――2017年にAR技術を用いたエンターテイメントを企画・開発する株式会社ENDROLLを立ち上げられました。

会社を作るときにコンセプトとして掲げたのは、「村人Aに魂を吹き込む」ということです。いま何となく日々を過ごしてしまっている人たちが、心の底から自分が主人公だと思える生活を作りたくて。そのうえで世の中の仕組みをゲーミフィケーションしていく、そんな事業をやりたいと。一つ目のアプローチとして現実のインターフェイスをゲームっぽく書き換える、というのをまずやろうと思ってARをやったって感じですね。

――では、そこにたどり着くまでを振り返っていただきたいと思います。まずは、ご出身はどちらでしょうか。

広島県です 。でも、ホークスファンです(笑)。ずっと野球をやっていたのですが、ポジションがキャッチャーで。そのときホークスの城島選手が全盛だったので。誕生日にセ・パ交流戦でカープとホークスの試合を見に行って、「いやー、この選手かっこいい」って。

――小さい頃はどんなお子さんだったのですか?

初めて聞かれたなあ(笑)。父親が自営業を営んでいて、家庭にパソコンがあったことも含めて、外で明るく運動をして楽しむというより、どちらかというと部屋でパソコンを触ってという方でした。いろんなことをできるだけ自分で決めるように、という方針の家庭で、かなり自由に育ちました。お小遣いを稼ぐためのモデルを父親に提案するとか、そういうこともしていましたね。

――では、ゲームと出会われるのも早かったのですか?

たぶん3歳くらいでスーファミに。僕、親指がめちゃめちゃ平べったいんですよ。これはおそらく、コントローラーに最適化されたんだろうなと思っています(笑)。

――最初に遊んだソフトは?

「ぷよぷよ」と「魔界村」でしたかね。今でも覚えているのが、5歳くらいのときに、そんなもの存在しないのですが 、「魔界村2」が欲しい、って言い張って。クリスマスにサンタクロースに手紙を書くじゃないですか。必死に覚えかけの字で「まかいむら」って書いていたと思います。

――本格的にゲームを始めたのは、いつごろですか?

中学1、2年生のときだと思います。オンラインゲームのはしりだったと思うのですが、最近終了しちゃいましたけど「サドンアタック」というFPSのオープンベータの案内でやってみて。僕は全部のゲームを自分の本名でプレーするんですね。前元の「もと」がちょっと珍しいこともあって、プレーしていたら、たまたま中学の友達から「前元」って声をかけられたんです。そのときに、こういうバーチャルな中でこういうコミュニティーがあるって、すごく非日常的な体験として面白いと思って、そこからのめり込んでいった感じです。

――大学ではNPO活動をされたのですね。

高校生のときにひたすらにゲームをやってきて、受験とかでいわゆる引退をするじゃないですか。ネットのなかに多くのコミュニティを持っていたので、引退するというといろんなネットの友達から家に手紙が届いたりとか、メールが届いたりとか、「またやろうね」という話が来るわけですよ。それって美しいなと思いつつ、後に思ったのが、こういう素敵なコミュニティーが僕はネットの世界にしかなくて。もちろん学校にも友達はいたのですが、僕はネットの友達の方が好きだったんですよ。

何で現実世界だとうまくできないんだろうというモヤモヤを持ったというのが前提にあって。そこから大学に進学して、大学生活をゲームみたいに攻略してみたいな、って思ったんです。その結果、どこの大学も似たようなものだと思うのですけど、先輩から過去問をいかにもらうか、というのがあって。新歓を30くらい一気に回って、一番最後に出会ったのが、NPO法人のAIESECという組織だったのです。

僕は、ゲーム的に大学生活はやろうという感じの、ちょっと自分賢いでしょ、いけてるでしょ、という痛いヤツだったわけです。その痛いヤツを先輩方がとっつかまえて、「何で来たの?」と。いやなんか、先輩とコネクション作るのが勝負じゃないですかー、みたいなこと言ったら、「さみしい人生送ってんな」と言われたわけですね。正直、何をやってる団体なんだか一切分からなかったんですけど、それを言われたのがすごく悔しくて。とりあえずこの組織に入ってみようと思ったのが、始めの小さなきっかけです。

