽しみ方の幅を広げるんですね。プレーをすること、教えること、審判をすることもすごく楽しみなことなのですが、その周辺で支えてくださっている方、応援してくださっている方、見て楽しんでくださっている方、そういう方々にもメンバーシップのような形で登録して頂く。そのとき登録料なんて頂くつもりは全くありません。
その中でeスポーツ・サッカーはどういう位置づけになってくるのか。eスポーツ・サッカーは、いろんな人たちがお気軽に楽しめるものだと思っているんです。
ボールを蹴ったことありません、という人たちがeスポーツ・サッカーに触れて頂くことは大歓迎なんです。それもサッカーに親しんで頂けるということなので。仲間になりましょうよ、つながっていきましょうよという観点の中で広げていく。
そういう人たちまでメンバーシップ制度を広げていくと、僕はサッカー人口って増えていると思っているんです。絶対に減っていないです。人口は減っているかもしれませんが、サッカー人口はそういう見方をすると絶対に減っていないと思います。そういう形で統計をとってみなさんに出していきたいと思います。
――eスポーツ・サッカーの可能性について、どう感じていらっしゃいますか?
分からないです。これからどういうふうに化けるのか。でも、絶対に化けます。化けることだけは確信しています。ただ、どっちの方向にどういうふうに化けるかというのは、特に僕のようなオヤジで頭の硬い人間には想像ができないです。
ですから、邪魔しないように追いかけていきたいと思います。見えないからやらないんじゃなくて、見えないけど面白そうだからやる、という発想でいます。
FIFAがコミットしてるのは間違いないのですが、じゃあリアルのW杯のように10年後、20年後になるのかというと、違う形になると思うんです。ああいう形ではなく、全然違う形でeスポーツって広がっていくのではないかと。
リアルのサッカーで培ってきたノウハウ、プロセスで行くと、まず大会を用意するんですよ。どんなスポーツでもそうだと思うのですが、大会を用意するから大会を目指してやる人たちがどんどん出てきて裾野が広がっていく、結果としてトップの力が上がって世界で活躍できるような実力になっていく、だからまず大会を作るというのがスポーツの伝統的なアプローチじゃないですか。このアプローチは否定しません。
けれども、じゃあ大会の定義ってどうなのか。リアルに今までは公式戦を作るわけですよ、JFA公認の試合と。格好いいわけです。優勝するとJFAの3本足の鳥のロゴが入ったカップがもらえるわけです。でも、eスポーツ・サッカーって、それが本当に格好いいのかなと思うんです。
fantom選手、Web Nasri選手は人間的にも非常に好感を持てて、こんなおっさんでも素直に応援できるのですが、彼らのような人たちだけがあるべき選手像なのかなという思いがあります。ひょっとしたら学校の先生が「えー?」と思うような子たちも、eスポーツ・サッカーだったらもっと楽しく仲間になれるんじゃないの、と思ったときに、そういった子たちもターゲットに入れるとどんな形でやれるのか、と手探りでやっていった方がいいと思います。
――e日本代表の今後の活動について、考えていることを教えてください。
e日本代表として活躍して頂くフィールドが必要です。それは国際大会、国際イベントです。そういったイベントをしっかり展開できるようにFIFA、AFCを僕らがサポートしていかなければなりません。国際大会を作り、企画がちゃんと回って、準備をしていく。それを一つの王道として考えています。
そのために彼らの活動を僕らは支援してく必要があります。例えば、Web Nasri選手が所属する鹿島アントラーズがクラブとしてサポートする仕組みを用意してくれているのと同じように、JFAも支援していく。
お金の面もそうですし、メディカル面、コンディショニング面などでも。我々は今までリアルで培ったノウハウがありますから。もっともっと注目を浴びていった方がいいと思うので、そういったプロモーションを仕込んでいく、というのを我々はやりたいと思っています。
彼らが一人のプレーヤーとして成績・パフォーマンスを上げていくための支援でもあるのですが、もう一つ、彼らはeスポーツ界のリーダーにならなければいけないと思っています。プレーヤーとして結果を残していくということもそうなのですが、eスポーツ界の先駆者として開拓者としてリーダーになってもらう。リーダーになってもらうためのサポートもやっていきたいと思います。
例えば彼らが草の根の選手たち、愛好者を指導できる場ですとか、そういうイベントや企画を用意してあげたい。ああやってFIFAの大会に出て活躍して、メディアからも注目を浴びて、お金も稼げて。あんな人になってみたい、と思われてほしい。
例えばfantom選手のレクチャーを受けている人に、あんなにすごいプレーヤーになれないかもしれないけれど、あんな格好いい大人になってみたいなと思われるような人物に彼らにはなってほしいんですよ。そういったステージを彼らにも用意していきます。いろんな方向性でe日本代表が成長していってもらえるように支援したいなと思っています。
1966年生まれ、岐阜県出身。慶大法学部卒業後、住友商事、ボストンコンサルティンググループ東京事務所などを経て、2009年にキンコーズ・ジャパン代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。その後、ドミノ・ピザジャパン代表取締役兼最高執行責任者(COO)などを経て、18年3月に日本サッカー協会専務理事に就く。アジアサッカー連盟競技会委員会委員。
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