新型コロナウイルスの感染拡大で、世界のモータースポーツが開催延期・中止に追い込まれているなか、フォーミュラ1(F1)は、eスポーツ大会に活路を見出そうとしています。

F1は世界最高峰のモータースポーツで、由緒ある世界選手権です。専用に開発されたレーシングマシンを有する10チームが、ランキング(ポイント制)1位を目指して、年間を通じて世界各国のサーキットを転戦する形で戦います。

サーキットでは開幕直前に中止

今年で開催70周年を迎えるF1ですが、実は記事執筆時点(2020年5月)では、今季はまだ1試合もレースを行えていません。

これは先述の通り、新型コロナウイルスの感染拡大によるもので、3月15日に決勝が行われる予定だった開幕戦オーストリアGPも、現地入りしたチーム(マクラーレン)から感染者が出たため、直前で中止されてしまいました。

F1を追いかけている筆者としては、この決定はかなりショックでした。関係者ならびに現地ファンの健康が最優先であり、F1がコロナウイルスの運び手となっては元も子もありません。しかし、その他のイベントが軒並み中止となるなか、ギリギリまで中止や延期の発表がされなかったこともあり、「もしかしたら開幕ぐらいは……」と一縷の望みを抱いていたのも事実です。

特に今年2020年は、本田技研工業(ホンダ)がエンジンを供給する「三強チーム」の一角、レッドブル・レーシングが、6連勝中の絶対王者メルセデスAMG F1に挑戦できる年と言われていただけに、落胆の気持ちは大きなものでした。

以前からeスポーツの取り組みも

さてeスポーツに話を戻しますと、実は今回の新型コロナ問題以前からF1は公式のeスポーツ大会「F1 eスポーツ・プロ・シリーズ(F1 Esports Pro Series)」を開催しています。

この大会の特長は何といっても「実際にF1で戦っているチーム」がeスポーツ部門を編成してエントリーしていること。つまり選手たちは、モータースポーツにおける名門中の名門チームの看板を背負って戦うのです。

「F1 eスポーツ・プロ・シリーズ」は2017年に初シーズンが開催され、以後は毎年大会が行われています。使用タイトルは、コードマスターズが開発を手掛けるF1公式ゲーム「F1」シリーズです。

大会の規模は例年拡大しており、2018年大会では、タイトルスポンサーにスポーツシューズメーカーのニューバランスが就任。加えて、20万ドル(約2,000万円)の高額な賞金総額が設定されました。

2019年にはさらに大会が大きくなり、賞金総額が50万ドル(約5,000万円)とより高額に。参戦を見合わせていたフェラーリが正式に参加表明し、全10チームがeスポーツでもしのぎを削ることになりました。

現時点での「F1 eスポーツ・プロ・シリーズ」参戦チームは、以下の通りです。

・フェラーリ(FDA Hublot Esports Team)
・メルセデス(Mercedes-AMG Petronas Esports)
・レッドブル(Red Bull Racing Esports Team)
・アルファロメオ(Alfa Romeo Racing F1 Esports Team)
・ハース(Haas F1 Esports Team)
・マクラーレン(McLaren Shadow)
・ルノー(Renault Sport Team Vitality)
・レーシングポイント(SportPesa Racing Point Esports)
・アルファタウリ・ホンダ(Toro Rosso Esports Team)(※)
・ウィリアムズ(Williams Esports)

※以前のチーム名はトロ・ロッソ

ただ、eスポーツ大会が盛況といっても、「リアルとバーチャル」の境界には明確な線引きが存在したのも事実です。大会で優勝しても、現実のF1チームにドライバーとしてスカウトされることはなく、また現役F1ドライバーもeスポーツ大会の表彰式などに参加はすれど、公式に選手の一人として出場することはありませんでした。

しかし、コロナウイルスの流行は、この「境界線」を一変させました。現実のレースがまったく行えない状況のなか、「F1のeスポーツに参戦する」と表明する現役ドライバーが続出。そしてF1側も、現役ドライバーが参加することを前提としたeスポーツ大会の組織を進めたのです。

現役選手も参加するというF1では異色のeスポーツ大会がどのように組織されていったのか。そしてF1eスポーツへの参加をいち早く表明したマクラーレン所属のドライバー、ランド・ノリス選手は何者なのか。そのあたりは次回のコラムで紹介したいと思います。