AIESECというのは日本だけじゃなくて、世界にある学生NPO法人で、120カ国以上に支部があるのですが、そのなかに日本支部があり、日本支部の中にまた大学25の委員会が入っている結構大きい組織なんです。日本の学生を海外のNPO、NGO、企業でインターンをさせるための斡旋だったり、海外の学生を日本で受け入れるための斡旋だったり。僕はそのなかで法人営業部みたいなところにいて、1、2年はがっつり法人営業をし、そのあと自分の大学の委員会の委員長をして、最後AIESEC in Japanの副代表を務めて。大学は中退してるんですけど、その後に就職をしたという感じです。

――いったん就職されて、その後に起業されるわけですが、そのきっかけは?

僕の意思決定の基準は過去も含めて一貫していて、いかにしてこの人生をゲームのように楽しむか、なのです。しかし、AIESECの活動や就職した会社でVR関係の経験をして思ったことは、いかにいいゲームをつくるとか、面白いゲームを作るかとか、自分がゲームのように楽しむか、というよりも、世の中の仕組み自体をゲームのように書き換える、ゲーミフィケーションしていくというところに本質的に価値はあるな、と。

これまでの人生、なんだかんだゲームの主人公のように楽しめてきたとは思っているのですけど、一方で自分もまだまだだし、資本主義というルール のなかで心から楽しめる人って少ないなって感じてはいて。世の中の生き方とか生活のありかた自体をゲームの主人公のようにそもそもできないかという着想をずっと心の中で思っていました。

一番新しい日が一番楽しい

ENDROLLの前元健志さん

――ところで、これまでの人生で一番つらかったことは何でしょうか?

中学3年生のときに母親を病気で亡くしているんですけど、そのときに苦しいなと思ったことが、母の他界ということ以上に母親の遺書のなかで「あなたは物書きとして向いているからジャーナリストを目指して」と書いてあったんですね。家庭のなかでそういうことを言っていたんです。

でも母親の遺書の締めくくりが、「でも、もちろん今後の人生でもっとやりたいことを見つけたときはそっちの道を行ってください」と書いてあったんですけど、そのときにジャーナリストに心の底から強くなりたいという気持ちも、かといってこれがやりたいという気持ちもなかったということがすごく自分のなかに残っていて。何となく生きるとか何となく楽しいことを目指すではなくて、自分のやりたいことは何なんだということを問い続けないといけないなと思ったし、そうありたいなと思ったきっかけがそれでした。

――中学生なのに深いですね。

ある意味、シンプルですよ。母親にやりたいことはって言われて、やりたいことないなって思っちゃった、というのが一番はじめで。家庭環境的にも自分で決めろ、でしたし。中学高校がちょっと変わっているところで、中学のとき授業を英語で行ったりとか、生徒自身が授業を行ったりとか、そういう主体性を求められる学校にいたこともあって、たぶん自分の思考的に大人になるのがほかの学生にくらべて早かったんだと思います。

学校に行けてない時期が人生のなかであって、そのときはやりたいことないなと思ったときに、親族とか身の回りの偉いと言われている人をみたときに、高学歴でちゃんとした大学に行ってちゃんとした仕事に就いて、でもその人たち は必ずしも楽しそうじゃないなと思っちゃったんです。だとしたら受験のために頑張ろうって言われてるのとか意味あるのかなと思って。そのときに僕がやりたいこととか、一緒にいたい仲間はゲームの中にいたこともあったので、だとしたら僕はこっちの生活を選ぼうって思ったのが高校1年生の時期です。

――その経験はしっかり生きているように見えます。つらいはずだったことがプラスに働いたのですね。

僕は基本的にものすごく楽天家なので。もちろん何かにへこむこととか、そういうのもたくさんあるんですけれども、それ以上に、それを踏まえた上でじゃあ自分がどういう生き方をしようかとか、周りにどうふるまおうかというふうにはしていると思います。

――逆に一番の喜び、うれしかったことは?

