アメリカの格闘ゲームシーンを代表する一人、ジャスティン・ウォン選手(34)。

2016年には格闘ゲームの世界大会「EVO」での優勝回数が最も多いプレーヤーとして、ギネス世界記録を受賞しています。格闘ゲームシーンきっての成功者であるジャスティン選手(@JWonggg)に、EVOの変化や格ゲーコミュニティーについて聞きました。

※このインタビューは「EVO 2019」時の取材をもとに、「EVO 2020」の中止などを受けて追加取材を行ったものです。

コミュニティーが大きくなるのは、少し怖いけど嬉しい

――「EVO」の出場は何回を数えていますか?

全部です。「EVO」の前身である「Battle by the Bay」の初回から「EVO 2019」までの21大会、全てに出場しています。

――ジャスティン選手の目から見て、「EVO」はどう変わりましたか?

最初から比べたら、「EVO」は色々な面で変わりました。最初は大学の体育館でやっていたのが、今ではラスベガスの高級ホテルですからね。プレーヤーだけでなく企業もたくさん参入してきているし、何より世界中の格闘ゲームファンが一堂に会する場となりました。

――「EVO」が大きくなることは嬉しいですか?

もちろん嬉しいです。昔から切磋琢磨してきた仲間たちが、「EVO」のような舞台のおかげでゲームを仕事にできているわけですから。

ただ個人的には、「EVO」が大きくなることに対して寂しさもあります。というのも、純粋に「EVOを楽しむ」ことができなくなってきているんです。僕にとって「EVO」は同窓会のような場でもあって、アーケード時代からの仲間たちと再会して、思い出話をするのをいつも楽しみにしているんです。

しかし最近ではスポンサーのお仕事やインタビューなどで忙しく、昔のように自由にはできなくなってしまいました。「EVO」はもともとアーケード文化から始まった大会なので、大きくなるにつれてその雰囲気が失われてしまうのは少し寂しいです。

EVOが大きくなることについて、少し寂しそうな表情を見せる(撮影・佐島蒼太)

――ファンの方々への対応も大変そうですね。

会場では30秒に1度くらいの頻度で呼び止められて、ファンの方々の写真撮影やサインに対応しています。大変ですが、応援してくれるファンの方々は大切にしていきたいと思っています。

中には国を超えて僕に会いに来てくれる方もいて、とても励みになります。

――「EVO 2019」にはご自身が参加するだけでなく、若手プレーヤーを招待されたそうですね。

はい、自費で「EVO 2019」に5人のプレーヤーを招待しました。「EVO」のような大きい大会となると、結果を残せるプレーヤーは限られてきますが、世界には無名でも才能のあるプレーヤーが沢山いるんです。

そういった才能あるプレーヤーたちに、大舞台での試合を経験してほしいんです。もちろん結果を残してスポンサーを獲得できればベストですが、それが叶わなくても「EVO」で戦った経験は確実に彼らを成長させてくれます。若手プレーヤーを育成することは、コミュニティーの未来への投資でもあります。同じプレーヤーばかり強くてもつまらないですからね。

――若手プレーヤーはどのようにして発掘するのですか?

支援するプレーヤーは全て自分で決めて、自分からアプローチしています。僕は配信をよく見ているので、やる気のあるプレーヤーならどんなに無名でも知っているんです。ゲームが上手いだけでなく、eスポーツ業界で生きていく意欲のあるプレーヤーを選ぶようにしています。

家庭を持ち、コミュニティーに対する姿勢も変わった

子供が生まれて、選手生活に対する考え方も変わったという(撮影・佐島蒼太)

――19年1月には娘さんが誕生されました。ジャスティン選手にとってどのような存在ですか?

とても愛おしいです。大会で遠出することなどがあると、すぐ恋しくなってしまいます。

子供が欲しいと思い始めたのは26歳のころでした。小さい頃から祖母に「いずれは家庭をもってほしい」と言われていて、その意識はずっとあったのですが、26歳ごろから急にファミリードラマで泣けるようになったんです。

――家庭を持ったことは競技者としての人生に影響するのでしょうか?

もちろんです。これまでは大会での成績にこだわってゲームをしてきましたが、その姿勢は時にストレスとなります。

家庭を持った今、必ずしもストイックな姿勢にこだわる必要はないと感じてきています。今はチームに属さず個人でスポンサーと契約しているので、比較的自由に活動していますし。大会への出場だけでなく、配信を通じてファンと交流する活動も重視しています。

ただ、格闘ゲームコミュニティーから離れることはありません。僕の居場所はここですからね。

――格闘ゲームにはどのようにして出会ったのでしょうか?

僕の家庭は一人親で、母親にはほとんど会ったことがありません。父親はいつも仕事で忙しくしていたので、僕の育ての親は祖母でした。10歳の時、祖母がニューヨークのアーケードに連れて行ってくれたんです。当時は「ストリートファイターII'」が流行っていて、そこで初めて格闘ゲームに触れました。

以来僕は格闘ゲームの虜になって、いつもアーケードで遊んでいました。その時の仲間たちは今でも皆格闘ゲームをやっています。

――ジャスティン選手にとって格闘ゲームコミュニティーはどのような存在ですか?

ファミリーのような存在で、僕に全てをくれました。友達、仕事、そして僕の家庭も、格闘ゲームコミュニティー無しでは手に入れられませんでした。格闘ゲームをやっていたことで祖母に孫の顔を見せることができたし、コミュニティーには本当に感謝しています。

これからは、精一杯コミュニティーに恩返しをしていきたいです。若手プレーヤーを支援したりするのは、その一環でもあります。格闘ゲームの素晴らしいところは、誰とでもコミュニケーションができることです。言葉の通じない外国の人とも、試合を通して分かり合えるし、仲間になれます。

だからこそコミュニティーは大事にしていきたし、より多くの人にこの感覚を味わってほしいです。

辛い時期だからこそ、コミュニティーに一丸となって欲しい

2020年7月にラスベガスで開幕予定だった世界最大級の格闘ゲーム大会「EVO 2020」は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中止に。代替イベントとして「EVO Online」が開催されることが5月に発表されました。新型コロナの影響を受けている格ゲーコミュニティーについて、ジャスティン・ウォン選手に追加で取材しました。

※記事公開後、「EVO Online」も開幕直前に中止となりました。

アメリカの格ゲーコミュニティーにも、新型コロナの影響は出ている(撮影・佐島蒼太)

――格闘ゲームコミュニティーにおける新型コロナウイルスの影響をどう見ていますか?

数々の大会やイベントが中止や延期となっています。これはコミュニティーにとって非常に辛いことです。プレーヤーのみならず、キャスターや大会運営者など色んな立場の人が、生活に苦しむようになってきました。

しかしそんな中、この状況に順応するような動きも出てきています。オンライン大会もかつてないほど盛り上がっていますし、個人配信に来てくれる視聴者も増えていると思います。辛い時期であり、この状況が早く終息することを願っていますが、同時に学ぶことも多いと思います。

自宅にいる時間が多い今だからこそ、皆がゲームで繋がり、コミュニティーで一丸となってこの状況を乗り越えたいですね。

ジャスティン・ウォン(Justin Wong)

1985年生まれ。アメリカのプロ格闘ゲーマー。「MARVEL VS. CAPCOM」や「ストリートファイター」シリーズなどで活躍しており、世界最大級の格ゲー大会「EVO」では計9回優勝している。EVO 2004で日本のウメハラ選手と繰り広げた「背水の逆転劇」や、アメリカで初めてプロeスポーツチーム所属の格闘ゲーマーとなったことなどでも有名。