一つ一つに区切ると、楽しい出来事、記憶に残っていることはたくさんあって、それこそFPSの大会で予選を勝ち上がっていったときもうれしかったし、ゲームをやめるときにみんなから手紙をもらったこともうれしかったし。AIESECという組織のなかで頼りないリーダーだったですけど支えてもらいながら成果を出したのもうれしかったです。もちろんいま、ENDROLLでの日々もすごく楽しいんですが、僕はたぶん結果よりも変わり続ける毎日の非連続な過程がとても好きなんです。

ENDROLLはかなりはちゃめちゃな会社なので、毎日のように事件が起こり毎日のように成長し、を繰り返しているんですけれども、そういう日々の連続がすべて等しく好きな体験です。強いて言うならなんだろう。基本的にはENDROLLの一番新しい日が一番楽しいつもりだし、そういうふうにやりたいなと思ってやっています。ちょっと格好つけすぎかな(笑)。

――新作「ガラパゴスの微振動」の制作にあたり、クラウドファンディングを実施されましたが、3日で目標額を達成されました。これにはどんな感想をお持ちですか?

クラウドファンディング額は370万円なんですけど、支援してくれた人数が430人いて。 何回、僕らのクラウドファンディングのサイトを読み返したとしてもどんなゲームか一切分からないんです。何となくこういうストーリー、こういうコンセプトなんだろうなという部分はツイッターの反響を見ても通じてると思いますけど、ゲームとしてどういう形をとっているのかとか、どういうシステムのものなのかは分かりません。そのなかでこれだけ大きな反響をいただいているというのは、自分たちの作ってるコンセプトや、それを伝えるビジュアルが評価を受けているからだと理解しています。

今、社会的な意味としてコロナで人との交流がなくなってしまっている。僕たちはゲームの世界の実在感をきわめて高いものにすることによってゲームを通じて人に貢献できたという気持ちを伝えたい、これがまず一つ目です。実在感というキーワードが一つある。もう一つは物語の世界と現実を同期させること。その中の主人公になりたいとか、自分の世界自体にゲームの世界のようなドキドキ感ワクワク感が舞い込んできたら、という人の妄想があるんじゃないかというのが僕たちの仮説です。

それを感じられるような世の中にしたいという思いで始めた会社なので、そのコンセプトだけでこれだけ支援が集まっているということは素直にうれしく、かつ驚いていますね。まずはコンセプト部分でそれだけの共感を募れたことを誇らしく思っています。

コンセプトは「現実の世界をすべてゲーム化する」

ENDROLLの前元健志さん

――これからの夢、目標は?

僕たちの会社はこの現実の世界をすべてゲーム化するということ、をコンセプトにはじまった会社です。ちょっと分かりにくい表現になってしまいますが、じゃあゲーム化すると何がいいんだというと、シンプルによくゲームの力ってフロー理論とかそういう言葉で語られますが、連続的に集中しワクワクし、そういったサイクルのなかで人生を楽しめるという部分があると思います。

でもそれ以上に僕たちは現実の世界の中に、例えば僕たちの作ったゲームAのレイヤー、ゲームBのレイヤーって、ARの力で見えているもののスイッチを切り替えることができるので、現実にたくさんのゲーム世界を重ねていって、それをユーザーさんが自由に選択できる世界を目指そうとしてるんですね。今っていろんなものが個別化してる、個の力がすごく強くなっている時代じゃないですか。一方で僕たち が身を置いてる世の中のルールって画一的だと思うんです。

たいそうなことを言うと資本主義みたいな話になってきますし、小さい話をすると、やっぱり顔がかっこいいヤツがいけてるとか、お金持ってるのがかっこいい、仕事できるのが運動神経いいのが偉い、とか。これってこの100年間くらい変わらない価値観じゃないですか。何がいいとされてる、何をいいと感じるのって、それこそ人によって違うはず。なのに世の中のルールが決めてる事って狭いこと、っていうのが僕はよくないなと思っているので、ゲームの世界を通じて、僕はこれが是とされる世界に生きていくというふうに、世の中の選択を個人ができるようにするという像を作りたいんです。

いまはその壮大な夢に対して本当に一歩目も踏み出せていないような状況なんですけど、そういう社会に向けてゲーム化できる場所の広さと時間面積、それを増やしていくというのが基本的なロードマップです。なので「ガラパゴスの微振動」は家の中の7日間をゲーム化するプロジェクトなんですけど、このゲーム化できる場所をアフターコロナに向けて、いまは家の中だけだけど、生活しているすべての時間が書き換わるように。次は7日間じゃなく1カ月、1年、っていうように増やしていこうと思っています。なので僕たちはあくまでのこの現実世界全体とそこにある時間をターゲットにしたときに、そのうちの何%をゲーム化できているんだろうかという問いとともに成長していこうと思っています。

――小さいころのことから、ずっとつながっているのですね。

僕はずっとゲームに救われてきた人生なので、本当にゲームの力を信じていて。NPOをやっているときも、AIESECって学生が活動するにあたって報酬がでるわけでは決してないんですよ。でも当時、国内で1800人のメンバーが意欲的に活動するっていう状態をつくるためには内的報酬の設計というか、人の心をどうやって喜ばそうという思考が強い団体で、結果としてAIESECの運営システムってゲームっぽいところが多いんですよ。

レベルアップのシステムだったりとか、権利の委譲の仕方だったりとか、評価のサイクルだったりとか、うまくゲームフィケーションされた団体だなと思っていて。僕がもともとゲームが好きだったというところから、AIESECを通じてゲームの力って現実にも応用できるじゃん、ということに気づいたわけですね。だからこそ、それを事業にしたいと思ったのがいままでの流れかなと思っています。

「ガラパゴスの微振動」について、何にこだわって作っているのかというと、重要なのは物語の実在感です。実在感をどう高めるかをとても大切にした作品です。その結果、特徴的なゲームシステムがいくつか出てきています。ストーリーは、現在2020年にバタフライレスキューという、人の過去を編集することによって今のあり方、歴史を変えるのを目的にし、過去を変えることで現在の人助けをやる謎の組織があります。

その組織にタイムエディターと呼ばれる過去を編集する協力者として選ばれたプレーヤーが、15年前とつながって15年前の世界を書き換えていくという物語です。そのなかで実在感をどうやってもたせるかという話なんですが、結論から言いますとアプリの中、スマホの中におさまっているアプリの中だけで体験をおさめていません。

ユーザーさんはアプリを遊ぶうえで、まずAmazonでタイムエディターになるための資格としてのカードを購入します。そのカードと連係させることでアプリが起動します。アプリを進めていくと、今度はアプリの進捗具合とLINEアカウントが連係して、バタフライレスキューのLINEアカウントから自分に通知とかメッセージが来るんです。

アプリのなかの演出じゃなくて、自分に本当に電話がかかってくるみたいな演出も含まれていたりします。アプリの中だけにとどまっていたらこのディスプレーだけの体験だなと人が思ってしまうところを、実在するあらゆるメディアと連動することによって実在感を増すというところに注力した作品です。

――「ガラパゴスの微振動」のテーマは過去を変える。前元さんは、実は過去を変えたい部分があるのでしょうか?

もちろん、変えたいところなんていっぱいありますよ。サクセスしてると思ってる人生ではないので。「ガラパゴスの微振動」のメインキャラクターは高校生活のなかで本当に目立たない空気のようなモブ、っていう設定なんですね。彼が最後の文化祭において主役級の活躍をするための手助けをするっていうのが「ガラパゴスの微振動」なんですよ。

僕のなかで、かなり独りよがりな人生を歩んできたなって思いがあって、結構自分がゲームの主人公のようにと生きてきたので、あんまり周りへの配慮をしてこられなかったりとか、そういう部分は今も後悔を抱きながら生きています。

僕はこのキャラクターの設定をみんなと考えるときに、クラスのなかだとあの子だなとか、あの子ももしかしたらこういう気持ちがあったのかなとか、あのときに何で僕は傍観者を決め込んでしまったんだろうとか、そういう感情をたくさん持ってはいます。僕だけの話じゃなくて、たぶんユーザーのみなさんにもあると思っていて、「ガラパゴスの微振動」 はかつての自分を投影することもできるし、かつての自分が見過ごしてしまったクラスの友達のことを想像してもプレーすることができるっていうような作品かなと思います。

前元健志さん

まえもと・たけし 特定非営利活動法人AIESEC in Japan事務局次長として、組織開発および国内各支部の経営コンサル業務に従事。その後大学を中退し、WebVRのコンテンツ制作を手がけるベンチャー企業ににジョイン。歴代最年少部長職として新規事業開発を担当した後、ENDROLLを創業。